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第16話 死に急ぐアスカ、そして
<ネルフ本部 エヴァ実験棟>

ネルフ本部ではシンジ、アスカ、レイの三人の定例シンクロテストが行われていた。
リツコは三人のシンクログラフを見比べて、嬉しそうな表情を見せた。それに対して、ミサトは険しい表情を見せる。

「シンジ君。今日のシンクロテスト、あなたがナンバーワンよ。頑張ったわね」
「本当ですか!?」

シンジは純粋に喜んでいる。アスカもシンジのシンクロ率上昇を誉める言葉を口にしたが、表情はどことなく寂しそうだった。
ミサトはそんな様子を見て、リツコに嫌味の一つを言いたくなった。

「リツコってさ。きっといい親にはなれないわね」
「それってどういう意味、ミサト?」

いつも冷静なリツコにしては珍しく棘のある言い方で聞き返してきた。ミサトはそんなリツコを無視して、シンジたちに声を掛ける。

「いい?別に順位が高いから偉いってものじゃないの。協力して、敵に当たることが大事な事なのよ」
「すいません、ミサトさん。勝手に喜んじゃって」

シンジはすぐに反省の言葉を述べたが、アスカの表情は影を帯びたままだった。やはりアスカにはテストの結果を伏せるべきだった。
リツコはアスカのプライドが傷ついたため、落ち込んでいるのだと思っていた。ミサトは、そうは思わなかった。
ミサトはアスカを元気づけるためにさらに声を掛けた。

「女の子はね、好きな男の子を守るためならいくらでも強くなれるの。ぶっつけ本番で頑張っちゃいなさい!」
「わかったわ。ありがとう、ミサト!」

アスカの表情はぱっと明るくなった。レイも言葉の意味がわかったらしく、顔を少し上気させている。
リツコは感心した表情でミサトの方を見た。

「私もゲンドウさんの為に、魔法の剣、振るえるのかしら」
「さあね。あたしはリョウジのためなら月でも破壊してやるわよ」
「ミサトが言うと冗談にもならないから、やめなさい」

後に冗談じゃなくて、本当に起こることなのだが。
チルドレンたち三人は家に戻ったらシンジのシンクロ率トップのお祝いをするそうだ。
何か明るく騒ぎたい名目が欲しいのだろうとミサトは思っていた。アスカもすっかり元気になった。そう思っていた。しかし……



<府中 戦略自衛隊本部>

「突然、空中に黒い球体が出現しただと?」

戦略自衛隊の司令部は、空中に突然出現した使徒レリエルに驚いた。
しかし今回の使徒は非常にゆっくりとしたスピードで第三新東京市に向かって浮きながら移動しているだけ。特に被害は無かった。

「ふん。使徒なら第三新東京市に向かうはずだ。ネルフに連絡を入れておけ。無視してかまわん」

そう命令を下す戦略自衛隊の高官に背の低い制服の男が近づいて来る。

「司令。また私の部隊が使徒を倒して御覧に入れましょう」
「ふん、誰かと思えばナグナ少佐か。本来君の身分ならここには入れないはずだが?」
「しかし、以前私のロボット兵器が蜘蛛のような使徒を倒したのはお分かりでしょう」
「そのロボットのパイロットが逃走して、騒動の責任を取って降格させられたのではないかな」

ナグナ少佐は父親が戦略自衛隊の幹部であり、シンパが多くいたためロボット兵器が暴走するような騒ぎが起きても降格処分だけで済んだ。
だが、ナグナ元中佐の悪評は広まり、ミサトに銃を突きつけられて、小水をもらしてしまった事は知れ渡り、ナグナ少佐とそのシンパは追いつめられていた。
そこで今回も使徒を倒して返り咲きを狙っているわけである。

「私が開発した新型戦車、ジーラが使徒を打ち倒すでしょう」
「そうか……では君に任せよう」

今度の戦略自衛隊の使徒攻撃部隊は、ナグナ少佐自身が戦車に乗り込み、周りのスタッフも全てナグナ少佐のシンパで固められていた。
もし、使徒が反撃してきた時に被害を出すわけにはいかないからである。

ナグナ少佐が乗る特別製の戦車、ジーラが使徒の近くまで迫った。戦車の動きも遅かったが、使徒の動きもかなり遅かったのだ。
戦略自衛隊の本部ではオペレーターの河本軍曹が先頭の合図を出す。

「武器を選択します……アンタレスになりました。攻撃準備よし、行けー!」

戦車ジーラから高圧電流が空に浮かぶ黒い球体である使徒に向かって発射される。命中した瞬間、使徒が戦車の真上に瞬間移動した。
そして戦車を包み込んだ。戦車は飲み込まれて消えてしまった。残ったのは着地して動かなくなった黒い球体……使徒だけだった。

「敵にダメージ無し。こちらは……ぜ、全滅です」

振るえるオペレーターの河本軍曹の報告を受けた戦略自衛隊の高官は、ネルフに緊急通信をしたのだった。



<ネルフ 作戦会議室>

「何ですって?使徒にそんな無謀な攻撃を?何であなたは止めなかったの!」

ミサトは戦略自衛隊の河本軍曹からナグナ少佐が独断専行して攻撃を仕掛け、全滅した報告を聞いた。
通信電話の向こうでは、河本軍曹が必死に謝っている。ミサトは気分を落ち着かせるため深呼吸をした。

「ごめんなさい、モモコさんを責めても仕方が無いわね。データは技術部に送ってくれる?ありがとう」

ミサトはそう言って、電話を切るとまた怒りがぶり返してきたのか、大きな声で怒鳴った。

「周りの人間を巻き添えにして!人の上に立つ器じゃないわ、あのナグナって男!」
「ミサトさん、もう怒るのは止めましょう。僕たちはそんな思いやりのあるミサトさんを慕っておりますから」

マコトが自分の執務室にいるミサトをリツコたちの居る作戦会議室に連れていくため、迎えに来たようだ。

「僕が、の間違いじゃないの?ごめんね、あたしはとっくに売約済みだから」
「はは、ミサトさんにはかないませんね」

冗談を交えながら、いつもの調子を取り戻したミサトにマコトは安心した。
ミサトとマコトが作戦会議室につくと、チルドレン三人とリツコとゲンドウ、コウゾウ、マヤ、シゲルが待っていた。
リョウジはミサトの代行としてゼーレに行くことが多くなっている。ミサトとしては出来るだけ多くの真実を探って欲しいと思っているからだ。

「エヴァンゲリオンの出撃命令が出ている……エヴァ三機は直ちに出撃せよ」
「そんな!まだ使徒の事が何もわかっていない状態で出撃ですか?」

ミサトの反論にチルドレンの三人も同意した。不審な目でゲンドウをにらみつける。

「使徒の解析はこれから技術部が戦略自衛隊の攻撃データをもとに行うわ」
「命令は出撃することだけだ。攻撃しろと言う命令は下されていない」
「……わかりました」

ミサトはシンジたちの方を向いて申し訳なさそうな顔をして、手を合わせる。

「ごめんなさいね、あなたたちには窮屈な思いをさせるけど、エヴァに乗って本部の側に待機してもらうわ。いい?決して使徒に手を出さないで。
また動き出して、本部に近づいても絶対に。」

シンジたちはエヴァに乗り込み、地表に射出されてそのまま待機となった。
ナグナ少佐と戦車を飲み込んだ使徒は依然として動かず戦闘待機が何時間も続いた。
その間リツコたちネルフ技術部は使徒の正体に迫るため、測量データの分析を行っていた。

「使徒の正体はブラックホール?」

数時間後。発令所で使徒についての分析結果を報告するリツコの姿があった。
ミサトの驚く声を背に受けながら目の前に座るゲンドウとコウゾウに報告を続ける。

「はい。簡単に言えば、生きているブラックホールのようなものです。攻撃してきた対象を包み込んで吸収してしまうものだと思われます」
「今、動きを止めているのはどうしてなのかね?」
「食事を終えたからだと思われます。現在飲み込んだ大型戦車を完全に消化しきった時、また移動を開始するのではないかと……」
「で、何か作戦はあるのかね?」

コウゾウの言葉にリツコは目を伏せる。ミサトもすぐに答えることは出来なかった。

「日本に現存する4126個のN2爆雷を集めて、内部から爆発させればギリギリで破壊できると言う計算が出ています」
「そんなたくさんのN2爆雷を短時間に集めるなど、とんだ絵空事だな」
「どうやって、使徒の内部に運ぶの?まさか、誰かを特攻させるなんてことを考えているんじゃないでしょうね」

ミサトとコウゾウに厳しい指摘をされて、リツコは黙り込んでしまった。ミサトが何かを思いついたようにリツコに問いかける。

「エヴァのATフィールドを使って倒すことは出来ないの?」
「バカね、攻撃を加えた瞬間、エヴァが使徒に取り込まれるわよ。後、少なくともエヴァが爆発するぐらいのエネルギーが必要なの。
あなた、私の説明を聞いていたの?」
「う……ごめんなさい。あたしもリツコの事、責められないわね」

発令所のやり取りは外で待機しているシンジたち三人にも聞こえていた。未だ作戦が決まらない状況に、不安は募るばかりだった。

「大変です!使徒が動き出しました!」

オペレータのシゲルの声に発令所やシンジたちに緊張が走る。やはり使徒はゆっくりだが浮きながらネルフ本部を目指している。

「ミサトさん、僕たちはどうすれば……」
「くっ……待機命令は続行よ」
「でも、このままじゃ本部が」
「いざとなったらみんなを退避させるわ。我慢して」

使徒はシンジたちの肉眼で見えるほど接近してきた。すると、アスカの乗る弐号機が前進した。

「シンジ、さよなら」

そう言ってアスカはパレットガンを使徒に向かって発射する。反応した使徒はたちまち弐号機を包み込んだ。

「アスカ!?」
「まさか、自爆する気!?」

ぼう然とするシンジたちの前で弐号機は使徒に取り込まれた。そして使徒は満足したかのように着地して動かなくなった。

「アスカ、返事をしてよ!このっ、アスカを返せ!」

シンジは使徒に接近して直接キックを喰らわせる。しかし、使徒はブヨブヨと形を変えるだけで手ごたえが無かった。

「レイ、シンジ君を取り押さえて!」

暴れる初号機をなんとかレイは取り押さえてネルフ本部に帰還した。
エントリープラグから出たシンジは依然としてアスカの名前を呟いて泣くばかり。

「アスカ……魔法の剣の使い方を間違えるんじゃないわよ……」

レイに付き添われて病室に向かうシンジを見送りながらミサトはそんな事を呟くしかなかった。



<エヴァンゲリオン弐号機 エントリープラグ内>

アスカは自分が無事だと言うことがわかると、自分は自爆に失敗したのだとわかった。
エヴァの自爆レバーを引いても作動しない。使徒の力がそうさせているのだろうか。

「何か、気持ち悪い。周りには何もない、無の世界か……ふふ、アタシの死に場所はこんな寂しい所か」

アスカは死を覚悟して、ゆっくりと目を閉じた。すると不思議な夢を見た。

「ほら、まだ汚れが落ちてない!こんないい加減な仕事で許されるとおもってるの!?」

「ご、ごめんなさい」

清掃員の服を着ているアスカがネルフの制服を着た女性職員にほおをはたかれた。

「お前なんかエヴァに乗れなければただのガキなんだよ!」

別の男性職員に口汚く罵られたアスカはついに泣きだしてしまう。

「泣けば許してもらえると思ってるのか、このただ飯喰らい!」

さらに別の男性職員がアスカのお腹を蹴り飛ばす。アスカはその衝撃で口からおう吐してしまった。

「汚いわね。余計なゴミを増やしちゃって」

吐しゃ物まみれになったアスカを取り囲む野次馬が笑い声をあげる。アスカは目をこすって泣いていた。

「誰かアタシを助けてよ……シンジィーーー!」

アスカが自分の叫び声で目を覚ますと、風景はエントリープラグの中では無かった。
加持邸の食卓で、アスカは自分そっくりの紅茶髪の少女と向き合っている。

「アンタ、こうなることを怖がっているの?」

アスカにそっくりな少女が話はじめた。

「そうよ、アタシが足手まといになったら、みんなアタシを見捨てるの」
「シンジは側に居てくれないの?」
「みんなはアタシより、レイの方がシンジに相応しいと言うにきまってるわ」
「それで、シンジを諦めるんだ」
「レイが側にいてくれれば、シンジは大丈夫だから」
「でも、アンタの望みは違うんでしょう?ずっと側に居たい。だけど裏切られるのが怖い。嫌われるのが怖い」

アスカはその言葉に耳をふさいで頭を激しく振った。

「アタシは、シンジを守った女の子として、一生を終えられれば最高なのよ!」

アスカがそう叫んだとき、優しい声がアスカの頭に響いた。

「そんなの良くないわ、アスカちゃん……」

アスカが顔をあげると、そこはまだ加持邸の食卓だった。目の前にはアスカそっくりの少女が座っている。
キッチンの方からアスカの面影がある女性が料理を乗せたお盆を持って現れた。

「さあ、ご飯を食べてゆっくりお話ししましょう。アスカちゃんも、あなたも」
「もしかして、……ママ?」

アスカは思わず身を乗り出した。

「ええ、そうよ。大きくなったアスカちゃんとこうやって話せるなんて夢みたいだわ。ありがとう」

キョウコはアスカの頭を撫でながら、もう一人のアスカに似た少女に声を掛ける。
すると少女の外見が変化して、緑色のツインテールの髪をもつ姿になった。

「私……レリエル……あなたたちの敵である使徒です……」

無表情にそういうレリエルに対して、キョウコは穏やかな笑みを浮かべながら首を振って否定する。

「あなたは人の心に興味を持って、こうして私たちと話そうとした。違う?」
「……はい。先ほどの人間は私を見るなり殺そうとしました。だから今度は姿を変えたんです」
「ナグナ少佐、相手がか弱い女の子でも容赦ないのね……!」

アスカは怒りに身を震わせる。

「心と言うものがあるなら、私は心を持って生まれた最初の使徒かもしれません。リリスがそう言っていました」
「リリスって何?」

アスカの質問には答えずにレリエルは話を続ける。

「私はリリスに還るために長い旅を続けてきましたけど、
私とこうして話してくれるヒトはあなたたちが初めてです。
もっとヒトの事が知りたい。なんでそんなに弱いのに私たちの兄弟の使徒を倒せたんですか?」

その質問にアスカが答えに困っていると、キョウコが代わりに答えた。

「私たちは自分の事を『人達』とは呼ばないの。『人間』って言うのよ」
「ヒトとニンゲン……同じじゃないのですか?」
「人は人の間にある限り、無力な存在ではないと言うことで、力を合わせて……」

キョウコの説教を聞きながら、アスカはミサトも確かそのような事を言っていたと思慮していた。
ミサトを母親や実の姉のように感じるのはこのためではないかと思い、改めて人間の絆についてアスカは考えさせられる。

「人間って素晴らしいものを持っているんですね。私たち使徒には無いものを」

レリエルはキョウコの説教を聞き終えると、感心したようにうなづいた。

「次の時代を生きて行くのにふさわしいのは、私たち使徒では無くて、あなたたち人間です」

レリエルは自分の首に手を掛ける。

「ちょっと、レリエル、アンタ何をしようとしているのよ!」

アスカが慌てて駆け寄ってレリエルの手を振りほどく。

「私にとって、生と死は等価値なんです。おとなしく死なせて下さい。でないとあなたたち人間が滅んでしまう」
「何をわけのわからない事を言っているのよ!」
「私も、人間に生まれたかったな……」

二人の様子を見ていたキョウコは、アスカに優しく声を掛ける。

「アスカちゃん、レリエルちゃんとお友だちになれると思ったのね?」
「だって、こんなに話すことができるんだから……敵とは思えないわよ、ママ……どうすればいいの?」
「トモダチ?私にも絆ができたのですか?」
「そうよ、レリエルちゃん」

レリエルはキョウコの言葉を聞くと、嬉しそうにアスカの手を取って自分の首に持って行く。

「アスカさん。トモダチからのお願いです。私の事を覚えていてくれるために、あなたが首を絞めてください」
「そんなこと、出来るわけないわよ!」

そう言って涙を流しながら、アスカはレリエルの首を絞めていく。

「気持ち悪い」

レリエルがついもらしてしまった一言で、アスカは手を緩めた。思いっきり咳き込むレリエル。
レリエルは涙を流して謝るアスカに対して微笑んで、壁に向かって頭から思いっきり突進した。
骨の折れるような音が聞こえて、レリエルの首はあり得ない方向に曲がっていた。そして空間が歪む。

「アスカちゃん。レリエルちゃんの分もしっかり生きるのよ。私は弐号機からあなたを見守っています」
「ママ。わかったわ、ATフィールドの意味も」

空間が元に戻るとそこは弐号機のエントリープラグの中で、目の前には使徒に吸収される前に居た第三新東京市の光景が広がっていた。



<ネルフ 第一発令所>

アスカが使徒に吸収されてから、ネルフでは発令所のモニターで使徒の様子を観察しながら、アスカ救出のための作戦の話し合いが行われていた。
しかし、ミサトを初めネルフのスタッフが総員で考えるものの、どうやれば吸収されたアスカを無事救出させられるか作戦が思いつかない。
コウゾウとリツコはミサトには秘密裏にN2爆雷やJA改の徴収を行っていた。使徒が動きを止めている間にアスカごと破壊してしまおうと言う考えのようだ。
リツコも全く心が痛まないわけではない。非情の道に走ると決めたゲンドウも愛する息子の大事な幼馴染を殺す命令は下せなかったに違いない。
使徒が動きを止めて相当長い時間がたち、N2爆雷も4000個以上貯まり、シロウ博士率いるJAチームがネルフに到着し、
いよいよ使徒破壊作戦が発動されようとしていたその時、使徒の体に変化が起きた。
黒い球体だった使徒が、粉雪のように太陽の光を受けてキラキラと輝きながら霧散したのだ。
弐号機を包むダイヤモンド・ダストにうっとりと見とれてしまう人もかなり居た。
アスカが無事だと言うことが確認されると発令所は歓声に包まれた。しかし、エントリープラグから出たアスカを待っていたのは鬼のような顔をしたミサトだ。

「アスカ、シンジ君に対して何てひどい事をしたのよ!さあ、謝りに行くわよ!」

アスカの手を取ってミサトはずんずんとシンジの居る病室の方へ向かっていく。あまりのミサトの気迫に、人々が道を開いて行く。
病室の中に居たシンジは泣き疲れて眠っていた。ベッドの側で椅子に座っているレイもかなり疲れているようだった。
アスカが部屋に入ると、レイが無言で抱きついて来た。アスカはレイが落ち着くまでしっかりと抱きしめた。
レイが離れると、アスカは横たわるシンジの体を持ち上げて、自分の胸に優しく抱き抱える。シンジが目を覚ますと、そこにはアスカの笑顔があった。

「アスカ……さよならなんて、言わないでよ……」
「ごめんね、シンジ……アタシ二度とあんなこと言わないから、許して……」

シンジたちは気持ちが落ち着くと、アスカが使徒レリエルの体内で起こった出来事を話すのを、ミサトを交えて興味深く聞いていた。
ミサトはリリスの事を聞くと、アスカから詳しい話を聞こうとしたが、あまり詳しく知らないと知ると、落胆していた。

「だから、初号機の中でも多分、シンジのママが生きていると思うのよ。そしてATフィールドで守ってくれているのよ」

アスカは嬉しそうにシンジにそう話しているが、シンジはそんなに嬉しそうではないようだ。

「僕は……母さんが好きじゃないんだ。アスカのお母さんを巻き込んで、危険な実験をさせて、アスカから奪って!
立派な研究だか何か知らないけど、他人を巻き込んで冗談じゃないよ!」

アスカとミサトはシンジの言葉に顔色を暗くした。ミサトは自分の父の事を思い出した。彼も、そうだったのだと思い知らされた。

「シンジ君……ごめんなさい。全ての発端は多分、あたしの父が原因だわ……葛城博士……彼から続く負の連鎖」

頭を下げたミサトにシンジは慌てて取りなそうとする。

「ミサトさんは悪くないですよ。多分、ミサトさんのお父さんもみんなを幸せにする方法を少し間違えただけなんですよ」
「そうね。ここで悲しみの輪を断ち切るために頑張らないとね」

元気になったシンジに安心してミサトは病室を出ていく。アスカは廊下でミサトを呼びとめた。

「ミサト、もしかしての話だけど……アタシがエヴァに乗れなかったらどうなるの?やっぱりネルフ本部には居られないわよね」

ミサトは何をバカな事を言ってるんだか、と言ったような表情でアスカの不安を笑い飛ばす。

「アスカ。大学を出るほど頭がいいんでしょう?ネルフの技術開発部でも活躍できるし、使徒戦でシンジ君やレイの戦いを間近で見ているんだから、
作戦部としてもアスカに来てもらいたいぐらいよ」

その言葉にアスカはとても安心した。エヴァが無くてもここに居られる。でも、シンジは母親に心を開くことはできないのだろうか。それが少し心配だった。