「仮名手本忠臣蔵」と「東海道四谷怪談」の二つの人気演目をない交ぜにした作品の7年ぶりの再演。石川耕士脚本、市川猿之助演出。
足利家に恨みを持つ新田義貞の霊(右近)が高師直(猿弥)に取りつくのが発端。師直に挑発された塩冶判官(笑也)が刃傷におよび、家は断絶する。また塩冶浪人の伊右衛門(段治郎)に虐げられた女房のお岩(笑三郎)は命を落とし、幽霊となる。
右近が義貞の霊に加え、義貞の遺児で天下を覆そうとする盗賊の暁星五郎、悪党の直助権兵衛、浪士を助ける天川屋義平と、4役を演じる。
ことに魅力的なのは直助。悪人ながらも、お袖(笑也)への偽りない思いが伝わり、「三角屋敷」に見応えがある。直助、お袖とその夫与茂七(門之助)の関係性がここに集約された。門之助、笑也も柄にあう。
段治郎が冷酷な殺人者を的確に見せる。端正さが不気味さを際だたせた。笑三郎のお岩が哀れ。猿弥は師直で憎々しさを見せ、もう一役の宅悦では、心ならずも事件に巻き込まれる人間のこっけいさを表現し、狂言回しの役割を果たした。星五郎と対決する浪士の定九郎で、春猿がすっきりしたところを見せる。弥十郎の由良之助の舞台ぶりの大きさも印象的。
宙乗り、花火、滝つぼでの立ち回りと変化に富んで展開も早く、理屈抜きに楽しめる舞台だ。23日まで。【小玉祥子】
毎日新聞 2010年4月19日 東京夕刊