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第十七話 碇シンジの秘密!
今日も朝から、けたたましいノックの音が研究所に響く。

「アスカ博士ーーーーっ!! アスカ博士はいらっしゃいますかーーーーっ!?」

腹の底から出している警察官の声に、たまらずシンジが応対に出る。

「あのー、アスカは寝起きが悪いので、もうちょっと小さな声で呼んでいただけませんか?」

シンジの陳情などどこ吹く風。
警察官は表情一つ変えずに用件を告げる。

「トーキョー知事、碇ゲンドウ氏からの伝言です。ゲンドウ氏の邸宅に直接出向いて頂きたいとのこと――。お仕事のご依頼があるそうです」
「そんな、アスカはここのところ仕事ばかりで疲れているんですよ!」
「確かに伝えましたよ」

警察官は言い捨てるようにして、その場を後にした。
入れ替わりにパジャマ姿のアスカが二階から降りてくる。

「どうしたの、シンジ?そんな怖い顔をして」
「うん、ほらアイツ」

シンジはアスカにゲンドウのことを話した。

「アイツ、すぐアスカを挑発することばかり言うから、あまりアスカに会わせたくないんだ……」
「――食べ物と人間にあまり選り好みしないアンタが、そこまで人を嫌いになるなんて珍しいわね」

暗く沈んだ様子のシンジに、アスカは感心した様子で溜息を吐いた。

「当たり前だよ!多分今日もアスカが疲れているのを見計らって、わざとアスカを困らせようとしているんだ」
「でも、アタシたちの仕事はお金をもらっていかなきゃやっていけないじゃない」

いつも仕事をサボろうとしてシンジに諌められるアスカが、逆の立場になっているのは自分でもおかしな様子だった。

「はぁ……オキナワシティの街興しだけ考えているわけにはいかないのか……。アスカ、気を付けて」

シンジは不安そうな顔でアスカを見送った。



アスカはゲンドウの邸宅の前に立つと感心した様子で溜息をもらす。

「うーん、相変わらず大きいわね。庭の中に地平線がある、東京のヒカリんち程じゃ無いにしても、オキナワシティでは最高級の建物よね……」

アスカが呼び鈴を鳴らすと、迎えに執事が出てきた。

執事に案内されて、アスカは邸内へと入った。

「良く来てくれた、赤木アスカ君」

ゲンドウは葉巻をくわえながら、尊大な態度でアスカを迎え入れた。

「なんのご用でしょう」

アスカは努めて冷静に尋ねた。

「実は君に、頼みたいことがあってね。来週の頭から、オキナワシティで夏祭りがあることは知っているかな――」

ゲンドウの質問にアスカは頷く。

「はい、それはもう。街の人、みんな楽しみにしてるみたいですから」
「私は、その夏祭りの興行のために何か華やいだ演目を提供したいと考えているのだよ」
「はぁ……」

アスカはゲンドウの真意を測りかねてただ呆然と答えるしかできなかった。

「そこでだ――東京に居たことのあるきみなら知っていると思うが、この季節に東京でやっている大花火大会……。あれをオキナワシティでもやりたいと考えている」
「花火ですか?」

驚いたアスカを満足げに眺めてゲンドウはさらに言葉を続ける。

「きみにその花火の製作と、打ち上げの際の運営をやってもらいたいのだ」

ゲンドウにそう言われたアスカはあごに手を当てて考え込んだ。

「まさか、できないと断るわけではあるまいな?」
「はいっ! やらせて頂きますっ!」

満面の笑みを浮かべて答えるアスカに、ゲンドウは一瞬驚いたようだが、すぐに表情をいつもの鉄仮面に戻す。

「……そ、即答してもらえるとは嬉しいことだな」
「実は花火に関しては、ちょっとうるさいんです……フフフ」

アスカはゲンドウとの話をそこそこに切り上げ、駆け足で研究所へと舞い戻った。
そしてそのテンションのまま、花火作りへと突入する。

「ふっふっふ……完成したわ!」
「な、なにその笑いは?」

冷汗を流しながらシンジが不安そうな顔で尋ねた。

「習作を兼ねて作った前座の花火も準備万端ね……ふっふっふ。後は夏祭り最終日を待つばかりね……」
「な、なんかリツコさんに似てきてない? アスカのキャラじゃないよ」
「この一発さえあれば、東京の花火大会なんて目じゃないわ……グフフフ」
「……道を踏み外さなきゃいいけど」

爆薬系の研究は、どうしてこう人格を変えてしまうんだろう、と不安に思うシンジだった。



朝食の席で、アスカはシンジに世間話を振られる。

「ねえアスカ、この前オキナワシティの市営図書館がリニューアルしたみたいだね。記念として、”絵本コンテスト”と言うのが開かれるみたいだよ」
「絵本コンテスト?」
「うん。……なんでも、一般から新作の絵本を公募して、入賞者には賞金が出るとか」
「賞金!?」

その言葉を聞いたアスカは目の色を変えた。

「でも、アスカは文才はあるかもしれないけど、絵心が無いからね。無理じゃないかな」

シンジの呟きに反論して、アスカは机を思い切り叩く。

「何言ってるのよ! ヒット作を書けば研究資金の足しになるじゃない!」

アスカはそう言うと、外に出かける身支度を始めた。

「どこに行くの?」
「ミサトのとこ――。絵本はさ、とにかく誰にでも分かる分かりやすさが大切だと思うのよね。ミサトはさ、そういうの専門家だから。応募作品を書くにしても、その前に何か意見を聞こうかなと思って」

アスカの言葉にシンジは感心したように頷く。

「なるほど……」
「じゃ、行ってくるわねっ!」

アスカは笑顔で葛城神社に向かった。
そして、葛城神社の軒先――。

「なるほど……絵本コンテストにね」
「うん、ミサトの意見を聞きたくて」
「で、どういう絵本をつくりたいの?」

ミサトの質問にアスカは胸を張って答える。

「もちろん、売れる絵本よ」
「はは……目的がシンプルだっていうのは素晴らしいことだわ♪」
「これで、研究資金を稼げたらいいなあ、って」

アスカの言葉を聞くと、ミサトは真剣な顔で講義を始める。
聞くアスカの方も、いつの間にか眼鏡をかけてメモを取り、熱心な学生そのものだ。

「――分かりやすいネタっていうのはね、要するに日々の暮らしを根ざしたネタであることなのよ」
「はい」
「例えばこんな話がいいかしらね。大学を出て社会人になって『よーし、俺はこれからバリバリ働いて将来社長になってやる!』なんて張り切っている若者が居るの」
「……なるほど」
「ところが、やがて中年になり、自分の将来がある程度見えてきちゃうのよね」
「ほぉー」
「『中間管理職なんて、やってられないぜ』と窓際に左遷されるかどうか怯えながらも愚痴を吐く、そういう悲哀のこもったブルースな感じが良いと思うわ」

ミサトの言葉にアスカは冷汗を流す。

「……ぶるーす、ですか。なんだか重い話になりそうですね」
「そりゃあもう。背筋が痛くなるような話よ」
「でも、それって絵本なの?」

ミサトはアスカの言葉ににっくりと微笑む。

「設定はファンシーに変える必要があるわね。でもテーマはあくまでリアルな社会派で」
「なるほど」
「絵本でそれをやるのが良いの。題材はストレートに。ひねりすぎちゃダメ」
「なるほど……ストレートに社会派、っと」
「今の世相では、どういうわけか、そういうのが受けやすいから。”大人の絵本”ってやつね」
「……リアルな現実、大人の読める絵本、と」

アスカは熱心にメモをとっている。

「ま、ダマされたと思ってやってみなさい」

ミサトがそう言ってアスカに微笑みかけると、アスカは笑顔で頷く。

「はいっ、参考にしてみます」
「あ、あと、ちょっち待って――」

ミサトは慌てて奥の蔵書室に行き、一冊の本を取ってきてアスカに手渡した。

「……《貴方も今日から絵本作家》……。へえ、こんな本があるんですか?」

ミサトは頭をかきながらアスカに愛想笑いを浮かべた。

「あはは……実は昔、絵本作家を夢見た時期があってね、その時の遺産」

アスカは少しジト目になってミサトをにらみつける。

「なんだかとって付けたような設定ね」

ミサトは冷汗を流しながらアスカに微笑みかける。

「それは言わない約束よ――」
「ご、ごめん……」
「とにかく、あたしのアドバイスを元に、これで勉強するといいわ」
「サンキュ、ミサト!」

アスカは本を受け取ると、軽やかなスキップで神社を出て行った。



とりあえず、絵本製作はシンジが絵、アスカが文章を担当することになった。
シンジはアスカの注文する絵の内容に不安を感じていたが、アスカが望むままの絵を描くことにした。

「よしっ……脱稿!――うーん、我ながら傑作よねー!」

アスカは満足した顔で自分の書いた本を読み返した。
そんな時、研究所にノックの音が鳴り響き、元気な少女の声が聞こえてくる。

「おーい、アスカー!」
「おじゃまします」
「あれ、マナ? ヒカリも?」

マナは楽しそうな笑顔をアスカに向けて話しかける。

「アスカ、絵本コンテストの作品を書いているんだってね」
「うん、でもなんでそれを知ってるの?」

アスカの質問に対し、ヒカリが穏やかな笑顔を浮かべて答える。

「ミサトさんからお聞きしましたわ。アスカさんが、どんな話を書いたのか興味があって。で、完成したんですか?」
「たった今ね。ちょうど良かったわ。誰かの意見を聞きたいと思ってたんだ」

アスカは満面の笑顔でヒカリの質問に答えた。
マナが興味深そうにアスカの手元にある本を覗き込む。

「どれ、見せてみなさいよ」
「じゃーん、コレよ! 『謎のポケモン・ミューちゃんの大冒険』!」

マナは少し困ったような表情を浮かべる。

「ポケモン? 明らかに子供を狙った、あざとい主役チョイスね」
「じゃあ、読むわよ……」

アスカは咳払いをしてから、本の内容を読み始める。

「……いつも静かな山。ポケモンたちののどかな世界。かすかに聞こえるのはピジョンのさえずり」
「うん、まあまあ良い出だしね」

マナは感心したようにウンウンと頷いた。

「この山に、一匹のポケモンが住んでいました。名前はミューちゃん」
「かわいいですわ」

ヒカリは穏やかに微笑んだ。

「長生きしてほしいと言う意味で両親が付けた名前です」
「何でミューちゃんなの??」

マナが首をひねってアスカの話を聞いていた。

「ミューちゃんは毎日楽しく暮らしていました」
「こいつ……シカトした」

マナは思わずアスカをにらみつけていた。
それを見たヒカリが穏やかにマナをなだめる。

「まあまあ、マナさん。ほら、続きを聞き逃してしまいますわよ」
「――ですがある日のこと、そんなミューちゃんの生活を脅かす大事件が起きたのです」

アスカの言葉を聞いてマナはワクワクして手に汗を握っているといった仕草になる。

「何だろう」
「どきどき」

ヒカリも胸の前で手を合わせてアスカの言葉を待っていた。

「その山の地主が現れ、『ここを産業廃棄物処理場にするから出て行ってくれないか?』と言ってきたのです」

アスカがそう話すと、研究所に不穏な空気が流れ始め、マナも顔をしかめる。

「何だかイヤな話になってきたわね」
「……ミューちゃんはわずかな立ち退き料をもらって山を出て行きました」

アスカの言葉を聞いてマナは驚いて素っ頓狂な声をあげる。

「え?出て行っちゃうの?」
「金と権力が渦巻くこの汚れきった社会で、ミューちゃんは資本主義のシステムに屈したのです」

貯まらずマナがツッコミを入れる。

「ちょっと待って!」
「ん? なに?」

マナはのほほんと答えたアスカに向かってプンプンと怒りながら話し始める。

「何よ、それは? 夢も希望も無いじゃない! 子供が読むものなのよ!」
「子供向け絵本でも、リアルな現実を書いた方がウケるって、ミサトが」
「そう言うのは痛い話って言うのよ!」
「ダメかな?」

アスカはマナの言葉を聞いて考え込んだ。

「ダメ!」
「まあ、批判するのは簡単よね――」

アスカのケロッとした言い方にマナの怒りのボルテージはさらに上がる。

「なんですってぇ!」
「……じゃあ、二作目ね! ジャーン!」
「さすがですわ、アスカさん!」

ヒカリが笑顔で歓声を上げた。

「えっとね、これはデジモンが主人公なのよ」
「デジモン……。またこれも狙ったチョイスね。クマとかウサギとかリスとか、森の小動物の方がいいんじゃないの?」
「で、どんなお話なんですか?」

ヒカリが胸の前で腕を組みながら、瞳を輝かせて尋ねた。

「大会社に就職したデジモンが、仕事先で知り合いになったメスのデジモンに助けられたり、同僚に裏切られたり」
「これもまたいやな話」

マナはそう言って呆れ顔で溜息を吐いた。

「で、あーだこーだを繰り返して……訳が分かったような分らないような説教を垂れ流しながら、いつの間にか出世していくサクセスドラマ絵本よ」

マナは冷汗を流しながら恐る恐るアスカに尋ねる。

「……題名は?」
「課長島耕……」

マナが慌ててアスカの口を押さえる。

「タイトルのパクリはマズイでしょうが! 『天任堂』と同じぐらいやばいわよ!」
「じゃあ第三プラン。一人の少年が戦場を渡り歩いてハー○ムを作る話。『鬼畜王ラン○』……」

マナは疲れた表情でアスカの両肩を押さえてしなだれかかった。

「もういい。一番最初のやつがマシだったわ」
「あの……私も、それが良いと思います……」

ヒカリも冷汗を流しながらそう同調した。

「じゃあ、『謎の新ポケモン・ミューちゃんの大冒険』を絵本コンテストに出品と言うことで」

笑顔でそう言うアスカにマナはくたびれた様子で溜息をつく。

「……やれやれ」

――その後、絵本コンテストに出品された『ミューちゃんの大冒険』は審査員の間で大論争を巻き起こし……。
選考会は”絵本のあり方”を巡って喧々諤々(けんけんがくがく)の大論争。
結局最後は審査員特別賞と言う形でお茶を濁した……。



朝の研究所にノックと共に郵便配達人の声がかかる。

「――すいませーん!」
「はぁい! 空いてますよー!」

シンジが返事をすると、郵便局員が封筒を抱えて入ってくる。

「えーと、赤木アスカさんのお宅はこちらですか?」
「はい、そうですけど……」
「速達です……。サインをお願いします……」
「はい」

シンジはさらさらと差し出された紙にサインを書いた。

「確かに……では」

シンジは受け取った封筒を神妙な顔で眺めている。

「手紙……? ナオコさんから……? ……あれ? ……差出人の名前が、無い?」

シンジは首をかしげながら、封筒をしばらく調べたが、やはり差出人の名前はどこにも見当たらなかった。

「あれ、振るとなんか音が聞こえる……」

シンジが封筒を開けると、中から豆粒ほどの金色の石が数粒、パラリと転がり落ちた……。

「……これは、何だろう……?」
「……碇君、おはよう」

シンジは部屋にやってきたレイのあいさつに返事もしないで、封筒から出てきた石を眺めていた。

「……どうしたの?」 
「…………金の原石」
「?」

レイはシンジの呟きに訳が分からないといった様子で首をかしげた。
――と、その時。

「伏せてっ!」

レイが叫ぶと同時に研究所に響く銃声音。

「……攻撃……された?」
「きっと、遠い距離からの狙撃よ」

襲撃は一撃だけで終わった……。

「……うーん……」

シンジは壁に撃ち込まれた銃弾を回収し、仔細に調べ始めた。

「……調べるまでも無くドグラノフの弾だね……」
「ドグラノフ――?」
「しかもカスタムメイドの特別製……」
「……何、それ?」
「硝酸塩燃料を燃やして重金属弾を発射する熱機関武器。――その総称だよ」
「そう。少しだけ覚えている気がする。この型の武器は、ずっと前にも見たことがあると思う。でも……一体誰がこんなことをするの?」

シンジは拳を握りしめてゆっくりと言葉を発する。

「これは……警告だ。聞いたことがある、ゴールデン・ジンジケートだ。多分”ムスカ大佐”あたりの差し金かな」
「……?」
「リツコさん、思いっきり危険な筋に例の金塊を流したみたいだね……」
「大変なことになっているようね」
「このまま放っておけば、アスカが狙われ続けることになる」

シンジはレイにアスカがエヴァンゲリオンのコアの研究をしている事を話した。

「……それは危険だと思う。なぜだか覚えていないけど……」
「綾波、手伝って」
「……?」
「研究所から襲撃の痕跡を消すんだ」
「アスカに知らせなくていいの?」
「裏の世界のいざこざだよ。アスカにはそんなことを知って欲しくない」
「優しいのね」

シンジの言葉に頷いたレイは、2人で研究所の片づけを始めた。
そしてしばらくして……。

「ふあああ……おはよう……」

寝ぼけ眼のアスカがパジャマを着たままゆっくりと降りてきた。
シンジはアスカの姿を見て、思わず溜息をもらしてしまう。

「……はぁ……」
「…………どうしたのシンジ? 今日は様子が変よ? どこか調子が悪いんじゃないの?」

アスカが心配そうにシンジを覗き込むと、シンジは慌てて愛想笑いを浮かべる。

「なんでもないよ。それよりも早く着替えてきなよ」
「うん……」

アスカは釈然としない面持ちで自分の部屋へと登って行った……。

「綾波、僕はやっぱり甘いのかな?」
「そうは思わない。碇君は絶対、正しかったと思う。アスカの汚れを知らない純粋な創造力は、私も好きだもの」
「綾波、本当に記憶喪失なの?」
「……実は、今読んでいる小説の受け売りなの」

シンジはレイの言葉にクスリと微笑むと、玄関のドアに手を掛ける。

「……ちょっと留守にするよ」
「……追いかけるの? 今朝の襲撃者を」
「まだ遠くには行っていないと思う。アスカに研究を止めさせることができない以上、処置は迅速にしないと」

シンジは研究所の隅に鎮座している弐号機に視線を送る。

「ウォン……」
「弐号機、君はここで、何があってもアスカを守るんだよ――!」
「私も行くわ」
「アスカの安全を守るのが僕の存在意義なんだ……」
「あなたが何か力を隠しているのは分かっている……でも万が一のことがあってあなたが傷つけば、アスカが悲しむわ」
「それに、私にはATフィールドがある」
「アスカを守るためなら、死んでも構わないと思っている」

強い意志を感じるシンジの後ろ姿を見て、レイは悲しそうに謝罪の言葉を口にする。

「……ごめんなさい、余計な口出しだったわね」
「今まではアスカの側で、周囲の人達に愛想笑いばかりしていれば良かったんだけどね。大丈夫、僕の刃は衰えていないはずだから」
「……碇君。昔あなたに何があったのか、いつか聞かせて」
「つまらない話だよ」
「それでも、いいの」
「じゃあ、行ってくるよ……。今日は一日、漆黒の風に返り咲きだ!」

シンジは素早い身のこなしでその身を翻し、工房から姿を消した……。