夫婦の不仲のつけを背負わされ… 奈良・桜井市男児餓死事件
2010年04月17日07時46分 / 提供:産経新聞
【衝撃事件の核心】
「顔が夫に似ていて憎らしかった。この子には愛情がわかなかった」。そんな理由で母親はわが子を死に追いやった。奈良県桜井市で、会社員、吉田博(35)と妻のパート従業員、眞朱(26)両被告=ともに保護責任者遺棄致死罪で起訴=が長男の智樹ちゃん(5)に食事を与えず、餓死させたとされる事件。捜査当局の調べに対する両親の供述から浮かび上がったのは、夫婦の不仲の“つけ”を一身に背負わされた幼子の悲劇だった。
(永原慎吾、徳原麗奈)
■いびつな生活
博被告の勤務先で知り合った2人が結婚したのは平成15年5月。翌年に智樹ちゃんが生まれ、桜井市粟殿のハイツで暮らし始めた。眞朱被告は「(智樹ちゃんが)かわいくてたまらない」と自分の両親に話すほど、溺愛(できあい)。3人で出かける日もあり、絵に描いたような幸福な家庭だったという。
そんな家族関係に微妙な変化が起き始めたのは18年12月に長女(3)が生まれたころだった。眞朱被告が長女の育児にかかりきりになると、智樹ちゃんがすねたり、眞朱被告の気を引こうと暴れるようになった。
眞朱被告は当初はしつけとして、智樹ちゃんをたたいたり、つねったりするようになったが、暴力はエスカレートしていき、頻度も増えていった。暴れる智樹ちゃんが手に余るようになると、ロフトと呼ばれる室内のスペース(床面からの高さ約2メートル、幅・長さ約2メートル)で智樹ちゃんを寝かせるようになったという。
事件後、ある捜査員は「もし、智樹ちゃんをロフトの上で生活させるようなことをしなければ、狭い部屋に肩寄せ合って穏やかに暮らし、後の悲劇も防げたのかもしれない」と語った。
同じ室内に住みながら、智樹ちゃんだけをロフト上に隔離するといういびつな生活が始まったのはこのときからだった。
■家族をつなぎとめたのは…
同じころ、仲が良かった夫婦関係もこじれ始める。博被告が親族の借金の保証人になっていたことを眞朱被告が初めて知り、その後も博被告が親族のマンションの延滞料金の肩代わりをするなど、金銭問題が夫婦関係をむしばんだ。
眞朱被告は博被告だけでなく博被告の実家とも折り合いが悪くなり、ストレスを募らせるようになった。そのはけ口となったのが、智樹ちゃんだった。
しつけだったはずのせっかんは理不尽な暴力へと変貌(へんぼう)し、智樹ちゃんの髪を引っ張って、机に頭へぶつけるなどの虐待を繰り返すようになった。事件後に県警が押収した机には血痕のようなものも付着。智樹ちゃんの遺体には数十カ所のあざがあったほか、腕にはアイロンを押しつけたとみられる痕跡も残っていたという。
眞朱被告に対し、博被告はどこまでも無力だった。エスカレートする眞朱被告を止めるのは父親である博被告の役割でもあるはずだが、「妻に嫌われたくない」と考えた博被告は眞朱被告の虐待を見て見ぬふりをし、同調してせっかんを加えることもあったとされる。
「幸福そのものだったはずの家庭は、このころにはガラス細工のようにもろくなっていた。壊れそうな家族をつなぎ止めていたのがおそらく智樹ちゃんだったのでは。智樹ちゃんが虐待を受けることで、家族はようやくバランスを保っていたのでは」と捜査関係者。
幼稚園や保育所にも通わせてもらえず、外部と完全に遮断されたいびつな世界に閉じ込められた智樹ちゃん。親たちから満足な愛情を与えられない子供たちの身長や体重が伸び悩む「愛情遮断症候群」に陥っていた可能性もあるという。
死亡時の智樹ちゃんの身長は約85センチで厚生労働省が公表している2歳〜2歳半の男児の平均(平成12年で87・1センチ)に近かった。
児童虐待に詳しい、津崎哲郎・花園大学教授(児童福祉論)は「乳幼児虐待事件では愛情遮断症候群がしばしば見受けられる。智樹ちゃんも、『愛情がわかない』という両親の感情を敏感に感じ取り、成長が滞るようになったと考えられる」と分析する。
両親の暴力は次第に、無関心へと姿を変えていった。眞朱被告は昨年5月から橿原市のショッピングモールでパート従業員として勤務するようになった。長女はショッピングモール内の託児所に預けていたが、智樹ちゃんはロフトの上に放置したまま。真夏にクーラーもつけずに外出することもあったという。
昨年9月には、眞朱被告は智樹ちゃんの食事も満足に与えなくなり、細長く巻いたおにぎり2個と水だけを1日分の食事として置いたまま出かけるようになった。
智樹ちゃんの体はだんだんとやせ、今年に入ったころには食事を与えても食べられないほど衰弱した。
弱っていく智樹ちゃんを隠したかったのか、ハイツに遊びにきた自らの両親にも「(智樹ちゃんは)夫と一緒にどこかへ遊びに行っている」などとうそをつき、会わせないようにしていたという。
■私が母親でなければ…
智樹ちゃんは今年2月末には全く食事を受け付けられないようになった。それでも、両親は智樹ちゃんを病院に連れて行こうとはしなかった。
逮捕後、眞朱被告は県警の調べに対し、「救急車を呼べば虐待を詮索(せんさく)される。刑務所に入りたくはなかった」などと供述。死にゆくわが子を前にしても眞朱被告は、保身のことしか考えていなかった。
眞朱被告がようやく電話を取り、泣きながら県中央こども家庭相談センターに連絡をしたのは翌月3日のことだった。
捜査関係者によると、保護されたときの智樹ちゃんは「骨と皮のような状態」。智樹ちゃんは搬送された病院でまもなく死亡。両親は県警に保護責任者遺棄致死容疑で逮捕された。
死にゆく智樹ちゃんはもうろうとする意識のなかで何を思っただろう。家族がまだ幸せだったころのやさしい“慈母”の姿だったのか。それとも、暴力を振るい、食事を与えない“鬼母”だったのか。
逮捕された眞朱被告は取り調べに対し、泣きじゃくりながらこう話したという。
「私が母親でなければ智樹は元気に育っていた」
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