池田信夫 blog

Part 2

海部美知さんの指摘するように、総務省が日本以外で使えないガラパゴス周波数を次世代携帯(LTE)に割り当てると、次世代のiPhoneもiPadも日本では使えなくなるおそれが強い。

最初にiPhoneが出たとき日本で使えなかったのは、3年前の記事でも書いたように、iPhoneの使っていたGSMの国際周波数(1.7GHz帯)を日本と韓国だけが使えなかったからだ。実はこのとき、日本でも1.7GHz帯のあいている帯域でGSMをサポートしようと私はあるキャリアに提案したのだが、総務省令などをすべて変更しなければできないので、断念した。

iPhoneが3Gになって日本で使えるようになったのは当たり前のことではなく、技術と周波数を3Gで国際的に統一したからなのだ。ITUでの10年近い大論争の結果、1999年に日本が欧州に譲歩してW-CDMAに統一し、それでもクアルコムが独自規格(CDMA2000)を譲らなかったため、二本立てになった。だからCDMA2000系の技術を使っているKDDIでは、iPhoneもiPadも使えない。

総務省の電波鎖国が実施されると、iPhoneやiPadがLTEに対応するとき、また初代のiPhoneのように日本だけが除外されるだろう。それは同じように国際周波数を使うグーグルのタブレットについても同じだ。要するに、日本のユーザーは次世代以降は「ガラパゴス携帯」しか選択肢がなくなるのである。

この総務省案を国内ベンダーが歓迎しているのは当然だ。彼らは海外市場で全滅し、日本でも6社あわせて世界の5%程度のシェアしかない。ガラパゴス周波数という非関税障壁によって、アップルやグーグルの参入を阻止して「パラダイス鎖国」を守ろうというわけだ。しかし輸出もできないローカル端末が、飽和した日本市場で生き残っていけるかどうかはあやしい。「10年後には1社残ればいいほうだろう」というのが、あるキャリア幹部の見立てである。

iPadは、次の無線インターネット革命の始まりにすぎない。今のバカ高い携帯電話は、有線インターネットでいえば10年以上前のダイヤルアップみたいなものだ。これが常時接続になれば、たとえばアマゾンのWhispernetのようにKindleが自動的にサーバに接続して料金はアマゾンが負担し、ユーザーは無線通信していることさえ意識しない。

ch5e5a

またグーグルのタブレットのようなモバイル・クラウドはグローバルにしか構築できないので、その標準に合わない日本の端末もキャリアも参加できない。クラウド型の無線ネットワークは、世界中からサーバにアクセスするので、上の図のように莫大な帯域を消費すると予想される。FCCの全米ブロードバンド計画が500MHzの帯域を開放する方針を打ち出したのは、こうした変化を予想しているからだ。

こんな状況で、テレビ局のマラソン中継に36MHzを与える一方、すべての次世代携帯に40MHzしか割り当てない総務省の電波鎖国は、ほとんど自殺的な政策といわざるをえない。今夜のシンポジウムでは、この問題をもっとくわしく議論したい。

トラックバックURL

トラックバック一覧

  1. 1.

    [iPhone]次世代iPhone

    総務省の電波鎖国が実施されると、iPhoneやiPadがLTEに対応するとき、また初代のiPhoneのように日本だけが除外されるだろう。それは同じように国際周波数を使うグーグルのタブレットについても同じだ。要するに、日本のユーザーは次世代以降は「ガラパゴス携帯」しか選択肢

コメント一覧

  1. 1.
    • landscape04
    • 2010年04月16日 13:38

    国内産業が未熟なうちは保護主義でもいいが、成熟してきたら機会平等にしないと
    結果、自分の首を自分で絞めることになるのに。
    いつから日本は挑戦することを止めたのだろうか。世界は待ったなしなのに

  2. 2.

    我々が考える以上に深刻かも知れません。今や端末ベンダーのみならずキャリアにとっても「ガラパゴス鎖国」の方が実があるのでは、と。

    総務省(郵政省の部分)のような事業所管官庁が、消費者利便をしっかり理解して健全な施策を打ち出せるのか、それともそれは構造的に無理なので官邸主導で消費者庁のようなもっと機能を強くしていかなければならないのかを見極める一つの試金石ですね。

コメントする

このブログにコメントするにはログインが必要です。               



記事検索




書評した本


契約 企業 金融契約
★★★★★
書評


だまされ上手が生き残る 入門! 進化心理学 (光文社新書)だまされ上手が生き残る
★★★☆☆
書評


バーナンキは正しかったか? FRBの真相バーナンキは正しかったか?
★★★★☆
書評


競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書)競争と公平感
★★★★☆
書評


ゲーム理論 (〈1冊でわかる〉シリーズ)ビンモア:ゲーム理論
★★★★☆


フーコー 生権力と統治性フーコー 生権力と統治性
★★★★☆
書評


iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏 (brain on the entertainment Books)iPad VS. キンドル
★★★★☆
書評


行動ゲーム理論入門行動ゲーム理論入門
★★★★☆
書評


「環境主義」は本当に正しいか?チェコ大統領が温暖化論争に警告する「環境主義」は本当に正しいか?
★★★☆☆
書評


REMIX ハイブリッド経済で栄える文化と商業のあり方REMIX★★★★☆
書評


行動経済学―感情に揺れる経済心理 (中公新書)行動経済学
★★★★☆
書評



フリーフォール グローバル経済はどこまで落ちるのかフリーフォール
★★★☆☆
書評


現代の金融入門現代の金融入門
★★★★☆
書評


学歴の耐えられない軽さ やばくないか、その大学、その会社、その常識学歴の耐えられない軽さ
★★★☆☆
書評


ナビゲート!日本経済 (ちくま新書)ナビゲート!日本経済
★★★★☆
書評


ミクロ経済学〈2〉効率化と格差是正 (プログレッシブ経済学シリーズ)ミクロ経済学Ⅱ
★★★★☆
書評


Too Big to Fail: The Inside Story of How Wall Street and Washington Fought to Save the FinancialSystem---and ThemselvesToo Big to Fail
★★★★☆
書評


世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか (光文社新書)世論の曲解
★★★☆☆
書評


Macroeconomics
★★★★★
書評


マネーの進化史
★★★★☆
書評


歴史入門 (中公文庫)歴史入門
★★★★☆
書評


比較歴史制度分析 (叢書〈制度を考える〉)比較歴史制度分析
★★★★★
書評


フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略フリー:〈無料〉からお金を生みだす新戦略
★★★★☆
書評


新潮選書強い者は生き残れない環境から考える新しい進化論強い者は生き残れない
★★★☆☆
書評


労働市場改革の経済学労働市場改革の経済学
★★★★☆
書評


「亡国農政」の終焉 (ベスト新書)「亡国農政」の終焉
★★★★☆
書評


完全なる証明完全なる証明
★★★☆☆
書評


生命保険のカラクリ生命保険のカラクリ
★★★★☆
書評


チャイナ・アズ・ナンバーワン
★★★★☆
書評



成功は一日で捨て去れ
★★★☆☆
書評


ネット評判社会
★★★★☆
書評



----------------------

★★★★★



アニマル・スピリット
書評


ブラック・スワン
書評


市場の変相
書評


Against Intellectual Monopoly
書評


財投改革の経済学
書評


著作権法
書評


The Theory of Corporate FinanceThe Theory of Corporate Finance
書評



★★★★☆



つぎはぎだらけの脳と心
書評


倒壊する巨塔
書評


傲慢な援助
書評


In FED We Trust
書評


思考する言語
書評


The Venturesome Economy
書評


CIA秘録
書評


生政治の誕生
書評


Gridlock Economy
書評


禁断の市場
書評


暴走する資本主義
書評


市場リスク:暴落は必然か
書評


現代の金融政策
書評


テロと救済の原理主義
書評


秘密の国 オフショア市場
書評

QRコード
QRコード
  • livedoor Readerに登録
  • RSS
  • livedoor Blog(ブログ)