肉食を減らしても温暖化対策にならない?(でも健康のために肉食は減らそう)
これまでに何度も、畜産による食肉や乳製品の生産が、メタンなどの温室効果ガスを増やしていると指摘されてきた。
ウシのゲップが象徴的な事例として取り上げられるが、農業そのものが温室効果ガス発生要因とも言われている。 批判の声も大きかったIPCCだが、農業分野の排出規制を最初から入れていないことも疑問視されていた。 研究者や環境NGOなどが、農業生産で発生する温室効果ガスを二酸化炭素に換算して カーボンフットプリントを算出しており、牛肉1kg当たりの排出量が、中型車の走行距離で比較されたりしている。 これに加えて最近では、農業生産に使う水資源の枯渇も指摘されており、ウォーターフットプリントも算出されている。 そして牛肉食が環境悪化を促進するだとか、有機農業の方が温室効果ガスをより排出するなどと言われている。 例えばブラジルでは、牛肉生産のためにアマゾン原生林を開墾して牧場としており、牛肉は特に悪者になっている。 ヨーロッパでは、週に1日だけ肉を食べない日を作る運動が始まっており、環境保護だけでなく健康のためにも、 毎週木曜日は町中のレストランが、社員食堂も含めて、肉を使わない料理を出すと決めたところすらある。 ドイツに住んでいた時、まだBSE発生前だったが、毎日あんなに肉を食べていることに驚いた。 食べすぎで体重が増えると、交通機関での移動でも二酸化炭素排出は増えるので、肉食は二重の意味で悪者だ。 菜食は無理だという人が肉食を続けるために、代わりにカンガルー肉や鯨肉を食べる、というアイデアもあった。 ところが、今回引用したAFPの記事にあるように、肉食を減らしても温暖化対策にならないという主張もある。 Mitloehner 博士は、これまで様々な警告を発してきたFAOの報告書も批判している。 博士の研究紹介などは次の通り。 http://animalscience.ucdavis.edu/faculty/Mitloehner/default.htm (注:Mitloehner 博士はドイツ出身で、ドイツで研究していた時の綴りは Mitl?hner(文字化け部分は o の上に¨)。 アメリカではウムラウトを使わない方が無難なので、oe と綴りを変えている。 カタカナ表記は、「ミットレーナー」の方が近いと思うが、アメリカでの発音は未確認。) 誤訳の疑いを持つ人は、元の英語記事で確認してほしい。 http://green.yahoo.com/news/afp/20100322/sc_afp/scienceclimateanimalwarming.html 【… ミットラーナ氏は、ウシやブタが温暖化要因であるとの考えは科学的に正しくないと指摘し、国連が2006年に発表した報告書など複数の報告書が、温暖化に対する家畜の影響を誇張していると批判した。国連の06年の報告書「Livestock's Long Shadow(家畜の長い影)」は、家畜類が生み出す温室効果ガスは世界中で輸送によって排出される量よりも多く、CO2換算で温室効果ガスの18%に上るとしている。 ミットラーナ氏は、この報告書が温暖化問題の解決に関連した真の問題から人びとの目をそらさせていると批判。国連は畜産と化石燃料の温室効果ガス排出量を比較するのではなく、類似するもの同士で比較すべきだったと指摘し、「温暖化の抑制につながるのは畜産の縮小ではなく、畜産の効率化だ」と述べた。「肉類や乳類の生産を減らすことは、貧困国における飢餓を悪化させることにしかならない」 ミットラーナ氏は、先進国の温暖化対策について、畜産や肉食を減らすことに注目するのではなく、「電力や暖房、車の燃料に使用する原油や石炭の量を減らすことに集中すべきだ」と提言。米国では輸送部門の温室効果ガス排出量は全体の26%に上る一方で、ウシやブタの畜産は3%程度でしかないと語った。】 アメリカ化学会(ACS)のリリースは次の通り。 http://portal.acs.org/portal/acs/corg/content?_nfpb=true&_pageLabel=PP_ARTICLEMAIN&node_id=222&content_id=CNBP_024345&use_sec=true&sec_url_var=region1&__uuid= 該当する講演の要旨は次の通り。 http://abstracts.acs.org/chem/239nm/program/view.php?obj_id=20988&terms= 博士の研究分野は「大気環境(air quality)」 で、畜産に伴う様々な物質の放出(アンモニアなど)の測定である。 実際に測定しているから、FAOなどの報告書が誇張していると感じるのだろう。 まあ、これはアメリカでの研究だから、FAOの値は、アメリカ国内の畜産には当てはまらないということだろう。 国連というのは、結局は政治的駆け引きの場であり、科学者の意見を尊重していないという批判もあるし。 以前、FAOの報告書を金科玉条のように振りかざして、環境NGOなどを痛烈に批判している人がいた。 もし博士の論文が出たら、それを読んだ上で、FAO報告書の再評価をしてほしい。 その再評価の際には、国連機関には権威がある、などという前提から自由になって考えてほしい。 勘違いしてほしくないが、FAO報告書を信じる人も信じない人も、議論に勝った負けたのレベルで考えないでほしい。 温暖化原因の結論がはっきりするまで何も話すな、などとも言わないでほしい。 科学者の研究活動では、他人と違う新仮説を提示することも仕事の一つである。 仮説や予想が発表されると、他の研究者が様々なデータを持ち寄って検証し、そして真実に少しずつ近づくのだ。 その過程では、最初に提示された仮説を捨てて、よりふさわしいと思われる新仮説に乗り換えてもかまわない。 ところで、疑い深い人の中には、Mitloehner 博士が畜産業界の代弁者ではないかと思う人もいるだろう。 ということで、公開されている研究費取得状況を確認した。 http://animalscience.ucdavis.edu/faculty/Mitloehner/pdf/Grants.pdf 業界からの資金と思われるものは、National Pork Board からの $40,000(2003年12月から 2005年7月)のみ。 他は公的な資金なので、特に業界に傾斜した研究というわけではないようだ。 ほとんどないと思うが、今回の報道を根拠に、畜産関係者や外食産業が肉食の推進に注力するかもしれない。 国内畜産産業の振興のためにも、私は肉食は否定はしないが、仮説の一つとして冷静に対応してほしいものだ。 私の父の仕事は酪農関係で、食肉加工会社の副社長もしたから、私にとって畜産は身近な産業であった。 父が提案した酪農モデル事業は、農協や企業の一部が反対したが、農林水産省の後押しで実現した。 開始から10年以上経過してやっと、山間部に適した酪農の新形態として認められ、今では視察も増えている。 ただでさえ乳価低迷で酪農経営が困難なのに、温暖化促進だと攻撃されていたことは残念であった。 バイオガス利用などの排出削減措置の推進も必要だが、酪農を完全否定することは避けてほしい。 私は中学・高校のときに、牛乳を毎日2リットル以上飲んでいたし、チーズやヨーグルトなどの加工品も好きだ。 今でも乳製品の消費は多いが、健康維持のために、肉よりは野菜の比率を増やした食生活を選びたい。 それは、株主であるロックフィールドの売り上げを増やしたいという、少々宣伝でもあるが。 追記(4月11日): 本日、BSフジで放送された「ディスカバリーチャンネル・セレクション」では、牛肉生産を減らそうと言っていた。 エサの生産でも水が大量に必要だし、放牧地のために熱帯雨林が破壊されていることも、環境悪化につながる。 ウシから発生するメタンの大部分は糞に含まれ、回収技術も進歩しているが、回収率には限界がある。 一番の温暖化対策は、都市農園を作って食料品の輸送距離を短くして、究極の地産地消を実現することである。 (最終チェック・修正日 2010年04月11日) |
コメント(1)
>ウシから発生するメタンの大部分は糞に含まれ、回収技術も進歩しているが
ハイ、これは初歩的な錯誤ですねw
畜牛からの排出メタンは7対1の割合でゲップに含まれるものがほとんどで、糞に含まれるメタンは全体の十数%に過ぎません。
ttp://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg/2004ghg.pdf
そして少し考えれば判ると思いますが、ゲップからのメタン回収はほぼ実現不可能で、残る手段はkkneko氏が必死になって誤魔化そうとしてらっしゃいました、「ゲップそのものの排出抑制」ですがコストが高すぎてやはり実用化はほぼ不可能です↓。
ttp://blogs.yahoo.co.jp/toripan1111/8913473.html
素直に牛肉の数分の一しか温暖ガスを排出しない、クジラさんのお肉の食用利用すれば少しでも環境負担を減らせるんですけどねェ・・・?w
2010/4/18(日) 午後 4:47 [ toripan1111 ]