対日非難決議案の細部や米政界の思惑などに反発しても建設的な効果は見込めまい。従軍慰安婦問題の歴史的な暗部を直視し、従来の反省と対応を繰り返し説明して、日本の信頼感を築きたい。
第二次世界大戦中の従軍慰安婦問題をめぐり、日本政府を追及する決議案が米下院外交委員会で採択された。慰安婦制度は日本政府による強制売春だったと判定し、事実と歴史的責任を認めて謝罪するよう促している。
賛成三九、反対二という投票結果は、超党派の厳しい空気の反映だ。下院本会議でも、採決されれば可決は確実とされる。
一方、決議案には日米同盟の重要性を確認する項目も、付け加えられた。一九九三年に河野洋平官房長官が旧日本軍の関与を認めて「おわびと反省」を表明した談話にも触れ、談話の誠意について理解を広げるためにも謝罪すべきだと論じた。
日本側も、責任逃れと受け取られるような反論に精力を費やすべきではない。多数の女性の名誉と尊厳を損なった責任を受け入れ、謝罪の気持ちと、これまでに示した誠意を、繰り返し説明するほかない。
この問題は、日米両国間の対立の芽にしてはいけない。アジアの近隣国が必ずしも政治的に工作したわけでもあるまい。旧軍の加担などで心身に傷を負った女性らに機会ごとに謝罪し、現在の日本の人権感覚、倫理観について米国、国際社会の理解と信頼を得ることが正道だ。
ただし、対日非難が何度も蒸し返される原因については、教訓を学んでおく必要がある。
安倍晋三首相は、四月に訪米した際、ブッシュ大統領に「心から同情している。申し訳ない思いだ」などと心境を説明し、大統領は謝罪を受け入れた。首相は、米議会指導者らにも同様の心境を説明している。
それで沈静化したはずの問題が再燃したのは、今月半ば、日本の一部の評論家らが米紙に意見広告を掲載し、慰安婦募集をめぐる「狭義の強制性」の否定といった事実認識を展開したためともいわれる。
特定の有志の広告が対日政府決議案の引き金になったとすれば遺憾だが、その背景には、首相が当初、官憲による強制連行などを否定する見解を強調していた経緯もある。
米政界では、来年の大統領選や議会選を控え、アジア系組織票に敏感になっている議員は少なくない。人権重視の姿勢を有権者に訴えたい議員も多いだろう。首相は現実の環境も考慮に入れ、さまざまな発言に繊細な注意を払わねばならない。
この記事を印刷する