2010年2月19日 19時26分 更新:2月20日 13時20分
【バンクーバー小坂大】「喜劇王」がアクシデントに泣いた。18日(日本時間19日)のバンクーバー五輪のフィギュアスケート男子。チャプリン・メドレーに乗って演技をした織田信成選手(22)=関大=は、演技中に右足靴ひもが切れて中断したことが響いて7位。メダル獲得の夢は果たせなかった。「ショックが大きく言葉にならない」と織田選手。語るその目は真っ赤だった。
演技前から靴ひもは切れていたという。だが「感覚が変わると困るから、切れたところをくくってやっていた」と織田選手。足先のわずかな感覚の変化を嫌ったが、それは裏目に出た。
演技の終盤まで何とか靴ひもは維持した。だが最後のジャンプ、3回転ループの着氷が乱れて手をついた瞬間、異変が起こった。「(残った演技要素は)スピンなので、ここまで跳べば(靴に負担がかからずに)行けると思ったけど、全部ほどけた」。審判に自ら中断を申し出、結び直すための中断で減点された。
織田選手自身も「練習であるけど、試合ではない」と話すように、大舞台でこの種のアクシデントは珍しい。五輪では、94年リレハンメル大会フィギュア女子でハーディング選手(米国)が演技中に突然泣き出し「靴ひもが切れた」とアピールしたことが記憶に残る。また92年バルセロナ夏季大会のマラソン男子で谷口浩美選手が転倒したはずみなどで靴が脱げ、履き直している間に優勝争いから脱落した。
当時32歳の谷口選手は「こけちゃいました」と笑みで名言を残したが、この日の織田選手は引きつった顔で「自分の責任です」と言った後に泣き出し、言葉が続かなくなった。さらに滑走順が優勝したライサチェク選手(米国)の直後で「歓声を聞いて足がすくんでしまった」とも。勝負の中でどうにもならないことに対処するには織田選手は若く、ひたむき過ぎたのだろう。
ひもを直してリンクに戻った時、観客は手拍子で迎えた。温かい励ましを受け、織田選手は最後まで演技をやり遂げた。「お客さんに助けられた。反省して頑張っていきたい」。失敗を胸に刻み、4年後の舞台を目指す。