愛知県豊川市の一家5人殺傷事件で、殺害された会社員、岩瀬一美さん(58)が事件直前、県警豊川署に「長男が自分のクレジットカードを勝手に使い、ネットオークションなどで200万~300万円の借金を作った。どうすればいいか」と相談していたことが17日、分かった。捜査幹部が明らかにした。一美さんはその後、自宅の電話を止めてインターネットを使えなくしたという。同署は長男の高之容疑者(30)=殺人未遂容疑で逮捕=がこれに激高して家族を襲ったとみて調べている。【沢田勇、山口知】
捜査幹部や親族によると、高之容疑者は引きこもり状態にあった事件前、ネットに一日中没頭したうえ、ゲームなどをオークションなどで購入しては一美さん名義のカードで支払っていた。一美さんら家族は12~15日に計8回、購入などに関するトラブルを巡って110番したり「これ以上エスカレートさせないためにはどうすればいいか」と同署に相談していた。
一方、一美さんの遺体には顔や首などに4カ所▽孫の金丸友美ちゃん(1)の遺体には額や左腕などに3カ所の刺し傷や切り傷があることが同署の調べで分かった。司法解剖で一美さんの死因は出血性ショックだった。
さらに妻正子さん(58)=1カ月の重傷=は顔や太ももなど10カ所▽三男文彦さん(22)の内縁の妻、金丸有香さん(27)=同=は首や手など17カ所▽文彦さん=2週間の軽傷=も顔や首など10カ所の傷があった。正子さんは顔に殴られた跡もあった。
高之容疑者は一美さんだけでなく他の4人も執拗(しつよう)に襲って自宅に火を放つなど、家族全員への殺意をうかがわせる行動を取っており、同署は動機の解明を急ぐ。
家族が事件直前の12~15日に計8回相談していた、高之容疑者とのトラブルについて、同署は8回とも、話し合いによる解決を助言したが、結果的に事件を防げなかった。高之容疑者の暴力や家族のけがは一度も確認されなかったうえ、11日以前には相談や通報は一度もなかったという。
同署によると、12日夜、岩瀬さんの次男(24)が「兄が父と口論して怖い」と署に通報。家族は駆け付けた署員に、高之容疑者のネットオークションでの借金を説明。署員の仲介で「借金はこれ以上せず、少しずつ返す」ことで和解したという。
13日夜には署で「クレジットカード会社から警察に被害届を出すよう言われた」と相談。署は「親族間の金銭トラブルは被害届を受理できない」と説明した。
15日にも「兄が物を投げたりして暴れている」などと110番があったが、けが人はなかった。【秋山信一】
毎日新聞 2010年4月18日 東京朝刊