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第十九話 無人島は危険がいっぱい!
「ねえ、シンジ――聞いた?」
「何を?」
「トーキョー都の支援で辺野古地区の再開発が始まったみたいよ」

嬉しそうに話すアスカに対してシンジは露骨にいやな顔になる。

「ああ、その話か……。僕達が何ヵ月も掛けてやったこともサイン一筆……やってられないよ」
「お金があればできる事じゃない」
「でも、やっぱりなあ……」

シンジはそう言ってやはり沈んだ表情になった。

「シンジ――しっかりしなさい!」
「わ!」
「愚痴をこぼす前に手を動かすのよ! ナオコママの築いた伝説は大資本や権力を敵に回した結果生まれたってこと、忘れないでよ」

アスカの言葉に励まされたのか、シンジは元気な表情を浮かべる。

「そうか……そうだよね。むしろオキナハシティが活性化するなら喜ばしい事だよね」
「そうよ、街が元気になればアタシたちの勝ちなのよ。細かいこと気にしないの!」
「ありがとう、アスカ。本当は僕の方がアスカを助けないといけないのに」
「今日も仕事頑張るわよっ、シンジ!」
「そうだね!」

朝からハイテンションで仕事を始めるアスカとシンジだった。
……ちょうどその頃。
辺野古地区ではゲンドウがオキナハシティの市民に向かって演説を行っている。

「諸君、これからオキナハシティは復興の第一歩を踏み出す!!」

ゲンドウの言葉に市民達から大きな拍手と歓声が上がる。

「トーキョー知事バンザーイ!」
「キャー、ゲンドウー!」
「ゲンドウ様ー!お恵みをー!」
「フハハハハハ……!」

市民の拍手と歓声を聞いてゲンドウは高笑いをした。

「さて、活躍の場を広げてやったぞ。アスカ・ラングレー……フフフ、その才能の程を存分に見せてもらうとしよう」

ゲンドウは誰も聞こえないような小さい声でそう呟いた。



その日、アスカは朝からはしゃいだ様子だった。

「さあ、今日はマナ達と一緒にオキナハシティ近くの離れ小島に海水浴に行く日だわっ!」
「説明っぽいセリフだね……」

呟くシンジを無視してアスカは笑顔でレイに話しかける。

「ね、やっぱりレイも行かない?」
「私、本を読んでいる方が好きだから……」

レイの答えを聞くとアスカはふくれた顔になる。

「むぅ……そんなこと……シンジや弐号機だって一緒に行くのよ?」
「……気遣ってくれてありがとう。私の事は気にせずに楽しんできて」

アスカは港への道をシンジと二人歩きながら呟く。

「……レイって独りが好きなのかなぁ」
「あんまり長い間一人でいると、急にたくさんの人と付き合うのは難しいんだよ、きっと」
「そういうものなの?」

二人が港に着くと、すでにヒカリとマナが待っていた。

「遅いっ!」
「あはは、ごめんごめん」

怒った様子のマナにアスカは軽く謝った。
ヒカリは笑顔でアスカに話しかける。

「わたくし、今日のために水着をトーキョーから取り寄せました――今日はアスカさんと楽しい思い出をいっぱい……うふふ……」
「さ、じゃあ行くわよ。みんな船乗って」

妄想の世界にトリップしかけたヒカリはマナの呼びかけで慌てて船に乗り込んだ。

「ああっ、島が見えてきた! やっほー!」
「アスカ、ここは海よ……?」

元気なアスカの様子にマナは少々あきれて感じで溜息を吐いた。

「シンジさん達は空から先行しているんですよね? もう到着してるのかしら?」

ヒカリはそう言って島の方を見つめた。
マナも同じように島の方向を眺めていたが、弾けるような笑顔に表情を変えて突然大声でアスカに話しかける。

「よし、沖合300メートルって所ね! ――アスカ! 浜まで競争よっ!」

マナはそう言って服を脱ぎ捨てるとあっという間に水着姿になった。

「ふん、負けないわよっ!」

アスカも瞬時に水着姿となった。
ヒカリは驚いた様子で二人に話しかける。

「ふ、二人とも、服の下にもう水着、着ていたんですの!?」
「もちろん♪」
「なに? 洞木さんは着てこなかったの?」
「す、すいません……」

ヒカリは口をあんぐりと開けた様子でそう答えた。

「でも……マナさんの水着って……それってスクール水着ですわね。しかも旧タイプの」
「ん? ――だって家がお金持ちじゃないから仕方ないじゃない」

サラッと答えたマナにヒカリは気まずそうに顔を伏せた。

「じゃ、行くわよっ!」
「そーれ!」

マナとアスカはためらいも無く海へと飛び込んで行った。
ヒカリが慌てて二人に向かって大声を出す。

「二人ともーっ! 置いていかないでくださいーっ!」
「あー、冷たくて気持ちいい。洞木さんも水着になればーっ?」
「わたくし、こんな距離からじゃ泳げません……」

ヒカリは悲しそうな顔でそう答えると、マナは笑顔で手を振っている。

「じゃあ、船に乗って後からゆっくり来れば――よしっ、アスカ、勝負よっ!」
「望むところよ! じゃあヒカリ、アタシ達一足先に行ってるから!」

そう言ってアスカは水面から姿を消し、深く潜って行った。

「ムッ! いきなり潜水泳法とは、本気で勝つつもりね? しかし、私だって負けるもんか! そりゃあ!」

アスカとマナは離れ小島の海岸を目指して、凄い勢いで泳いで行ってしまった……。

「霧島さんはともかく、アスカさんまでひどいですぅ……グスッ……」

水泳勝負でアスカに負けたマナは少しの間落ち込んでいたが、すぐに元気を取り戻した。

「くそっ、水泳体型のこの私が負けるなんて……今度はこっちから行くわよ! てりゃああ!」
「先制攻撃とは、やるわね! 報復は10倍返しよっ! そりゃあ!」
「ず、ずるいですわ、二人だけで楽しんで……」

ヒカリはそう言ってアスカとマナに向かって水を掛けた。

「おおっ……第三勢力の参戦ね! 望むところ! ……アスカ、共同戦線よ!」
「うん、わかったわ」
「えっ?」

戸惑うヒカリに向かってマナが思いっきり水を掛け返す。

「死ねえーーーーいっ!!」
「食らいなさい、ヒカリっ!!」
「そ、そんなぁ、きゃあ!」

ヒカリは怯んで仰向けに倒れ込んでしまった。

「はは、ヒカリってば面白ーい!」
「ぐっ、ひ、ひどいですわ……」

アスカは笑顔で島の方に向かって大声で呼びかける。

「おーい、シンジも来なさーい!」
「いいよ、僕は泳げないからーっ!」
「……ウォン」

シンジはそう言って弐号機が熱を発して焼いている料理の様子を眺めて、頷いた。

「アスカ達ー! ご飯できたよー!」
「はーーーーいっ!」

シンジの呼びかけに、アスカも笑顔で答えた。

「うひゃー、まだまだ暑いわね」
「海から出ると、日差しがガンガン来るわね」
「暦の上では秋とはいえ、まだまだ海水浴日和ですわ」

浜から上がってくる水着の少女三人が眩しいのか、シンジは顔を赤くして視線を反らしながら喋る。

「さあ、たくさん作ったから、食べてよ!」
「うわー、良い匂いね」
「この炎天下でカレーって言うのも凄いわね……」

アスカとマナは美味しそうにカレーを鍋いっぱい平らげた。
食べ終わったアスカは満足そうにお腹をさする。

「あー、お腹いっぱい」
「本当に美味しかったですわ」
「うん、さすがね碇君」

褒められたシンジも少し自慢げに胸を張って答える。

「年季が違うからね」
「……ウォン」
「材料も新鮮だったし」

シンジの言葉を聞いてヒカリが首をかしげる。

「材料? ……そう言えばあのお肉、一体何のお肉だったんですの?」
「………………」
「ずいぶん白っぽい肉だったわね。…………まあ、美味しかったけど」
「……さて、後片付けをしないとね。弐号機、鍋を磨いてよ」

ヒカリとマナの質問にすっとぼけてシンジは皿を片づけ始めた。

「……ウォン」
「ちょっと、なに無視してるの。何の肉だったの?」
「僕と弐号機はね、霧島さん達が遊んでいる間にちょっと襲われてね」
「何の肉か教えてよ!」

マナが凄い剣幕でシンジをにらみつけると、シンジは困った顔で言葉を続ける。

「殺してしまった動物は食べないといけない気がするんだ。それが人間の責任じゃないのかな……その義務を果たしてくれたアスカ達には感謝しているよ」
「あ、あの……本当に何のお肉だったんですか?」

ヒカリも冷汗を浮かべて尋ねた。

「陸上生物、とだけ言っておくよ。……それ以上は後三時間ぐらい経ったら教えるよ」
「何? 三時間って?」
「消化し終わらないうちに吐いちゃったらマズイしね」
「!!!!」

マナの顔がショックで青ざめた。

「ぐっ……碇、てめえ! 何かゲテモノをアタイに食わせたなー! 吐けーっ! 今すぐゲロしろっ!」

――マナとシンジが大バトルを繰り広げて居る傍ら、アスカは鍋の底に残ったわずかなカレーも見逃さず、舌でなめまわしていた。

「やっぱりシンジの料理っておいしいわね……もぐもぐ。別に美味しければ、何のお肉だっていいのに。ねえ、ヒカリ?」
「そ、そうですか? わたくし、気分が悪くなってきたんですけど……アスカさんがそう言うなら、頑張ります……」

マナはシンジに向かって危険なプロレス技を何個も掛けている。

「……こ、このっ! これでどうだ!」

シンジの足をつかんだマナが力任せにブンブンと振り回していた。

「ジャ、ジャイアントスイング……霧島さん、そんな技をっ!」
「さあ、言え! 言わないとこのままブン投げるわよ!」
「わ、わかったよ……」

シンジが食材の名前を呟くと、マナとヒカリは大空に響き渡るほどの悲鳴を上げた!

『ナオコママへ。今日は忙しい日の合間をぬって、みんなで海水浴に行きました。蒼い海、白い砂浜、夏の日々はなにものにも代えがたく魅力的です……』

アスカは後にそんな感想を書いた手紙を送ったという。