「(医師は)社会的常識がかなり欠落している人が多い」。08年11月、全国都道府県知事会議で、こう発言した当時の麻生太郎首相は翌日、首相官邸に抗議に訪れた当時の唐沢祥人・日本医師会長に謝罪した。軽率な発言で、謝罪は当然だろう。
ただ、上野原市で取材をしていて「医師の価値観は独特だ」と感じざるを得なかったのは、市内の学校医が不在になっていることを分かっていながら、対立を続けた江口英雄市長と上野原医師会の「内輪もめ」だ。
江口市長は医師でもある。新市立病院という地域医療の核の建設を巡って地元医師会を無視し、医師会は学校医委嘱を辞退した。その結果を招いた江口市長の行政手腕には疑問符が付く。一方、江口市長の手法がどうあれ、選挙という市民の審判を受けてもいない医師会が、子供の健康診断の日程を左右してはいけない。
医師は人とあまり折り合わなくても貫ける職業かな、とも思う。麻生さんの発言も一面の真理がある、と思えてくる。【富士吉田通信部・福沢光一】
毎日新聞 2010年4月20日 地方版