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きょうの社説 2010年4月20日
◎低い原発稼動率 国際評価も損ないかねない
原子力安全・保安院のまとめでは、2009年度の商業用原発の設備利用率(稼働率)
は65・7%にとどまった。目標とする米国や韓国並みの90%には程遠く、原発先進国と胸を張れぬ心もとない状況だ。北陸電力志賀原発を抱える石川県としても大いに気になる数字である。低い原発稼働率は、鳩山政権が力を入れる温室効果ガス削減の取り組みに支障をきたす だけでなく、日本の原子力技術に対する国際評価を損ね、原発輸出ビジネスの足を引っぱることにもなりかねないと認識しておきたい。 日本より原発の製造実績の乏しい韓国が昨年末、アラブ首長国連邦(UAE)の原発受 注に成功したのは、原発稼働率が日本より格段に高い点を徹底的に売り込んだことが一因といわれている。 09年度の原発稼働率は08年度を5・7ポイント上回ったが、過去10年間で4番目 の低さという。中越沖地震で停止した東京電力柏崎刈羽原発7基のうち5基が依然止まっているほか、昨年8月、駿河湾を震源とする地震で中部電力浜岡原発が停止した影響が大きい。北陸電力志賀原発2号機が非常用ディーゼル発電機のトラブルなどで47・5%の稼働率にとどまったこともマイナスに影響した。 かつて80%を超えた国内の原発稼働率が低下した理由の一つとして、東京電力のデー タ改ざんや北陸電力の臨界事故隠しなど電力会社の不祥事による運転停止が相次ぎ、それによる住民の原発不信・不安の高まりで、運転の再開にも大変時間がかかることが挙げられる。つい最近も、中国電力の島根原発1・2号機で多数の点検漏れや部品の未交換が明らかになり、運転停止に至ったのは、まことに遺憾な事態である。 経済産業省は今後、国内で原発十数基の新増設をめざす一方、途上国の原子力平和利用 や原発安全対策で米国と連携を強化する共同声明を先に出したところである。原発運転に関する電力会社の不祥事は、国民の信頼だけでなく、日本の原子力技術・産業に対する国際社会の信用を傷つけ、国益をも損ないかねないと肝に銘じて安全管理を徹底してほしい。
◎徳之島移設案 断念するしかないのでは
徳之島の半数を超える住民が集まった「米軍基地移設反対1万人集会」は、政府が検討
する同島への米軍普天間飛行場移設案にはっきりとノーを突き付けた。地元の民意は明らかであり、これ以上、無理強いしても展望が開けるとは思えない。地元に対して正式に打診すらしていないのに白紙撤回というのも妙な話だが、徳之島の民意を尊重し、鳩山由紀夫首相自ら断念の意向を表明するしかないだろう。だが、鳩山首相は徳之島を訪れるタイミングを検討するという。これまで語ってきた普 天間の移設先の「腹案」が徳之島だとすれば、簡単には引き下がれないという思いなのだろうが、受け入れが絶望的な状況で、ただ頭を下げに行くだけなら、政治家としての資質を疑われるだけではないか。 そもそも徳之島への移設について、米側は否定的である。米軍高官からも「海兵隊の陸 上部隊とヘリ部隊を沖縄と徳之島に分散すると一体運用が難しい」との指摘がある。鳩山政権がこの問題で米側と突っ込んだ話し合いをした形跡はなく、徳之島移設のハードルは極めて高いと見ざるを得ない。 地元と米国の合意を取り付けて5月末までに決着させるという鳩山首相の言葉を信じる 国民は、ほとんどいないはずだ。おそらく政府・与党内でも同じだろう。核安全保障サミットの非公式会談ではオバマ大統領からも疑念を持たれ、日米同盟の基盤が揺らいでいる。2006年に日米合意した普天間の移設計画を鳩山政権が見直したのは、致命的な失敗だった。 鳩山首相に、普天間問題を解決に導く手腕があるとは思えない。各種世論調査を見ても 首相の指導力や政治手腕に対する評価は落ちる一方であり、5月末決着ができなかった場合は「退陣すべきだ」とする回答も増え続けている。 このまま成算のない移設論議を続けていても、得られるものは何もないだろう。5月末 までの移設論議にいったん終止符を打ち、改めてゼロから組み立て直す時期ではないか。首相退陣を求める声は高まるだろうが、結論を先延ばしすればするほど傷は深くなる。
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