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紙飛行機を長く飛ばすには、まず真上に高く投げ上げることだと名人に聞いたことがある。手放す時は鋭く一気に、あとはゆったりと旋回させて滞空時間を稼ぐ。鋭く、ゆったりの案配が難しい▼鳩山内閣の支持率が、紙飛行機のように淡々と下がり、本紙の世論調査でとうとう2割台になった。政権交代で高く舞い上がったピカピカの機体も、身から出たさびで輝きを失い、ほぼ自由落下の体たらく。悲しき「政権後退」である▼世論は、首相の存在感の軽さにあきれているのではないか。その軽さは、民主党を仕切る小沢幹事長の重さの裏返しではあるが、何より首相自身の物言いにリーダーの自覚を感じない。政権には船頭が多いのか、いないのか、閣僚たちの発言もまとまりを欠く▼首相の言葉は綿菓子のように軽くて甘い。麻生前首相も後先を考えずに軽口をたたいたが、目の前の聴衆を楽しませようという流儀は一貫していた。そんなアクもなく、鳩山首相はふらふらと語り続ける▼心細いのは普天間問題だ。首相は、普天間が国民の関心事になったのは「メディアが動きすぎている」せいだと述べた。しかし、自ら設けた5月末の期限を前に、新聞やテレビが注目するのは当然である。沖縄の思いや日米関係をどれほど真剣に考えているのだろう▼「政治にいい加減な興味を持つくらいなら、むしろ持たないほうがいい」。これも鳩山氏の言だ。いい加減とはマスコミに「踊る」民意をさすらしいが、飛行機を投げ上げた大衆を軽く見てはいけない。数字は無情である。