日経ビジネスの4月19日号では、「ニッポンの聖域」シリーズ第2回として「日本教職員組合」を紹介しました。言うまでもなく、公立の小学校や中学校の教職員などによる労働組合としては国内最大です。組合員数は27万人超を誇り、組織率は27.1%(2009年現在、文部科学省調べ)。民主党の最大支持母体の1つとして、「子ども手当」や「高校の無償化」など、希望する政策を次々と手にしています。
一方で、全国集会を開こうとすると予約先のホテルから突然拒否されたり、傘下の北海道教職員組合が「政治とカネ」の問題で幹部が逮捕、起訴される事件が起きたりします。どうも、「教師」という響きとはかけ離れた存在を感じざるを得ません。より深刻なのは、教育現場に組織運営という規律をなきものにした上で楽な労働を追い求め、時にその影響が我が国の成長の源泉である子どもたちに及ぶことです。
もちろん多くの教師の方々は、「子どものため」を思って日々教鞭を執られています。そうした方々に悪影響を与えかねないとも言える、日教組トップの中村讓・中央執行委員長はどんな人物で、どんな言葉を口にするのでしょう。
緊張しつつ、そっと委員長室のドアを開けてみます。
「あ、今日はよろしくお願いしますねえ。ソファーの壁側の席に座ると腰が沈んじゃって偉そうに見えちゃうから、こっちの浅く座る方でいい?カメラマンさん」
なかなかフレンドリーな人である。しかしその素顔は、次第に現れてくる。
(聞き手は杉山俊幸=日経ビジネス副編集長)
それは「剥落学力」なんです
―― 文部科学省は今、脱「ゆとり教育」へと大きく舵を切る途上にあります。教育現場の様子はどうですか。
中村 ゆとり教育を見直す背景の1つには、経済協力開発機構(OECD)が2003年に実施した(15歳対象の学習到達度調査である)PISAで順位が落ちたことがあると言われています。
―― 確かに日本は数学的応用力がその前回の1位から6位へ、読解力では8位から14位に転落しました。
そう、でもね、何が学力かってとっても難しいんですよ。我々は少なくともPISA型のものを、「剥落学力」と呼んでいます。試験までに詰め込んで、それが済めば剥げ落ちていってしまう学力という意味です。
そんな試験の結果に左右される日本の教育はおかしい。一方、かつては東大一直線みたいなものが掲げられ、今でも東大を目指すか、それとも(メジャーリーグの)イチローとか松井(秀喜)みたいになるのを理想型としてしまっているのもまたおかしい。その2つしかないのかな。子どもが進むべき道って。もっと牧歌的でもいいんじゃないかと思うんですよね。東大、イチロー路線に馴染まない子どももいるよね。