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欧州の空を覆った火山灰はグローバル化した社会の弱点を暴き出した。脅威が国境を越えているのに、対応は国ごとになりがちだった。被害の広がりを早く把握し、整合的な対策を立てるのにもたついた感は否めない。人や物の往来が飛躍的に増えている時代の危機管理は欧州だけの課題ではない。
アイスランドの火山が噴き出した大量の灰は欧州の空港を軒並み閉鎖に追い込み、世界中で航空便を大混乱に陥らせた。再噴火の恐れはまだ残っており、日本でも、ビジネスマンや5月の連休に海外旅行を計画している人々の心配は収まりそうにない。
今日のグローバル化を支えているのが、インターネットに代表される情報通信網と航空機が引っ張る高速の大量輸送手段だ。だが、火山灰はジェット機のエンジントラブルを起こしかねない。このため事故を恐れた各国当局が空港閉鎖に踏み切った。
安全を経済的利益より優先するのは当然だ。しかし、グローバル時代は、大量の人の往来や物流を大前提にしている。それが止まれば、影響は深刻だ。資材の供給が滞って企業が苦境に陥ったり、急を要する薬品が届かずに命を脅かされる人も出たりする。
危険が去って運航を再開できるようになったかどうか、そうでないならどんな代替手段が用意できるか、こうした点について速やかな判断も必要だ。
今回、各国の管制当局は用心のあまり空港閉鎖の方針を掲げ続けた。灰の分布に応じたきめ細かい対策は不十分なまま、各地で足止めが長引き、空港で夜を明かす人々から悲鳴があがった。毎日巨額の損失をかぶる航空業界や空港からも、あいまいな判断根拠への不満の声が広がった。
結局、国ごとの判断では対応しきれず、欧州連合(EU)加盟国の交通担当相が緊急会議を行った。国境を越える問題にはこうして意思統一をはかるのが不可欠だということだろう。
日本もアイスランドと並ぶ火山国だ。成長著しいアジアにも多くの火山がある。地震対策や火山の溶岩流対策での国際協力は行われているが、多くの航空機が飛び交うアジアで火山爆発による火山灰が発生した場合を想定した対応策づくりは整っていない。安全優先で交通手段を止めざるをえなくなったとき、欧州と同じような問題を抱えることになるだろう。
閉鎖した空港をどのように再開していくか。鉄道や海運など代替輸送手段をどう確保するか。欧州発の空の混乱を機に、日本もアジア諸国に話し合いを呼びかけてはどうか。
火山灰に限らない。感染症や地球温暖化など、グローバル社会は一国では解決できない問題に常にさらされている。課題は、国境を越えてどれだけ緊密な協力態勢を築けるかだ。
政権交代による政治の変化を、国民に最も印象づけたと言っても過言ではない「事業仕分け」。その第2弾が近く始まる。
今回、切り込むのは、天下りや税金の無駄遣いの温床とされる独立行政法人(独法)と政府系の公益法人だ。
政府の行政刷新会議はきのう、都市再生機構や大学入試センター、理化学研究所など10府省所管の47法人の151事業を対象にすることを決めた。
不要な事業は廃止し、民間に任せられるものは任せる。その結果、いらなくなった法人は廃止し、民営化する。個別事業の仕分け結果を、組織や制度の大胆な見直しにつなげてほしい。
独法という仕組みは、中央省庁を再編した橋本行革で導入が決まった。行政をスリム化するとともに、民間の経営手法を取り入れて、事業の効率化や透明化を図るのが狙いだった。
経営トップには民間人の起用も想定されたが、実態は官僚の天下りの受け皿となった。毎年3兆円の国費が投入されながら、無駄な事業が温存され、省庁の縦割りをそのまま持ち込んだような事業の重複も目立つ。
自民党政権時代にも改革は試みられたが、大きな前進はなかった。天下り先や権限を失いたくない省庁と族議員がタッグを組んで抵抗したからだ。
民主党はマニフェストで、独法は「全廃を含めた抜本的見直し」、天下り公益法人は「原則廃止」を約束した。しがらみの少なさを強みに、大胆な改革を進めてほしい。
独法の中には、関連する公益法人に随意契約で仕事を流し、天下りの受け皿にしている事例もある。入り組んで見えにくいファミリー全体の構図をあぶりださなければいけない。仕分け人の眼力が問われる。
民主党は天下りの根絶を掲げながら、日本郵政の社長に元大蔵事務次官の斎藤次郎氏を起用した。マニフェストにうたった国家公務員の総人件費の2割削減にも手をつけていない。
独法改革は公務員制度改革の入り口でもある。公務員労組の支援を受ける民主党政権に改革ができるのか、今回の仕分けでその本気度が試される。
事業仕分けには「短時間の議論で結論を出すのは乱暴だ」「目先の費用対効果を優先して、教育や科学技術などの分野で、中長期的な視点が欠けている」などの批判もあった。
しかし、これまで国民の目に触れなかった予算査定の経過が全面公開されたことの意義は大きい。納税者の参加意識を高めたことは疑いない。枝野幸男行政刷新相が「政治文化の革命」と呼ぶのもうなずける。
事業仕分けは政権浮揚の道具ではない。有権者はそれほど甘くはない。政権が見せるべきはパフォーマンスではなく、無駄削減の実だ。