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【コラム】

筆洗

2007年6月28日

 米下院外交委が従軍慰安婦問題で、日本政府の謝罪を求める決議を採択した。昨年九月に次いで二度目で、今回は本会議でも可決必至の形勢だ。在米日系人社会は一九八〇年代の自動車摩擦で起きた日系人排斥の再現を恐れる▼この問題は、安倍首相がことし三月「狭義の強制性はなかった」と国会答弁、米ワシントン・ポスト紙に社説で批判されたのが再燃の火種となった。翌月の訪米時に首相は釈明と反省をしていったん沈静化したはずだった▼それが今月十四日になって、自民、民主の超党派の国会議員と評論家らが同紙に「ザ・ファクツ(事実)」の大見出しで意見広告を掲載、これが米議会の憤激を買った。とりわけ「慰安婦は公娼(こうしょう)」「米占領軍も日本政府に慰安所の設置を求めた」の指摘が火に油を注いだ▼村山内閣の時にでき、この三月に解散した「アジア女性基金」の設立に尽力した大沼保昭東大大学院教授が『「慰安婦」問題とは何だったのか』(中公新書)を緊急出版している▼大沼教授は、歴代首相の「お詫(わ)びの手紙」で元慰安婦の女性たちの心をつかみながら、韓国では被害者救済の実も取れぬまま終了した基金の“失敗”を、右も左も「法的責任」にこだわるあまり「道義的責任」を軽視したこと、政府と国民が分かち合うべき公共性が欠けていたとみる▼加藤陽子東大准教授は近著『満州事変から日中戦争へ』(岩波新書)で、旧陸軍の国防思想普及運動の手口は「事実」で「推断」させることだったと紹介する。米紙への意見広告は先祖返りを思わせる。

 

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