44年目を期に、始めに立ち返りタイトルを「題名のない音楽会」に戻した。同時に“ページを一枚めくる”という新たなコンセプトを組み入れた。

題名のない音楽会

『題名のない音楽会』とは……テレビ朝日系にて毎週日曜日9時00分~9時30分放送。1964年に放送開始と歴史があり、高尚なものになりがちなクラシックをわかりやすく紹介。2008年4月には司会者や番組コンセプトまでを含めたリニューアルを果たし、音楽の魅力や楽しさを伝える。

最高の音楽を提供しようと演奏する奏者、画と音を拾い集めて最高の形へと仕上げる制作スタッフ。お互いを思いあう関係があるからこそ、よい音楽が生まれてくる。新しいことへのチャレンジもできる。 


─長い歴史を振り返ると、初代司会者の黛さんの時代からいろいろな変化をしてきているようですね。
黛さんの時代はある種インテリを対象としていたような内容だったかもしれません。その後に武田鉄矢さん、そして先代の羽田健太郎さんになったあたりから、大きく変わってきたのではないでしょうか。ちなみに私が制作の現場に入ったのも、羽田さんが司会になった2000年のことでした。当然、黛さんの時代にも、他のクラシック音楽番組にはない、野心的な冒険を数多く行ってきたわけなんですが、まずは羽田さんらしい番組を作ることが必要でした。そこで番組ではSMAPなど流行の曲を、オーケストラで演奏したんです。というのも羽田さんはクラシック界の超エリートながら、歌謡曲、ポップスにも精通していており、ちょうど当時「イマージュ」というインストゥルメンタルのCDが爆発的なヒットをしていたんです。つまり普段歌謡曲に親しんでいるような年代層が、オーケストラのような歌声のない音楽に目をむけていたわけですね。羽田さんの個性と時代の流れが合致したと思ったのです。大きなチャンスだと思いました。ただしアレンジには相当こだわりを持ちました。このこだわりを込めたからこそ、プロの音楽というものを紹介できたと思っています。一般の人であればあるほど、ごまかしは効かないんです。
最初は「『題名のない音楽会』たるものが軽音楽ばかり扱って!」と批判を浴びましたが、この冒険によって、新しい風を入れることはできたと思っています。 その後は一転して、クラシックの古典音楽に注目が集まるようになってきます。歌謡曲に注目していた反動と、流行をみせたケータイの呼び出し音に、版権フリーのクラシック曲がたくさん使われるようになってきたことが理由です。そこで<クラシック着信音ベスト50>を、オーケストラで2週に渡って放送しました。演奏しているほうは「ここで切っちゃうの?(笑)」というような短いフレーズだったんです。だって着信ってせいぜい長くても15秒程度しか聞かないじゃないですか。でもこれはクラシックが倦厭される“長い!”という欠点を解消でき、知ってるメロディのみ手軽に聴ける、という意味では成功した企画でした。 
そして次には、いよいよ長く深く、ひとつの作品に聞き入りたくなってくる。そもそも、どうして多くの人がクラシック曲を聴きたがらないのかといえば、一つには理解するためのヒントが少ないという理由があると思うんです。楽章やフレーズ単位での意味や、作品の背景など。例えば「ボレロ」という曲は一見同じようなメロディが繰り返されますが、実は一回ごとに演奏する楽器が変わっている。その理由を、指揮者、作曲家、演奏家らの討論によって説明してみたりしました。フィギュアスケートと同じですね。氷上を舞っている姿を見ているだけで美しいですが、解説がないとアクセル、ルッツ、フリップなどジャンプの種類も理解しにくいですよね。演奏中に、ナレーションをかぶせて実況中継風に解説を入れることもやってみました。
振り返ってみると、そのときそのときの時代性やニーズに呼応し、一歩先を行く形で音楽の楽しみ方を提案しようとやってきたと感じますね。年間50回ある放送も全部組み立てで、クラシック曲を軽快に紹介しては重厚にもしてみたり、ポップスにも振ってみたり。そして最終的にはやはり、本物のスゴイ演奏をお見せすることですね。 


─キャッチーな楽曲にも挑戦されたりと、よく冒険されますよね。それでも根底には、音楽表現の素晴らしさがあるからでしょうか。
5.1chサラウンドの音作りは正直地味な作業ですが、相当こだわっています。ちょっとした本番のミスもリハーサル時に録っていた音でカバーしたり、バランスを微調整したり。レコード会社がCD製作のときに行うような作業を、毎回の放送のために行っているようなものですね。担当者はなかなか大変なんですが、それくらいやらないと、いい内容は生まれてこない。それに、演奏家からも「しっかりと音作りがされているな」と思っていただけたり、「放送されるとイヤだな」と思っているミスをしっかり直したりすることで、信頼関係を築くこともできます。いい番組を作るには、当然制作スタッフや司会者、演奏者の全員が協力し合えるような関係が必須なんです。 


─大前提として、演奏家がすばらしい演奏をするからこそ、番組も成り立つ。
個人的な話ですが、特に日本って演奏家に対するリスペクトや社会的評価がもっと高くてもいいのでは、と感じているんです。 私は大学で音楽理論を学んでいましたが、それ以前には演奏家を目指しており、その道に進むことの厳しさを見てきたつもりです。クラシックの演奏家というのはだいたい3歳から勉強して、毎日5・6時間も練習して、相当の努力をしても一握りしかなれないものです。クラシックの本場はヨーロッパにあり、日本国内では演奏家として食べていくのも厳しい状況があります。本当はヨーロッパのクラシック界といっても、コンサートにくるのは老年のファンが多く、日本のほうが活気あるくらいなんですが……。でも特に最近では日本人で演奏家を目指す人は、幼少期から欧米の音楽学校に通い、向こうで名声を経てから凱旋帰国。一方でヨーロッパの演奏家は、日本のマーケットを狙って稼ぎにやってくる。 どこかおかしいなと思っています。日本でももっと演奏家がリスペクトされ、活気ある音楽界を作りたい、そうした仕事をやりたいと学生時代に思っていたんです。ですから「題名のない音楽会」は、私にとっては一担当番組ではなく、文化的に意味のあるものにしていきたいという想いを強く持っています。 


─確かによく考えれば、演奏家をはじめ関係者の努力は並大抵ではありませんね。
なので何か面白く、そのスゴさを伝えられないかなと思っていろいろな企画もやってきました。「ピアノ大喜利」では出したお題に対して即興で演奏してもらったり、「音楽センター試験」ではクラシックのイントロ当てクイズをしたり、オーケストラ楽曲でどの楽器がどのフレーズを演奏したのか当ててみたり。オーケストラでイントロ部分だけを演奏するという普段やらない珍しさもあって、現場も盛り上がりましたが、一方では個人の能力を測ることから出演者は大真面目。実際、塊にしか聞こえないオーケストラの音を、プロはこれだけ細かく聞き分けているのかと驚くことができて、“クラシック音楽家の実力”を知らせる意味でもいい企画だったと思います。こうした提案も楽しんで引き受けていただけるのも、日頃の信頼関係があってこそですね。
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番組data
番組名 題名のない音楽会 ジャンル バラエティ・音楽
放送局 テレビ朝日(テレビ朝日系)
放送日時 毎週日曜日 9時00分~9時30分
BS朝日 毎週土曜日18時:30分~19時 及び 日曜日23時~23時30分
番組URL http://www.tv-asahi.co.jp/daimei/index.html
主なスタッフ プロデューサー、ディレクター・鬼久保美帆(敬称略) スタッフ数 約70人
主な出演者 佐渡裕、久保田直子(敬称略)
放送開始日 1964年8月~

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