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【ロンドン会川晴之】アイスランドの火山噴火に伴う影響は16日も拡大した。風が弱く、火山灰の拡散がゆっくりとしているためで、英航空当局は17日午前7時(日本時間同日午後3時)まで、飛行禁止措置を延長した。英BBC放送によると、ノルウェーや英国北部などで降灰があり、硫黄臭も感じられるという。16日の欠航数は欧州で約1万7000便と過去最大に上る見通し。また、22カ国で空港閉鎖が発生した。噴火は数週間続くとの見方も出ている。
飛行禁止区域は、パリを含むフランス北部、ドイツ北部などにも拡大、欧州北部全域がマヒ状態に陥った。欧州域内に加え、日本などのアジア、米国との航空便の多くも運航を停止した。
英気象庁によると、火山灰はアイスランドから南東方向に流れ、スカンディナビア半島や英国、欧州北部へと移動する見通し。アドニス英運輸相は16日、欧州の空の混乱は少なくとも48時間続くとの見通しを示した。
日曜日の18日には、墜落死したポーランドのカチンスキ大統領の葬儀が営まれるが、オバマ米大統領ら各国首脳の出席に影響が出る可能性もある。
噴火したのはアイスランド南部のエイヤフィヤットラヨークトル火山。3月に続き、今月14日に再び噴火し、現在も活動している。アイスランド当局は「事態は予断を許さない」と警告している。
一方、航空専門家の中からは「過剰反応」との声も出ている。英テレグラフ紙(電子版)は「90年代のアイスランドでの噴火では、これほどの大規模規制はなかった。米同時多発テロ(01年)以来、安全対策が異常なほど強化された」と指摘。英タイムズ紙は、影響が週末まで長引けば、航空会社は1億ポンド(約140億円)の損失が出るとしている。
火山灰による航空機トラブルで有名なのは、82年6月にブリティッシュ・エアウェイズ(BA)機が遭遇したエンジン停止事故だ。米ABCテレビ(電子版)によると、同機はインドネシア上空約11キロで火山の噴煙に突入、エンジン4基すべてが火山灰を巻き込み、停止した。しかし、高度を約3キロまで下げたところでエンジンは再起動し、乗員・乗客263人の命は救われた。80年に起きたセントヘレンズ山(米ワシントン州)噴火では2機、89年のリダウト山(アラスカ州)噴火では1機がそれぞれ火山灰で機体に不具合を生じたが、いずれも無事に着陸している。【岩佐淳士】
火山灰は航空機の運航に影響を及ぼすだけでなく、健康への影響や気温低下をもたらす恐れがある。気象庁は、各国の気象機関と連携し、情報収集を始めた。
気象庁によると、今回の噴煙の高さは最大で約11キロ。火山灰の広がりは、英気象庁・航空路火山灰情報センターが予測しているが、現状では日本に届く可能性はなさそうだ。早坂忠裕・東北大教授(大気物理学)は「赤道付近で噴火すると、地球全体に影響が及ぶ可能性がある。今回は高緯度のために影響は北極圏に限定される」と予測する。英BBCは、専門家の見解として火山灰が健康に深刻な影響を与える可能性は限定的と伝えた。
しかし、アイスランド気象庁の専門家はAP通信に「同程度の火山灰の放出は、数日から数週間発生が続くとみられる」と分析。火山活動が長期化すると、さまざまな影響が懸念されている。
フィリピンのピナツボ火山噴火(91年)では火山灰が太陽光を遮り、北半球の平均気温が0・5度下がった。藤井敏嗣・元東京大教授は「噴煙には硫酸が含まれる。長く続けば酸性雨の影響も出てくる」と指摘する。【石塚孝志、八田浩輔】
火山灰の影響で一部またはほぼすべての空港が閉鎖された国は以下の通り。
英国、アイルランド、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、ベルギー、オランダ、リトアニア、フランス、ドイツ、ポーランド、スウェーデン、オーストリア、チェコ、ロシア、ラトビア、エストニア、スペイン、スロバキア、ルーマニア、ハンガリー、スイス
毎日新聞 2010年4月17日 東京朝刊