5-(19).日本神道における神の概念


 拙著でも少し触れましたが、当記事では、日本神道における神の概念、考え方について、説明をしておきたいと思います。


 日本神道において神は1+1=1であり、また、1=100でもあります。個と個は完全に独立した別個のものではなく、容易に別の個と融合するものであり、また、一つの個が無限の個に分かれることも可能です。

 哲学的で非常に分りにくいかもしれません。このような神の概念はよく炎に例えられますので、当記事でもそれにならい、ロウソクの炎を例にして説明したいと思います。

 まず、図のように、ロウソクの炎Aにもう一本、火のついていないロウソクを持って来て火をつけると、炎Aは2つになります。
<パターン1・増殖>
 これを繰り返すことにより、炎Aは無限に増殖することが可能です。

 このような観点で増殖した良い例が、穀物の神様である宇迦之御魂(うかのみたまの)神です。宇迦之御魂(うかのみたまの)神と言ってもピンとこないかも知れませんが、お稲荷さんと言えばピンとくるでしょう。

 宇迦之御魂(うかのみたまの)神を祀る稲荷社は全国に約32,000社あります。総本社は京都市の伏見稲荷大社ですが、ビルやデパートの屋上、工場の敷地内に社を作って祀られていることもあり、それらも含めれば、4〜5万社、もしくは、それ以上と言われています。

 日本最多の増殖数を誇る神と言えるでしょう。ちなみに、コンビニのセブン・イレブンの店舗数は12,349店(2009.6末現在)ですから、そのチェーン展開っぷりのすごさが伺い知れると言うものです。


 次に、下の図のように、炎Aと炎Bを合わせて、炎ABという新たな炎を作ることも可能です。
 この作業によって、新たな個性を持つ神を作り出すことも可能だと言えます。

<パターン2・融合>
 このパターンの良い例が東京九段の靖国神社です。

 靖国神社では、幕末から明治維新にかけて功のあった志士たちや、戊辰戦争以降の日本の国内外の事変・戦争で戦没した軍人、軍属など、約250万柱の人々の魂が靖国の大神として祀られています。
 どんなに多くであろうとも、一つの神として合祀し、まとめて祀ることが可能なわけです。

 ちなみに、一度、合祀したものは再び分けることは出来ません。炎ABを再び炎Aと炎Bに分けることは不可能だからです。


 なお、この<パターン2・融合>の観念が、日本神道の神々の正体を分かりにくくしている原因であり、また、裏を返せば、神々の正体を隠すのに役立ったと言えるでしょう。

 上の図で言えば、炎ABに対して新たに炎Cという名前を付けてしまえば、よっぽど、しっかりとその由緒が伝承されて行かない限り、時が経つとともに炎Cが炎Aと炎Bを合祀したものであることが分からなくなって、「炎Aや炎Bとは別個の炎Cという神がいる」と認識されることになります。

 ちなみに、この概念があるからこそ、拙著で指摘したように、「一人の神に複数の人物の役割を担わせて、それらの物語を演じさせる」ということが可能になったとも言えます。

 例えば古事記では、天孫降臨をしたアマテラスの孫のニニギが、イスラエル部族の父祖の一人であるヤコブと第11代垂仁天皇の役割を演じて物語を紡いでいます。
 これは、ニニギが「ヤコブ+垂仁天皇」という形で合祀された神の姿であるのですから、別に誤りでも何でもないわけです。


 また、ついでに言えば、一つの神がいろいろな名前で呼ばれているのも、神々の正体を分からなくしている原因の一つだと言えるでしょう。

 一つの個性が別の呼び方で呼ばれるのは人間でもよくあることです。例えば、山田太郎という人物がいた場合、「山田さん」、「太郎さん」、「山ちゃん」、「タロちゃん」などと呼ばたり、また、名前に限らず、それ以外の特性で呼ばれることもあります。例えば、役職で「課長」と呼ばれることもありますし、特技から「けん玉名人」と呼ばれることもあります。そして、他にも、顔の特徴や、出身地に関連するあだ名がついたりすることもあります。

 これらの呼び名は、知っていれば同一人物のことを指していると容易に分かるのですが、知らなければ別人物であると認識してしまいます。

 この手が古事記にも多様されていて、神々の正体を隠す為に、わざと別の呼び名で同一の神・人物を登場させています。

 ただし、隠しただけで、ヒントもちゃんと残してくれていますから、そのヒントで別の呼び名で登場している人物を結びつけて、より正確にその人物像や事績などを知ることができるわけです。






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