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アイスランド火山灰:飛行機への影響と「飢饉」の可能性
2010年4月19日
撮影は4月2日。画像はWikimedia
[アイスランドにあるエイヤフィヤトラヨークトル氷河で、今年3月から2カ月連続で火山の噴火が起こっている。飛行機の欠航など、人間の社会に大きな影響を与えており、今後の気象への影響も懸念されている]
飛行機への影響
火山灰は飛行機の計器に詰まるおそれがあり、また機体に付着して、その重さで微妙な重量のバランスを狂わせるおそれがある。そして火山灰が特に危険なのは、ガラスの粒子を含んでいる点だ。これが飛行機のエンジンの高温で溶けて、機械類に損傷を与えたり不調が生じるおそれがある。火山灰雲の中を通過したジェット機で、4基のエンジンすべてが停止した例が知られている。プロペラ機だと事態が大きくよくなるという可能性もないようだ。
[1982年にジャワ島のガルングン山の近くを飛行中のボーイング747が、4基のジェットエンジンのすべてが一時的に停止するトラブルに見舞われた(ブリティッシュ・エアウェイズ9便エンジン故障事故)。
火山が噴火する時にマグマが地下深部から上昇してくると圧力が下がるため、マグマに溶解していた水などの揮発成分がガスとなって発泡する。これによって残っていた液体のマグマが粉砕され微粒子となり、これが噴出されると、結晶になる暇もなく急冷されるためガラス(火山ガラス)となる]
火山灰。画像はWikipedia
気象への影響
最も大きな影響は、天候にあらわれる。エイヤフィヤトラヨークトル火山の噴火が世界的な天候に影響するかはまだ明白ではない。しかし、過去の大規模な噴火では影響が確かに出ている。
たとえば1783年、ラキと呼ばれるアイスランドの火山亀裂で大噴火があった。プルームとともに大量の二酸化硫黄ガスが運ばれ、その後1〜2ヵ月にわたってヨーロッパ全域で多くの人が[呼吸困難によって]死んだ。
しかしこれも、気象への影響に比べたら些細なものだった。1784年、ヨーロッパと北アメリカは記録上、最悪の冬を迎えた。ニューオリンズのミシシッピ川までもが凍ったのだ! ラキ火山の噴火は、その直後に起きたアイスランドの別の噴火とあいまって、それから数年にわたり、フランスの農作物に深刻な影響を与えた。これが1789年から始まるフランス革命の要因になったともされている。[日本でも、1783年の浅間山の噴火と重なって冷害が発生し、合わせて天明の大飢饉の原因になったと考えられている]
このラキ火山の噴火がひどいものだったと思うのなら、1815年にインドネシアのタンボラ山で起きた大噴火はもっと重大だったことを知るべきだろう。タンボラ山の噴火で北半球は1816年に「夏のない年」を経験することになった。米国のコネチカットで6月に氷点下を記録したと報じられており、米国とヨーロッパで凶作が広がった。
[1815年に起きたタンボラ山の噴火では、大爆発音が1750kmまで聞こえ、500km離れたマドゥラ島では火山灰のため3日間暗闇が続いた。半径約1000kmの範囲に火山灰が降り注ぎ、農作物は壊滅的な被害を受けた。同年、米国北東部では異常低温となり雪や霜が6月までみられた。英国やスカンディナビアでは5〜10月まで長雨が続き、やはり異常低温により不作、食糧不足の事態となった。翌1816年は「夏のない年」と言われた。農作物の不作は全世界的に数年間続き、ヨーロッパでは食料をめぐって暴動が発生し、ヨーロッパ全体ではおよそ20万人もの死者が出たという説もある]
今回のエイヤフィヤトラヨークトル火山の噴火がどのくらい続くかはわからないし、その影響も不明だ。われわれができることはあまり無いが、現代は火山灰の様子を衛星から監視できる。気象激変の理由がまったくわからずにいた昔の人たちよりはましだといえる。1991年に起こったフィリピンのピナトゥボ火山の噴火も、大きなものではあったが全世界的な影響までは行かなかった。今回の噴火も同様であってほしいが、この結末は誰もわからない。[前回1821年の大噴火は1年以上にわたって続いた]
[ピナトゥボ火山の噴火では、大量のエアロゾルが成層圏に放出され、全球規模の硫酸エアロゾル層を形成し何か月も残留。地球の気温が約0.5℃下がり、オゾン層の破壊も著しく進んだ]
NASAはこの噴火について、衛星からの観測結果をサイトにまとめている。画像は同サイトから転載したもので、4月15日の撮影。右側の画像は温度分布。Image credit: NASA GSFC/JPL
[日本語版:ガリレオ-緒方 亮/合原弘子]
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