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核使用、戦争犯罪の疑い 赤十字委員長が見解表明 '10/4/21

 【ジュネーブ共同】赤十字国際委員会(ICRC)のケレンバーガー委員長は20日、ジュネーブの本部内で共同通信と会見し、核兵器の使用が「国際人道法に適合する状況を想像するのは難しい」と述べ、どんな状況でも核を使用すれば、戦時の国際法である国際人道法違反となり、戦争犯罪を構成する疑いが濃厚だとの見解を示した。

 ICRCが核兵器と人道法の関係についてまとまった見解を示すのは異例。委員長は「核軍縮が国際社会の最重要テーマに浮上し、核拡散防止条約(NPT)再検討会議を控えた今こそ好機」と見解表明の理由を説明。会見に先立ち、ジュネーブ駐在の各国外交団に核問題にテーマを絞った同趣旨の演説も行った。

 ICRCは、戦時の民間人保護を規定する国際人道法の維持、強化を使命としている。委員長は核使用について、国際法の諸原則などに「一般的に反する」とした1996年の国際司法裁判所の意見を尊重する立場から、国際人道法違反と断言することは避けた。

 委員長は、原爆が投下された広島に外国人医師としていち早く入り、人道支援活動を展開したICRCのジュノー博士の報告に言及。核軍縮は「純粋に政治的、(軍事)戦略上の議論ではなく、人類の将来に関するものだ」とし、核軍縮の議論に人道上の観点を忘れないよう強調した。

 ▽解説 「人道」の観点で核軍縮貢献狙う

 ケレンバーガーICRC委員長が、核兵器使用は「国際人道法違反」の疑いが濃厚であるとの見解を表明したのは、米ロが新たな戦略核削減条約に合意し、NPT再検討会議を控えた時期をとらえ、核軍縮・不拡散や核廃絶に向けた議論に国際人道機関として一定の影響力を持ちたいとの思惑がある。

 外交や軍事的な側面から語られることが多い核軍縮について、実際に核の使用がもたらす結果に光を当てることで、人道の観点から核軍縮の機運づくりに貢献しようという試みだ。

 委員長が重視したのは、被爆直後の広島で救援に当たったICRC代表団のジュノー博士の存在。この日の外交団向けの演説でも、相当部分を博士の業績に充てた。

 ただ、ICRCのこうした試みが、来月のNPT会議など交渉の現場で威力を発揮するかどうかは未知数だ。核兵器の持つ違法性を強調しすぎれば、広島、長崎への「加害責任」の追及を嫌う米国が不快感を示す恐れもあり、微妙なバランス感覚も問われそうだ。(ジュネーブ共同=新井琢也)




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