ウォールストリートで 20 年、生き残ってきたノウハウを開示、日々のマーケット・社会情勢を分析します。

アメリカにおけるローンの実態( 訂正あり)

iconBlogDate.jpg   2010-04-14 15:01:10 | マーケット

株価が(といってもインデックスだが)少し戻ってくると、もうアメリカ経済は底打ちしたじゃないか、とかすぐ言われるのですが、いやはや、何いってんだか・・・というしかありません。

今回は単なる景気循環型景気後退ではなく信用収縮・・しかも資本主義市場最大・・なので、事態は大きく異なると何度も書いてきました。

ご質問も結構多いので、今日はもう少し詳しくアメリカのローンのお話をば。

Q
アメリカでは学生向けの学資ローンが大変な社会問題になっており、サブプライムどころではない、という話を聞きました。住宅よりは遥かに金額も小さいと思いますし、なぜそれほど問題なのでしょうか?

答え

意外と多い質問なんです、これ。

なるほど。ごもっともですね。実は2年ほど前にアエラに書いたのですが、住宅ローン問題よりもおそらくこの学資ローンの方がはるかに問題が深刻なんだろうと。

いろいろ申し上げねばなりませんが、まず、第一にアメリカの大学はものすごく学費が高い。

日本では東大、慶応などの一流大学でも私立の医学部を除けばせいぜい100万円でしょう。

しかし、いわゆるアイビーリーグ(ハーバード、コロンビア、プリンストンなど)はほぼ義務付けられているドミトリーの費用を入れるとだいたい1年で800万円くらいかかります。まあ、私立の医学部並です。

もちろんすべての人がこんなものを現金で払えるはずもなく、通常学資ローンを組みます。日本のように親が負担するということはあまりありません。

というのも、長い間「サリーメイ」という、政府機関によりこのローンが賄われてきた訳ですが、実はこのサリーメイ、政府によるルーズな貸出の元凶だと非難され、すでに100%民営化され(もともとはクリントン大統領時代にさかのぼる)、実は現在ではただの民間の金融機関です。

いつまにか民営化されていた学資ローンですが、このサリーメイのローン、もともと政府ローンだっただけあって、実情に即しておらず、実はサブプライムどころではないおそろしい代物なのです。

この質問を下さった方のほか、数名の方もアメリカではローンはすべてノンリコース(もし返せなくなったら家などを渡したり、自己破産すれば返済義務がなくなる)と思いこんでおられるのですが、実はこのサリーメイのローンだけはなぜか法律が変更されず(一部では民営化されたサリーメイの政府に対するロビイングの成果とまで言われている)所謂「リコース・ローン」なのです。

しかも、先ほど申し上げました通り、もともと政府によるローンだっただけに仕組みが相当いびつでして、たとえば・・・

期限前返済禁止! 

繰り上げ償還なし!

延滞は1度のみ、2度目の延滞からは100%返済が義務付けられる!

いわゆる消費者保護法の適用外!!!
(つまり、上限金利なし、自己破産免除なしなど・・・業界用語で”永久リコース”と呼ばれますが日本のサラ金より性質が悪い)


などなど・・・。

サリーメイが政府機関であれば政府が取り立てを止めることもできるでしょうが、単なる民間会社になってしまったので大多数の債権はどんどん取り立て会社に回されています。

アメリカで学資ローンを借りたことが無いのになんでこんなことを知っているのか、というと・・・・

まったくお恥ずかしい話しながら、我々投資銀行にいたものはまさにこの学資ローンを組みこんで証券化し、住宅ローンよりはるかに安全な資産です、と喧伝しそれをネタに多くの資金を集めていたからです。

二束三文になった住宅を差し押さえても困ってしまいますが、こちらは人ひとりの一生分の給料を差し押さえられる訳です。

しかも国民全員に年金番号が付いているアメリカでは個人ローンの取り立ては実に容易です。簡単に追いかけられます。

住宅なら渡されてしまうとそれでおしまいですし、値下がりリスクもあるのですが、こちらは生きている限り永久に取り立てられるし、死んだら生命保険でカバーできる・・・したがって他のどのローン債権よりも格付けが高く取れる!

というからくりです。

クリントンが大統領だった2000年あたりまではアメリカも未曽有の好景気でしたからまさか自分の学資ローンが未払いになるなどと想像した人がいなかったのかもしれませんが、我々は一度でも滞納した瞬間に「ロン」されてしまうこの仕組みに驚愕するとともに、証券化するのにこれほど都合のいいアセットはないな、と思っていた訳です。

この学資ローン、およそ1兆ドル程度の市場規模なのですが、一回でも延滞すると当初3%程度の金利がある日突然15%とかになってしまい(思い出してください。上限金利が無いのです!!)、金利を含めると1.5兆ドルと言われるサブプライムローン市場どころの規模では無い筈です。

更に現在この失業率ですから、延滞は増える一方。普通の大学を卒業した人がこの状況なんですよ。

因みに全米の大学の卒業生の7割はこの学資ローンを使用している、というデータもあります。

この学資ローンの問題点は・・・まさに2年前に指摘した点なのですが・・・サブプライムローンと違って、

「中流と言われるごく普通のアメリカ人を巻き込んでしまっている」

という点です。

まあ、言葉は悪いですが、お金がないのに無理して家を買った方も悪いといえば悪い。

しかし、教育の問題はそうはいきませんよね。

そしてこの失業率の増大ですから、一発触発とはこのことで、これは住宅ローン以上に大問題(経済的にも社会的にも)、というお話は極めて正しいのです。

先ほど申し上げましたようにサリーメイがいつのまにか民営化されどんどん債権を譲渡してきて、我々のような投資銀行が証券化とともに更にそれを下請けの取り立て業者に売却していきます。

住宅と違って相手は一人の人間ですから、ひところの日本のサラ金問題のように最後は腎臓を売れ、という話になりかねません。

現在不良債権化した学資ローンの規模については諸説ありますが(財務省、教育庁など出す所によりばらつきがある・・・理由はよくわかりません)メディアンをとると大体500億ドル程度はすでに不良債権化しているとみて間違いなさそうです。しかしながら、先ほど申し上げました通り、実態はそれよりかなり多いという可能性が高い。

以上、仕組みなどもっとくわしく知りたい方は最早これ以上の本はありません、という1冊をご紹介しておきます。

前にもご紹介した、堤未果さんの続編、

ルポ 貧困大国アメリカII

です。

本書では、他にも年金問題など、大変よく調べておられており、アメリカの状況の凄さに、いや、びっくりされますよ、みなさん!

存じ上げなかったのですが、堤さんは米国野村証券にお勤めなんだそうですね。

普通こういうことを書いていると、

「そんな暇があったら仕事しろ!」

とか陰湿にいじめたりクビにしたりする会社が多い中で、こういうきちんとした方を雇っているという話を聞いて、野村証券、見直しましたよ、まじて(笑)。 

やるときゃ、やる、という訳ですね。

**と誉めてみましたが、実際はおやめになってから本格的ジャーナリスト活動をおはじめになったとのこと。

は〜、残念・・・・

まあ、ご本人の価値が変わることはございませんが、訂正します。


ではまた。
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