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【昭和正論座】中国の「自給自足」に驚く 東大教授・佐伯彰一 昭和50年4月25日掲載 (2/4ページ)

2009.4.18 08:35
佐伯彰一 佐伯彰一 

外国の書物も見当たらず

 一切をわが手で、というのは、美しいスローガンながら、現下の世界の大勢には、完全にはみ出し、逆行するものだ。一体、現在の中国でも、自給自足を貫くことの出来るのは、地勢、経済もろもろの環境条件に恵まれた人民公社だけであろう。ぼくらの見せられた公社は、工業地帯の中心たる上海のすぐ間近で、さまざまな素材、原料の入手、また交換が容易に出来る、まず最良の好条件に恵まれたものであろう。それだけに、十分に手入れの行きとどいた田畑、水利施設、いかにも整然たる修理工場の配置、住宅などを案内してもらいながら、この公社が、外国人向けの一種ショーウインドーという印象も否めなかったのである。

 しかし、人民公社における一切の集団化、その自給自足の成功の度合を判定することは、ぼくの任ではない。その反現代的というほかない実験の大胆さ、勇敢さに敬意を表すれば足りる。ぼくとして興味をもち、また言わずにいられないのは、この自給自足の大原則が、どうやらほかの分野、領域にも強力に推進されつつあるという事実である。

 たとえば、北京、上海、西安などで、ぼくは何度か書店をのぞいてみた。中国語にすごく弱い人間として、ほんの垣のぞきではあったが、書棚に並べられた本の種類が、どの町でも驚くほど一様、均一化しており、またきわめて限られている点だけは、いやでも気づかずにいられなかった。いちばん目につきやすい中心の棚に毛主席の全集、またマルクス、エンゲルスの著作集がずらりと並べてあるのは当然のこととしても、ぼくの特に注意して探した文学、語学の棚には、およそ外国の書物も雑誌も一冊も見当たらなかった。いや、ぼくの見たかぎり、外国文学は、翻訳さえもまるでなかったのである。

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