永田町に渦巻く政治潮流は、夏の参院選を前に刻々と変化を見せている。鳩山由紀夫首相が米軍普天間飛行場の移設問題をトップレベルで協議しようと乗り込んだワシントンでの日米首脳会談は夕食会の席上で、わずか10分で終わった。鳩山首相の主張する5月末までの決着は極めて厳しいとの見通しが広まり、潮流は一気に鳩山政権の根幹を揺さぶり始めた。
普天間移設の政府案策定を3月末に、決着期限を5月末に設定したのは、その直後に想定される日米首脳会談を意識していたからだ。だが、本紙の社説「『5月決着』できるのか」をはじめ、各紙の論調は厳しい。民主党内からも悲痛な声が上がっている。「こうなったら参院選後に決着をずれ込ませ、当面は『交渉中』で乗り切るしかない」「何らかのけじめをつけないと、参院選は苦戦する一方だ」
民主党の中堅幹部の一人は、91年9月に「重大決意」を表明後、肝心の解散権を封じられて退陣に追い込まれた海部俊樹首相(当時)に現在の鳩山首相を重ね合わせ、両政権の「サーファー説」を唱える。「いずれもサーフボード役は小沢一郎氏。ただそれに乗っただけ」というのだ。
15日夕、ワシントンから帰国後初めてのぶら下がり会見に臨んだ鳩山首相は「オバマ大統領から『きちんと責任がとれるのか』などと言われたという報道もあるが」とただされた。ニヤッと笑いを浮かべた後、こう言った。「今日の夕刊には事実誤認の記事がたくさん載っていましたね」
16日にも地元後援会のメンバーを前に「どうせ鳩山なんだからできないだろうとメディアは書いている」と、報道批判をエスカレートさせている。
自民党政権時の首脳数人から「マスコミは民主党に甘い。我々が同じことをしたら、痛烈に批判するだろう」といった苦情をよく耳にした。権力者は世論の批判にさらされると、メディアのせいにしがちだ。鳩山首相も例外ではなかったようだ。(専門編集委員、64歳)=毎週土曜日掲載
毎日新聞 2010年4月17日 東京朝刊
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