2010年4月20日 2時32分 更新:4月20日 2時32分
北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記(68)の最有力後継候補で三男の正銀(ジョンウン)氏(26)の写真を、朝鮮中央通信や朝鮮労働党機関紙・労働新聞など国営報道機関が3月初めに報じていたことが分かった。北朝鮮指導部に近い関係者や韓国情報機関の関係者が毎日新聞に証言した。北朝鮮の公式メディアが正銀氏の姿を伝えるのは初めてで、正銀氏への権力移行作業が本格化している様子が浮き彫りになった。
「今日の労働新聞をしっかり見るように」
3月5日、平壌のある衣類関連企業で、こんな指示が出された。職員の一人が上司に「何が載っているのか」と尋ねると、上司は「金大将(正銀氏の愛称)のお姿がたくさん掲載されている」と答えたという。
指導部に近い関係者によると、この指示は朝鮮労働党の各機関を通して、幅広く伝えられ、「『3月5日の新聞』を探し求める人が相次いだ」という。それまでベールに包まれてきた正銀氏の姿がお披露目された形だ。この報道以後、正銀氏の写真は掲載されていない。
その日の労働新聞は、金総書記が咸鏡北道(ハムギョンプクド)の金策(キムチェク)製鉄連合企業所を現地指導したという記事を大量の写真とともに報じた。朝鮮中央通信が掲載前日に配信した写真には、ペンを持ちながらメモ帳を広げる正銀氏の姿が写っている。紺色のスーツとみられる服に赤のネクタイ、黒っぽいコート姿。正銀氏はほとんどのカットで金総書記の隣に立ち、現地の案内人の説明を一緒に聞いているように見える。
北朝鮮メディアは具体的な日時を伝えていないが、現地指導から数日以内に報道されている可能性が高い。報道は、金総書記の妹である金慶喜(キム・ギョンヒ)氏やその夫の張成沢(チャン・ソンテク)氏らが同行したとしているが、正銀氏の名前は伏せられた。
正銀氏については、スイス留学時代の10代の写真を毎日新聞が既に報じているが、最近の姿はこれまで明らかになっていなかった。
労働新聞は、北朝鮮の支配政党である朝鮮労働党の機関紙で、北朝鮮政府の公式見解を国民に周知徹底させるための役割を担う。一方、朝鮮中央通信は、日本を含む外国報道機関にも記事や写真を配信しており、対外的な宣伝活動も担当している。【西岡省二】