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イケメンたちの受難

<オープニング>

●権威の悪逆非道
「ヒャーハハハハハハ!」
 三下っぽい笑い声が響き渡る。
 村の広場では春祭りメインイベントが取り行われていた。村の女の子たちが、村の格好良い青年たちに泥団子を投げつける祭りである。もちろん村人たちは欠片も楽しくない。
「グッフッフ。いいザマではないか」
 巨体を揺らして楽しんでいるのは悪人ヅラの『巡察役人』とその配下である。
 ちなみに泥団子投げつけはイケメンたちが気絶するまで続く。
「お、お役人様、もう、こんなことやめてください!」
「いいのかな?」
 必死に訴えた少女のひとりに巡察役人はニヤリと笑った。
「わしに逆らって、領主様にあることないこと吹き込まれても」
「そ、そんな、ひどい!」
 そうなれば最悪、村全体が処罰されてしまう。
「み、みんな、耐えるんだ……!」
 青年たちは見栄を張ったが息も絶え絶えである。
「でも、このままでは死んでしまうわ!」
「俺たちなら大丈夫だとも……!」
 青年たちは見栄を張ったが、やっぱり息も絶え絶えである。
「……っ!」
 少女たちは涙を呑んで、彼らに泥団子を投げつけ続けた。

●たとえ泥にまみれても
 ……まァ、俺向きの話じゃねえな。
 と思いながらアックスソードの魔獣戦士・グラド(cn0013)はあえて黙する。彼も大人の階段を上る頃合いなのだ。がむしゃらに突撃するだけでは事態を悪化させかねないと知っていた。
 悲劇のエンディングをぶち壊すため、秀でた同胞の力を借りる必要がある。
「『巡察役人』、知ってンだろ?」
 年に1度、4月頃、地区の領主が村々に派遣する小役人のことだ。
 彼らの任務は調査である。村長がきちんと仕事をしているか、何らかの困りごとが起きていないか、視察した情報を領主に報告しなければならない。
「だが、その小役人にマスカレイドが混じってるようでな」
 敵の横暴は凄まじい。
 領主に悪く報告されることを恐れ、言いなりになるしかない村人たちも、いずれ堪忍袋の緒が切れ、小役人マスカレイドを倒そうと決起するだろう。
 だが、領主が派遣した役人を殺せば、村全体が反逆者として処断される。さらに、マスカレイドの『棘(ソーン)』は消滅せず、都市国家で循環し続けるだろう。
 不幸な結末を避け、真に勝利を掴む未来は、エンドブレイカーにしか作り出せない。
「ことの起こりから説明すンぜ」
 困りごとはないか。そう巡察役人に訊ねられた村長は、こう答えた。
 みんなが自分勝手な希望を出すので、春祭りのメインイベントがまだ決まっていない。偉いお役人様が仲裁に入ってくれたなら企画がすんなり通るかもしれない。
「……まァ、大体わかったろ」
 役人どもは頼まれた問題が解決するまで、という大義名分で村に居座っているのだ。
「無理矢理メインイベントを泥投げに決定する、実行してみるも盛り上がンねえからリテイク、翌日もリテイク、翌日も……って展開だな」
 普通に楽しい祭りにしようとする努力は役人どもに邪魔されてしまうそうだ。
 巡察役人には、そこそこ腕の立つ警護が10名程度ついているし、そいつらも一緒になって悪逆非道三昧だというのだから、村人たちには救いがない。

「で、事件解決のためにだが」
 グラドは薄い笑みを唇の端に刻んで言う。
「祭りにゃ旅人も飛び入り参加できるってのがイイ」
 盛り上がらないから帰れないというのなら盛り上げてやればいいのだ。村の青年たちは、いろんな意味で限界に来ているし、なお泥にまみれろとは冗談でも言える状況ではない。だが、ここで身を呈す勇者が現れたなら村は沸き立つ。
「つまり……」
 泥にまみれても、なお!
 イケメンがイケメンで在り続けるなら!
 村人は歓喜と共に祝福の声を上げ、小役人は敗北を胸に村を去る他ない!!
「……ンじゃね?」
 と、グラドは死んだ魚のような目で適当に説明した。繰り返すようだが、重要な点は泥団子を浴びてもカッコイイ男で在り続けることである。
「頑張れ」
 グラドは適当に声援を送った。
 そして、とぼとぼ村を離れて行く連中を、村の者たちに嫌疑が掛からないよう、村から離れた場所で倒してこそ物語は完遂される。小役人どもの帰り道にある、戦場に相応しい廃墟まで先回りし、強襲すればいい。
「警護のうち2人は配下マスカレイドだ。それぞれ槍と斧を持ってる。巡察役人は鞭を持ってンだが、意外と体術に秀でてるみてえだな」
 グラドによれば、その他の警護は普通の人間であるらしい。
 無理に倒さずとも戦闘が激しくなれば勝手に逃げて行くだろう。放置することで、村の人間ではなく、旅の者たちが攻撃してきた『事実』の生き証人にもなってくれる。
「ま、後は……容疑者として捕まる前に逃げるンだな」
 頑張れ。
 グラドは再び、笑んで告げた。
 救いのない場所に希望をともせる者はエンドブレイカーをおいて他にいない。
 新たな悲劇を打ち砕くため、今日も彼らは立ち上がるのだ――。


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参加者
大剣の群竜士・イェルシュナ(c00486)
弓の狩猟者・アレク(c00711)
暗殺シューズのスカイランナー・ロータス(c01059)
アックスソードの城塞騎士・アルトゥール(c01890)
ハンマーの星霊術士・セイラム(c01947)
太刀の魔曲使い・フリーシュ(c02413)
爪の星霊術士・ルルーノ(c03337)
杖の星霊術士・フィフィ(c04114)

<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

大剣の群竜士・イェルシュナ(c00486)
【追い出し作戦】
泥を受ける側に
泥を受けても平常心、余裕の笑み
涙を浮かべる娘が居ればハンカチを差し出して優しく微笑む
「大丈夫ですよ、お嬢様方…お祭り事です、楽しんで良いですよ。」
息も絶え絶えな青年の方には泥が行かないよう、さり気なく庇う立ち位置へ移動
(まぁ…割と体格は良い方です、壁ぐらいにはなれる筈)


【戦闘】
倒す順番は槍→斧→鞭
場合によっては臨機応変に変更していく

私は前衛位置にて斧持ちのマスカレイドの抑えに回り、削れるだけ攻撃でダメージを与えつつ味方に攻撃が行かないよう耐える


弓の狩猟者・アレク(c00711)
■行動
泥を投げるならば俺にやると良い!と
泥を投げつけられているイケメン達を颯爽と庇うぜ!
何故なら俺は真のイケメンだから!
庇う対象に男女の差は存在しないのだ!

例え泥を投げつけられようと、生ゴミを投げつけられようと動じず折れない心。
外見の美しさだけじゃなくて、そういう気高さを持った者が真のイケメンではないかと思うのだ。
仮に泥だらけにされたとしても、俺の魂だけは折ることは出来やしないさ…
そんな高潔さや気高さっぷりを全面に出すように、
泥だらけにしてくれたが満足かい?なんて問いたいと思うぜ。
満足出来たなら良し。満足出来ていないなら満足出来るまで俺に泥をぶつけると良い!

■戦闘
距離を取って後衛を位置取るぜ
最初は槍のマスカレイドに対して攻撃を仕掛けるが
他の対象を巻き込めそうならば【アローレイン】
そうでないなら【ポイズンニードル】を使用して攻撃する。
その後は適宜皆が狙っている敵に攻撃をするぜ。


暗殺シューズのスカイランナー・ロータス(c01059)
◆イケメン作戦

準備
髪の右側の蓮色の一房に目立たないカバー

(村人を庇い挑発的な笑顔で立ち)
わざわざ村の男前を台無しにする必要あらへん
下層で泥水啜って瓦礫を這ってきたうちにお似合いや
何でも来いや

(泥団子を受け始めると何かに気づいたようにハッとして四つん這いに屈み
不思議なまでに無抵抗で攻撃を受け続ける
攻勢がひと段落すると徐にその身体を起こす
そこには名もなき小さな花が)
「よかったなあ、無事で
一生懸命咲いとるのにこんなくだらんことで潰れたらあかんもんな」
すげえ優しい笑顔しつつ村人の死角で髪のカバーをぶちっと外す
そこに現れた髪は泥の中でも輝き失わず咲き誇る蓮の花弁のよう!

◆戦闘
敵の連携を防ぎつつ配下から優先で各個撃破
槍から倒すが相手の動き次第で声を掛け合い臨機応変に目標を切り替える
近距離からスカイキャリバーでガリガリ削る
撃破優先で動くが抑え役に危険があれば声をかけ
中距離からソニックウェーブで適宜フォロー


アックスソードの城塞騎士・アルトゥール(c01890)
権力を傘にって醜いと思うのです。

【対イケメン】
村人には思い切り投げつけるのであれば私達からの参加者にどうぞと勧める。彼らは鍛えていますから大丈夫です。
村人のイケメンさんがまだ投げられる側にいたら痛くないように泥を派手に被せてある程度したら気絶の振りをしてそっとしておくべきと勧めます。
カッコイイーとか声援を送ります。
拭くタオルくらいは用意したい。戦闘場所に移動しつつ酷い箇所は拭いたい。

【対巡察役人】
鞭を持つ役人を引き受けます。相手の連携は怖いですけど目の前の相手を他の方への攻撃が行かないように肉薄して戦います。
役割はマスカレイドの抑え役です。戦況が優位になるまで仲間を信頼し耐えます。変幻自在な鞭ですから下手に避けようとせず鎧等で受けていくべきと感じます。
行動は防御を固めます。また『ディフェンスブレイド』で攻撃を行います。
配下が撃破されたら『十字剣』で積極的に戦う。

貴方達は泥となり眠りなさい。


ハンマーの星霊術士・セイラム(c01947)
芝居】艶やかになびく長い髪。笑顔を絶やさずに『巡察役人』と
その配下に向かって挑発するように行動します。

村の少女たちには、「僕のことならご心配なく。
本当のイケメンはこの程度のことではびくともしないんですよ。」
と言って微笑みます。

十分、泥団子などをぶつけられたら、笑顔そのままに髪を
かき上げて不敵に笑い、「この程度ですか。なら、僕の
男が引き立つスパイスにもなりませんね。」と言い放ちます。

ルルーノさんの合図があったら、村娘を体を張って庇います。
「大丈夫ですよ、お嬢さん。いい男はこの位は朝飯前なのです。」

小役人の中からマスカレイドが出現したら、戦闘開始です。
村娘には「下がっていてください。危ないですよ。」と言います。

戦闘】アルトゥールさんのフォロー役として、鞭を持った役人に
パワースマッシュで攻撃します。
フィフィさんの回復が間に合わない時は、星霊スピカを召喚して
仲間の傷を癒します。倒して見せます。


太刀の魔曲使い・フリーシュ(c02413)
【心情】
楽しいはずの春祭りになんて事してくれるんや!
これじゃぁみんな楽しめへんやないの。
ボクが楽しい祭りを取り戻して見せるで。

【追い出し作戦】
ボクは村の娘に混じって投げ付ける側に回るわ。
途中で誤って村娘に向かって投げられた泥団子をイケメンが庇う小芝居をするんやな。
ボクは村娘を庇ったイケメンを囃し立てるとしようか。
「さっすがイケメンやね! カッコよすぎるわ〜」ってな感じやね。
少し早めに抜けて、先回りしよか。

【戦闘】
さぁ、祭りを目茶目茶にした罰を受けてもらわんとな!
ボクは槍もった配下マスカレイドを抑える役目に回るで。
配下には近距離で太刀の居合切りで抑え込んでいくわ。
あいつらに連携させるわけにはいかへんしな。

槍を倒し終えたら、斧→鞭の順番で対処していかへんと。
いざとなったら前に出られる距離まで近づきながら遠距離の誘惑魔曲で攻撃やな。

危険な仲間がおったら、ハピネスダンスで回復に回ったほうがえぇな。


爪の星霊術士・ルルーノ(c03337)
初のマスカレイドとの戦闘か、無事終わらせよう。

■祭り
事前の打ち合わせの通り、
祭りに飛び入りで参加するが、フィフィから合図がくるまで、
投げられてくる泥玉は、避ける事に専念。
フィフィが合図後、手が滑ったフリをして村娘へ泥玉を投げるので、
泥玉から身を挺して、娘を庇い、優しく大丈夫か、と問いかければ
…少しは、イケメンに見えるはず。

小芝居で人を騙している気がするが、
成功させるため、許して欲しい。

■戦闘
敵優先順位は槍>斧>鞭

敵の連携を断つ為に、抑え役が抑えてくれている間、
他の者と共に、一体ずつ攻撃を集中し、撃破を目指す。
攻撃自体は、爪での接近攻撃を基本とする。

ダメージが蓄積した者に対しては、
スピカを召喚し、回復を行う。
特に抑え役に対しては、注意を払っておく。
ただし負担が偏らないよう、他星霊術師と声を掛け合い、
乱用は控え、攻撃を食らったら危険となりそうなときは、
大人しく下がる。

■戦闘後
捕まる前に逃げるぞ


杖の星霊術士・フィフィ(c04114)
◆追い出し
ルルーノには水分多い柔らかい泥団子を
他のイケメン勢には
泥団子・生ゴミ・熟し過ぎたトマト(問題が無ければ納豆も)とかを投げるよ
自信たっぷりなイケメンにはサービスで大き目の泥団子も!
これも皆のイケメン度あっぷの為
心を鬼にして遠慮なくー♪
でも怪我しない様硬い物だけは避ける!
アルトゥール・フリーシュとの連携技もキメられたらいいなっ

・小芝居
ルルーノから見えやすい位置へ
投げる物を両手で持つのが開始の合図、いっくよー♪

追い出し成功したら素早く廃墟へ移動

◆戦闘
倒す順:槍→斧→鞭

後衛位置からマジックミサイルでガンガン攻める!
前に出て直接攻撃喰らわない様注意だよっ
基本は倒す順に従って攻撃組と同じ相手を集中攻撃だけど
イェルシュナが危ない時はマジックミサイル放って援護
必要なら回復も。倒させはしないよ!

誰かのGUTSが1/3程度まで減ったら
他の回復役と被らないよう声で使用の合図してから
スピカのポンちゃんに回復をお願い


<リプレイ>

●救世主伝説
 ああ、どうしたら!
 このままではみんな死んでしまうわ!
 村娘は絶望の涙を眦に湛えて泥団子を握り締める。
「……それ、預かっといてくれ」
 不意に声が降ってきた。
 仰ぎ見れば、黒いテンガロンハットをぐっと目深に被される。
 戦場に歩み行く背が頼もしい。名も知らぬイケメン――弓の狩猟者・アレク(c00711)ならきっと何とかしてくれると無条件に信じられる気がした。
「あ、あなたは……?」
 颯爽と歩み寄る彼に青年が尋ねる。
「己の身を犠牲にして村を守るおまえたちは、紛れもなくいい男だ」
 アレクは黒の瞳を細めて、泥塗れの肩を叩いた。
「だが、後は俺たちに任せておけ」
 頑張ったな。
 暖かな声音に青年たちの目頭が熱くなる。泥塗れの頬を涙が伝った。感動した。アレクの言葉は青年たちの心を震わせたのだ。
 一方。ヤバいッスよ、あいつ何かイケメンぽいこと言ってますよ。え、ええい、うろたえるな。泥団子の嵐ですぐに化けの皮を剥がしてくれるわ。役人たちがひそひそと話している。
 それしきで真のイケメンを阻めると思うとは片腹痛い。
「泥を投げるなら俺に投げるんだな!」
 自ら的になろうという宣言に村はどよめいた。
「そ、そんなこと……!」
 できませんと涙ぐむ少女に、そっと横からハンカチが差し出される。
「大丈夫ですよ」
 少女は目を瞬き、優しく微笑む大剣の群竜士・イェルシュナ(c00486)を見た。
 彼もまた、祭りに添うものを悲しみではないものに変えるため、今日この村に来たのだ。いろんなものに瀕していた村の青年たちは先の指示に従い、身を引きずりながらも戦場を去っている。役人たちも身代わりになるというなら村の青年たちをひとまず見逃してくれる方針のようだ。
 これで後顧の憂いは断ち切れたも同然。
 さらに、勇者は彼らだけではない。
「ん。わざわざ村の男前を台無しにする必要あらへん」
 視線は役人に向けながら、新たに現れたイケメンが唇を歪めて笑う。青年たちを庇うように立つも、挑発的な態度を崩さず、暗殺シューズのスカイランナー・ロータス(c01059)は言い切る。
「こんな祭りは、下層で泥水啜って瓦礫を這って生きてきた、うちにお似合いや」
 今度は影のあるイケメンよ。服装は都会風ぽいけど実は悲しい過去を背負っているのね。黒い外套をばさりと翻すところが素敵。村の乙女たちがひそひそと内緒話をしている。
 アックスソードの城塞騎士・アルトゥール(c01890)は、まず通りすがりの者だと名乗る。それから、今日用意した品物ならば満足していただけるはず、どうぞ彼らに思い切り泥を投げつけてくれ、と男性陣を指しながら勧める。
「彼らは鍛えていますから大丈夫です」
 もちろんイケメン的な意味で。
 だが、やはり村娘たちは抵抗を感じているようだ。見ず知らずの人に泥団子をぶつけるなんて、村を守るためとはいえ申し訳ない。どうしても躊躇いが先に立ってしまう。
「僕のことならご心配なく」
 ハンマーの星霊術士・セイラム(c01947)は涼やかな声音を響かせた。
「この程度のことではびくともしないんですよ」
 それが真のイケメンならば、と彼は余裕のある笑みを浮かべる。
 こうして、村を救う勇者たちは晴れた日の春風と共に現れた。

●表裏一体
 イケメンが気絶するまで泥団子で陵辱する。
 なんと惨い祭りであることか。
 これは腕が鳴る、と杖の星霊術士・フィフィ(c04114)は気合充分に拳を握り締めた。今は心を鬼にしよう。謝るのは後回し。泥に塗れた手のひらは、熟しすぎたトマトから糸を引く納豆まで、食べられるものから食べられない生ごみまで、彼女が用意した主砲たちで汚れている。
 次は必殺トルネード弾でどうだろう。
 自信たっぷりなイケメンを眺めて、大きめの泥団子をぎゅっぎゅと握り、フィフィはあれこれ考えた。連携技を決めてみたい。ちらちらと視線を送って様子を窺うも、他の投手陣はかなりマイペースだ。
 例えば当初、春祭りをめちゃくちゃにする役人たちへの怒り、なんとか事態を解決せねばという使命感が先行していたはずの太刀の魔曲使い・フリーシュ(c02413)も、気づけば泥団子投げに夢中らしい。イケメンたちの顔に泥を命中させては大笑いしている。役人たちも同じく大爆笑しているが、まだ村人たちは強張った顔をしており、広場を包む悲痛な空気は払拭されていない。
 だが、しかしイケメンたちの心は少しも陰らなかった!
「ずいぶん泥だらけにしてくれたが……」
 もう泥人形みたいになっているアレクが、ゆらりと身を起こしながら息を吐く。
 正直、元が何色の髪だったのかもわからない有様だ。
「これで満足かい?」
「――キャー!」
 あまりの格好良さに村娘たちが歓声を上げる。どれだけ汚されようと、俺の魂を折ることだけはできやしないさ。という囁きが今にも聞こえてきそうな、むしろ聞こえてきた気がするアレクの高潔なイケメンっぷりに卒倒した少女までいる。
「この程度でおしまいなら……」
 セイラムは、泥でびちょびちょになった髪を掻き上げる。
 だが、その笑顔が消えることはない。おかしくてたまらないとばかりに、彼はフッと鼻で笑いながら小役人たちに上から目線を送る。
「僕の『男』が引き立つスパイスにもなりませんね」
「――な、なんて素敵なの!」
 思わず村娘たちが黄色い悲鳴を上げる。すっかり濡れてなびくはずのない彼の髪が、つややかにさらりと流れる様が見える気がした、というか見えた。イェルシュナも平常心を保ち、落ち着いた微笑を崩さずにいる。真なるイケメンの参上に村人たちは色めき立った。
「ど、どうすんスか、巡察役人様」
「グヌヌ……」
 盛り上がる広場で小役人たちは動揺する。
「! そこな若者」
 だが、巡察役人は何かに気づいた。
「いかんなあ。春祭りに消極的な若者がいるとは」
 実のところ爪の星霊術士・ルルーノ(c03337)は、投擲を避けることに専念していた。やたらと本気で投げてくる人がいたので、かなり泥を浴びていたが、それでも他の面々に比べればマシなほうである。自分が特にイケメンだとは思わないし、こんな奇祭に参加して服を汚したくない。だから、自ら望んで泥団子を受けるわけがないというのが彼の本音だ。
 しかし、巡察役人はニタリと笑う。
「これでは、あることないこと領主様に報告するしかないのう」
「!!!」
 村人たちは最悪の結末を予感して息を呑んだ。
 大ピンチである。
「……いっくよー♪」
 状況を一転させるため、フィフィは合図を送る。小芝居の打ち合わせを済ませていたルルーノは即座に了解した。彼女が両手で持ち上げた水っぽい泥団子は、罪のない村娘を狙うはず。身を呈して娘を庇い、名誉挽回を図らねばなるまい。
 ルルーノは駆けた。
 ところで、フィフィはどの村娘を狙うのだろう。
 打ち合わせの不足はぎこちなさを生み、彼の判断を鈍らせる。だが、村娘側に走るルルーノの所作を合図だと感じ取ったセイラムもまた駆け出していた。狙われた少女の前にふたりが跳び出す。
 ゴッ。
 ものすごく痛そうな音がした。

●大逆転劇
「――あぎゃふっ!」
 頭と頭がぶつかった衝撃のまま、セイラムはできるだけ無様に地を転がる。
 本当に痛かったわけじゃない。演出だ。あくまで演出だ。
「カッコイイー」
「さっすがイケメンやね!」
 アルトゥールとフリーシュが少女を守ったイケメンたちを称える。しかし、広場を包む静寂からは、どうしたものかと困惑している村人たちの心情が悲しいほど伝わってきた。
 ルルーノは立ち上り、優しい声音で少女に尋ねる。
「……大丈夫か?」
「……いい男はこのくらい朝飯前なのです」
 セイラムも笑みを絶やさない。
「は、はあ」
 村娘は怯えたように瞳を震わせながら小さく頷いた。
 反応は思わしくない。彼女の服には少しの泥飛沫が掛かっている。いきなり泥団子が飛んでくるわ、衝撃音がひどく痛そうだわ、動じるには充分な出来事だったのかもしれない。
「よくわからんが、次はないからの」
 巡察役人の一声でフィフィはマウンドを下ろされる。泥団子を村娘に投げては、祭りの主旨に反するのだから、仕方ない処遇とも言えた。
 泥投げは再開されるも、広場に流れる微妙な空気は変えられない。
 と思いきや、小役人たちがざわざわし始める。……あいつ、さっきからずっと四つんばいになったまま動かないッス。もしかして、もう気絶してるんじゃないスか。フハハ、泥投げやめー、やめー。
 攻撃が止む。
 不思議なまでに無抵抗で泥を受け続けたイケメン――ロータスは、おもむろに身を起こした。
「……よかったなあ、無事で」
 そこには名もなき可憐な花が揺れている。
 彼は、身を捨ててまで小さな命を守ろうとしたのだ!
「一生懸命咲いとるのに、こんなことで潰れたらあかんもんな」
「す、すげえ優しい笑顔だ……!」
 慈悲さえ感じさせる穏やかさに小役人らでさえ目を剥いた。敵の隙を逃さずロータスは髪に仕込んでいたカバーをブチッと外す。途端、ふぁさりと零れ出た蓮色の髪一房は、まさに泥の中でも輝き失わず咲き誇る花びらの如し!
 虹を思わせる目映い光が人々の瞳を貫いた。
「う、美しいわ……!」
 村人たちは号泣した。あまりの美しさに泣き崩れた。
 これが真のイケメンだと彼らは魂で感じたのだ。
 や、やべ、おれっちまで目にゴミが。やばいッスよアレ、マジにイケメンだもんな、こりゃ敵わんスよ。早く逃げないと命に関わるスよ。護衛の悪党どもが真っ青な顔で尻尾を巻こうとする。
「ウギギ……」
 奥歯を鳴らして巡察役人は悔しがる。
「ふ、ふん、今年はこのくらいで勘弁してやる!」
 彼らは脱兎の速さで逃げ出した。
 広場に、イケメンたちの勝利を祝福する歓喜の声が響き渡る。感動に打ち震える人々は、皆、涙を堪えながら旅の勇者たちを絶賛した。
 先ほど守られた少女がルルーノとセイラムを気遣う。遅れて感謝の言葉を向けられると、セイラムは微笑み、いかな障害も僕の美しさを引き立たせる小道具と化すと答えた。君のような素敵な女性を守るためなら尚と続けられ、ぽっと少女は頬を染めた。
「あ、あの!」
 早々に立ち去ろうとする彼らに村娘が声を掛ける。
 彼女は、アレクに帽子と白い封筒を差し出した。
「ラ、ラブレターです、受け取ってください……!」
 恋に落ちたらしい。想いが溢れたためか、急いで書いたためか、文字が震えている。
 他の村娘が、大き目の巾着を抱えて、ロータスのもとに駆け寄った。イケメン様のお口に合うかわからないけれど、と娘は彼を直視できないまま言う。
「こ、これ、お弁当です、よかったら食べてください……!」
 受け取れば、ずしりとした重みに愛を感じた。もしや違う誰かのために用意された差し入れでは、などと野暮なことを気にしてはいけない。
 イケメンたちは、村娘の心を大量に奪って村を後にする。

●仮面討伐
 フィフィに先導され、彼らは素早く廃墟へ向かう。
 彼女とアルトゥールが用意したタオルで、男性陣も移動中に最低限の汚れは落とせていた。もちろん、真のイケメンなら、泥が乾いて肌に貼りつこうと納豆臭かろうと問題ないに違いなかった。
 途中、一足早く廃墟に向かっていたフリーシュと合流し、彼らはついに訪れた巡察役人たちの道を塞いで降り立つ。敵ともいえない小悪党連中はあっさり浮き足立つ。
 だが、マスカレイドとその配下だけは殺気を漲らせた。
 戦いが始まるや否やアレクは弓を引く。
 上空に向けて放たれた矢の束が敵陣に降り注げば、射抜かれた配下どもが苦痛に呻き、驚いた護衛どもが蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。アルトゥールは機敏な動きで巡察役人の前に駆け、懐に隠し持っていた泥団子を投げつけた。敵は咄嗟に腕で身を庇うものの命中は免れない。
「残念。醜い人が泥をかぶっても、美しくはならないですよね」
 権力を笠に着る横暴なマスカレイドは怒り心頭。
 甲高い怒声で、己に肉薄する彼女を狙えと配下の2体に指示を出す。エンドブレイカーたちは皆、警戒を強めた。3者を別に抑えて連携を阻もうとするが、敵は元々、一団として移動していたため、バラバラに離れていたわけでもない。
 健闘も、それぞれを引き離すには足りず、白い閃きが中空を裂く結果となる。
 3者の攻勢を身に受けたアルトゥールが息を詰まらせた。流れ出した血に眉を寄せ、激しい痛みに歯を食いしばる。だが、退かない。胸にある信頼のままに地を踏みしめる。
「――援護!」
 深手を察知したロータスが声を上げた。
 宙を蹴れば衝撃波が空を裂く。彼女を守らんとセイラムも槌を振るう。幸いにして庇わねばならぬ村娘もいない。人々に苦痛の日々を強要した敵目掛け、仕置きとばかりに容赦ない一撃を叩きつけた。
「回復する!」
 危険が及ぶ可能性の高さを意識していたルルーノも迅速に次の行動を選ぶ。彼の意思に従い、現れた星霊スピカが馳せ、傷を癒さんとアルトゥールの頭を撫でる。
 怒号飛び交う戦場に数多の攻防が繰り返された。
 やがて、ロータスは跳ぶ。空中に躍り出た彼は舞うように身をひねり、唇の端に淡い笑みさえ浮かべて蹴撃を落とした。
「八つ当たりで貶めても勝てへんよ」
 這い上がらなければ、同じ場所に残るだけだから。カサカサと影と影の間を縫うように動く動きに翻弄されたか、槍を構えた配下は苛立たしげに唸りながらロータスに向けて刃を突き出す。血飛沫の収まらぬ間に踏み込んだフリーシュが居合いの太刀を敵の脇腹に潜り込ませた。彼らには己の責の通り、罰を受けてもらおう。配下は槍を零してくずおれ、生の閉じた結末に導かれる。
 フィフィが掲げた杖から放たれる輝かしい矢が斧を手にした配下へと降り注いだ。
 彼女の援護を受けたイェルシュナが駆ける。荒々しく繰り出された彼の大剣が、配下の腹を深々と掻っ捌いた。フィフィが呼び出した星霊スピカの抱擁、フリーシュが見せた朗らかなダンスのおかげで、意識を奪う負傷は避けられ、ついに残る敵が唯一となる。
 じき、泥のように眠れるだろう。
 鞭は手酷く彼らを打つが、アレクの吐いた毒針が目を潰し、アルトゥールの振り下ろす刃が肉を削る。最期、ルルーノの爪に引き裂かれてマスカレイドは短い断末魔を洩らした。
 彼は、鉤を濡らした血を払う。
「……魂が高潔であれば、救いがあったものを」
 澱む悪意から離れた生もあっただろう。
 そして、彼らは早々に戦場を去った。アルトゥールとフィフィが、帰ったら気分よく泥を洗い流そうと頷き合う。イェルシュナも苦笑して同意し、仲間の傷を気遣うように視線を巡らせた。
 村には戻らない。
 役人殺害の後に立ち寄り、人々に余計な嫌疑が掛かる結末は誰も望まないから。
 巾着を提げたロータスは微笑む。空腹を満たすだけの幸福がこの手にあると確信できた。
 彼らが消え、廃墟は再び、常の静寂に包まれる。



マスター:愛染りんご 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/04/14
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冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
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