きょうの社説 2010年4月19日

◎ものづくり創生協解散 見えない国の中小企業戦略
 北陸3県の企業約270社が会員になっている「北陸ものづくり創生協議会」が解散す ることになった。民主党の事業仕分けを受けて、経済産業省が今年度から協議会への補助金を廃止したためという。産学官連携の新産業創出を支援してきた同協議会の活動と成果の検証が求められるところだが、気掛かりなのは、事業仕分けで産業支援事業を見直した後の、新たな中小企業の成長戦略を鳩山政権が明確に打ち出していないことである。

 昨年末にまとめた新成長戦略の基本方針は、ものづくり産業や中小企業に関してほとん ど触れていない。6月に策定する新成長戦略の中でしっかりした中小企業政策を示してもらいたい。

 北陸ものづくり創生協議会は、経産省の「産業クラスター計画」に基づき、2002年 に設立された。産業クラスター計画は、地域の中小企業やベンチャー企業の新事業展開やイノベーションを促進して、産業集積(クラスター)の形成をめざすものだ。

 しかし、そうした企業活動を支援する協議会事業への補助金は、政権交代前の民主党の 事業仕分けで「民間実施の事業」と指摘されたため、経産省は今年度、予算計上を見送ったという。

 一方、行政刷新会議の事業仕分けでは、文部科学省が進める産学官連携の「知的クラス ター創成事業」などが廃止の判定を受け、存続が危ぶまれた石川、富山県の共同事業(健康創造クラスター事業)が他事業と統合する形で何とか継続するという経過をたどった。

 民主党は中小企業施策を一元的に行う体制を主張しており、経産省と文科省が似通った 事業を行う状況の見直しに動いたのは当然ともいえる。が、今年度予算の中小企業施策の多くは従来の延長線上のものであり、物足りないといわざるを得ない。

 新成長戦略方針は環境・健康・観光の市場拡大を図り、日本の強みをアジア市場で生か すとしている。そうであれば、成長分野への中小企業の参入をどう促し、強みのものづくり産業をどう強化するかなどについて踏み込んだ戦略と政策を描き出してほしい。

◎相次ぐ虐待事件 見逃さない体制づくりを
 虐待で幼い命が奪われる事件が後を絶たない。年齢の若い親やその交際相手が加害者と なり、子どもを不満のはけ口にして暴力を加える。3月には十分な食事を与えず、子どもを餓死させる悲惨な事件もあった。家庭という密室で繰り返される虐待は外から見えにくいが、なかには兆候に気づきながら、対応が後手に回ったり、関係機関の連携が不十分だった事例も報告されている。

 2000年に児童虐待防止法が施行され、この10年で虐待に対する認識が高まった。 児童相談所への通報件数の増加は、社会の理解が進んだことの表われでもある。法改正を経て児童相談所の権限が強化され、地域のネットワークも整備された。それでも歯止めがかからないのはなぜか。

 最近は就学前の乳幼児が犠牲になる事件が多く、外部との接点の乏しさが発見を困難に している。定期健診を受けていないケースも目立つが、受診を促す取り組みは家庭の実態把握という点でも重要である。学校や保育所、保健所、医療機関、地域社会が認識を共有し、兆候を見逃さない体制を整える必要がある。

 今月には大阪府堺市で母親の交際相手だった23歳の男が1歳半の男児の腹を圧迫して 死亡させた。門真市でも3月、母親と同居中の19歳少年が2歳男児に暴行を加えて死なせた。いずれも「泣きやまないので腹が立った」と供述している。子どもは言う通りにならないという、極めて当たり前のことさえ分からない人間が育児にかかわった事件である。そうした未熟さは虐待する親にも共通する。

 3月には奈良県桜井市で5歳男児が餓死し、両親が逮捕された。夫婦関係の悪化が育児 放棄につながるという虐待の典型的な例だった。この事件では、男児が健診を受診していなかったのに、市職員が家庭訪問せず、兆候が見逃された可能性も指摘されている。

 事件発覚後に聞かれるのは「もう一歩踏み込んでいたら」という言葉である。各地の事 件が突きつける教訓を受け止め、子育て家庭を孤立させない手立てを地域の実情に即して考えていきたい。