ニュース: 文化 RSS feed
【正論】天皇陛下ご結婚50年を祝して 国学院大学教授・大原康男 (1/3ページ)
欧米を参考に明治期から
天皇・皇后両陛下には明日、ご結婚満50年をお迎えになる。一般でいう金婚式に当たるわけだが、既に本年1月7日にはご即位満20年を閲(けみ)しておられ、重ねてのご慶事に心より奉祝申し上げたい。
天皇のご結婚を記念してお祝いするのは、明治27年に挙行された明治天皇の「大婚25年祝典」が嚆矢(こうし)である。これは欧米諸国で広く行われている銀婚式を参考にした全くの新例であるが、大正14年に執り行われた大正天皇のそれは「大婚25年」ではなく、「天皇皇后結婚満25年」と称された。
「大婚」は「天子の婚礼」を意味する漢語に由来する。皇室の婚嫁や親子・親権などについて規定した皇室親族令でも「天皇の婚姻」とされているため、ご即位の翌年である明治元年に結婚された明治天皇とは違って、皇太子であられた明治33年の大正天皇のご結婚は「大婚」ではないとされたからであろう。
続く大正13年の昭和天皇のご結婚も、昭和34年の今上(きんじょう)天皇のご結婚も大正天皇と同じく皇太子時代のことであったので、お三方に対しては「大婚…年」という表現は、少なくとも過去の法令の用語に準拠する限り、適切ではないと思われる。
とはいうものの、大正天皇のご結婚25年を記念して発行された切手には「大婚25年紀念」と印刷されている。同じように昭和天皇のご結婚50年記念切手にも「大婚50年記念」とあるのである。この前例をもってすれば、一つの慣行的呼称とも認められ、今回のご慶事を「大婚50年」と称したとしても、必ずしも全くの誤りだとは言い切れない。
ついでながら、大正天皇のご結婚はわが国における神前結婚式のルーツとなったことでも知られている。皇室の祖先神である天照大神を奉祀(ほうし)する宮中の賢所で結婚の儀を挙げられた皇太子に倣って、神社で結婚式を行いたいという声があちこちから起こった。翌明治34年に神前結婚式第一号を営んだのが当時東京・日比谷に鎮座し、後に飯田橋に移転した現在の東京大神宮である。