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【昭和正論座】日欧関係の重要性認識を 京大教授・高坂正堯 昭和50年5月17日掲載 (1/4ページ)
大歓迎された英女王訪日
エリザベス女王の訪日は、五月の美しい季節に恵まれて和やかに終わった。とくに、女王の訪問を日本人が自然な気持ちで迎えることができ、それが結果として大歓迎になったのが大層よかった。イギリスの新聞も「フォード訪日とは比べものにならない日本国民の温かな大歓迎」ぶりを報道し、日英間の「戦後」は完全に終わったと、今回の訪日をたかく評価しているようである。
おそらく、こうした訪問の成功は、まず、それが「旧友」の訪問であったという事実によるものであろう。旧友の訪問は、つねによいものである。それは甘ずっぱさを伴なった楽しい感情をひきおこす。イギリスは明治以後日本が工業化の道をたどったとき、あこがれ、多くを学んだ国であった。イギリスのことは日本でよく知られている。しかも日本は二十年近くの間、日英同盟という提携関係にあった。そこには戦前の日本外交の成功と失敗の記憶がある。さらに、日本とイギリスは、現在とくに密接な提携関係にはない。それ故、現実の政治関係につきものの生臭さとも言うべきものがない。そうした意味で、エリザベス女王の訪日は「旧友」の訪問として、楽しいものとなった。
以上のことを言い換えれば、日本とイギリスの関係には政治的な色彩、とくに、権力政治的な色彩が少ないということである。そしてそれは、日本とイギリスが離れて位置する「中級国家」であるという事実に基くと言えるであろう。「中級国家」は、米ソといった超大国や、超大国ではないが超大国に挑戦する中国と比べて、世界の権力政治とのかかわりが少ない。アメリカやソ連や中国は、世界政治の舞台で活躍することができるし、またそうせざるをえない宿命を持っている。したがって、それとの関係は必然的に政治色の濃いものとなる。日米関係と日英関係を比較すれば、それはまったく明白であろう。前者はより重要な利害関係にからみ、それ故、生々しい性格を持っている。