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【正論】中国の内需拡大は成功するか 拓殖大学学長・渡辺利夫 (1/3ページ)
「貧困者の貧困化」が問題
WTO(世界貿易機関)加盟を前後する時点に始まり、10年近くつづいた中国の安定的高成長は北京五輪を前に失速し、昨年の第4四半期には国際金融危機にも直撃されて6・8%という稀(まれ)にみる低成長となった。昨年11月には内需拡大を求めて4兆元(54兆円)の緊急景気刺激策が発表され、3月の全人代(全国人民代表大会)での決定を受けて施行の段階に入った。「8%死守」が全人代のスローガンである。
中国経済の特徴は、その成長パターンが外需主導型であり、内需が弱いことにあるといわれる。しかし内需は決して小さくはない。内需のうちでも国内消費が一段と冷え込む一方、国内投資が圧倒的に大きいことが問題なのである。投資はやがて最終消費財の供給力を拡大する。最終消費財の拡大供給を支える購買力は弱く、これがデフレとなって経済の低迷をもたらす危険性がある。
中国が最終消費を中心に据えた内需主導の発展軌道を見いだすことは容易ではない。人口の圧倒的部分を占める農村人口の所得上昇のための政策が不在だったからである。所得分配不平等化は明らかである。
直近の家計調査によれば、農家家計において最下位30%所得階層、都市家計において最下位20%所得階層の家計貯蓄がマイナスである。マイナスの家計貯蓄とは、みずからの経済的地位を向上させる手段をもたないことと同義である。現在の中国においては「貧困者の貧困化」が構造化されているのである。
中央の指令きかない地方
高成長の過程で中間層が拡大したことは事実である。しかし、それよりもはるかに速い速度で貧困階層(「弱勢群体」)が増加している。貧困農村から押し出される「民工」がその典型である。今回の全人代が「8%死守」を提起したのは、それが実現されねば「弱勢群体」の規模を一段と大きくしてしまい、鬱積(うっせき)する彼らの不満に抗するすべがないという、退(の)っ引きならない判断が党中央にあってのことであろう。