後日談 赤木アスカ博士の憂鬱
トーキョーの自宅に戻ってからのアスカは、相変わらず研究に没頭していたが、どことなく張りが失われたような感じだった。
「はぁ……」
「アスカ、今日も溜息が多いね」
机に頬杖をついて外を眺めていたアスカに、シンジが苦笑をしながら声をかけた。
「うーん、研究には不自由しないんだけど、何か物足りなさを感じるのよね……ああ、オキナハシティに居たころは面白かったな……お金や材料が足りなくて必死にやりくりしてたところなんか」
「はは、すっかり町興しが気に入ったみたいだね」
アスカの言葉にシンジが愉快そうに笑った。
「弐号機だって、ずっと待機じゃつまらないわよ……ねえ?」
「……ウォォォォン」
同意しているのか弐号機も大声で返事をした。
「赤木ナオコ博士宛てに郵便でーす!」
「はーい」
シンジが郵便配達員から封筒を受け取る。
「何? 外国からの手紙?」
日常的な封筒とは違う、いわゆるエアーメールと言った外観に、アスカは強い興味を持ったようだ。
「外国じゃないみたい……でも、オキノトリシティって書いてあるから、ここからかなり遠いね」
「オキノトリシティ!? ……そ、それってあの?」
興奮したアスカの様子に冷汗をかきながらも、シンジは頷く。
「うん、あの先史文明の遺産で浮いてるって言う空中都市だね」
「凄いじゃない! ……中身をこっそり見ちゃうとか……ダメ……よね?」
シンジもアスカの提案に心を動かされたが、グッとわき上がる自分の好奇心を抑えた。
そして翌日。
シンジがいつものようにアスカを起こそうと部屋に入ると、ベッドにはアスカの姿は無く、もぬけの空だった。
「あれ……? アスカが自分で起きるなんて珍しい……」
シンジは家じゅうを探しても、アスカの姿は見当たらなかった。
「朝御飯も食べずに……まさか!?」
そう叫んだシンジがアスカの部屋を探ると、旅行用の鞄が無くなっている事に気がつく。
「もしかして……一人でオキノトリシティに向かったの? ……そんな、無茶だよ!」
シンジは弐号機を起こすと、その背中にとび乗り、羽根田空港へと急ぐ。
「アスカ……もう行っちゃったのかな……」
国内最大級の空港のターミナル。
そこを行きかう人々の軍団。
シンジはアスカの名前を呼びながら必死に探していた。
――オキノトリシティ行きの飛行機の搭乗手続きを促すアナウンスが響き渡る。
シンジは焦りを覚えていた。
さらにその翌日。
小さいカバンだけを手に持って、身軽な感じの紅茶色の髪と青い目をした少女。
重いリュックサックを背負って、汗をたらしなが歩く黒髪の少年。
人の背丈の3倍ぐらいの大きさの赤い戦闘ロボット。
……そんな取り合わせの3人組がオキノトリシティの大通りに姿を現した。
「シンジ……そのリュック重そうね。やっぱりアタシが持とうか?」
「ううん……このくらい平気だよ」
気まずそうに声をかけたアスカに、シンジは首を振った。
「……でも、もうちょっと荷物を整理した方が良かったんじゃない?」
アスカがそう言うと、シンジは少し怒ったような目でアスカをにらみつける。
「アスカが僕を置いて急に出て行くから、慌てて必要と思う道具一式を全部持ってくる事になったんじゃないか」
「アタシが悪かったわよ! ……アタシとシンジ、二人で一人前だって事はよーくわかったから!」
「じゃあ、もう勝手な事はしないね?」
シンジの言葉にアスカは頷く。
「うん……もうしないわ……だって空港でアタシを探すシンジの顔……忘れられないぐらい必死だった……」
「え?」
尻つぼみになったアスカの言葉を聞き取れなかったのか、シンジは聞き返した。
「な、何でもないわよ! ……そ、それにしてもこんなに雲が近くにあるなんて凄い街よね! ちょっと観光していかない?」
アスカは顔を赤くして慌てて話題を反らした。
「……観光じゃなくて、視察だよ。その前にまず最初に、市庁舎に行ってナオコさんの代わりに都市再建プランナーとして来たって挨拶しなきゃ。営業許可を貰わないとこの街で仕事ができないんだよ?」
あきれた様子で溜息をついたシンジに向かってアスカは拝む仕草をする。
「ね、ちょっとお店を見て回るだけだから、いいでしょう? ……ね?」
「……仕方無いなあ、少しだけだよ?」
「じゃあ、あのお店からいきましょう!」
シンジは苦笑しながら満面の笑みを浮かべるアスカに手を引かれ、通りにある一軒の店へと入って行った。
――アスカの都市復興への挑戦と、それに対する情熱は、まだまだ衰える所を知らない……。
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