多喜二１８歳の『デビュー作』　新聞掲載の短編　弱者の視点

　北海道小樽市立小樽文学館は二十一日、日本プロレタリア文学を代表する作家小林多喜二（一九〇三〜三三年）が小樽高等商業学校（現小樽商科大）在学中の十八歳の時に「国民新聞」に投稿し、掲載された全集未収録の小説が見つかったと発表した。

　小樽文学館は「完成した小説としては最初期の作品で、作家生涯のスタート地点と言っても過言ではない」と評価。館報に収録し、公表する。

　文学館によると、小説のタイトルは「スキー」。四百字詰め原稿用紙六枚半の短編で、新聞は二一年十月三十日付。事実上のデビュー作で「小説倶楽部」（二一年十月号）掲載の「老いた体操教師」とほぼ同時期に書かれた。

　主人公は多喜二が卒業した小樽商業学校（現小樽商業高）の実在する体育教師で、二作品共通。

　「スキー」は、日露戦争で負傷した高齢の体操教師「Ｔ先生」が授業のため、不自由な体をおして、生徒に笑われながらも懸命にスキーを学ぶ姿を描き、社会的弱者に寄せる多喜二の思いが伝わるという。

　政治思想史を専攻する岡山大の大学院生が昨秋、偶然発見。「全集未収録の作品ではないか」と問い合わせを受けた文学館が調査していた。

　文学館の玉川薫副館長は「新聞への投稿は知られていなかった。最初期から（新聞読者という）一般市民を意識して文学活動を始めていた可能性がある」と話した。