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第十五話 眠り姫レイの覚醒
早朝から乱暴に研究所の扉がノックされる。
毎度毎度のパターン。

「アスカ、アスカ!居る?」

しかし、扉を叩くミサトの表情は今までに無いぐらい鬼気迫るものだった。

「何よミサト、朝っぱらから……」

眠そうな目をこすりながらパジャマ姿のアスカが降りてきた。

「何ボケっとしているの!大変なの!緊急事態よ!」
「え?何かあったの!?」

ミサトの言葉にアスカも表情が引き締まった。

「いま、西通りで、本日限りの《食料品大バーゲン》をやってるのよ!」
「何だって!?」

台所に居たシンジがアスカより先に驚きの声を上げた。
そして気合の入った表情になる。

「急ぎましょう、ミサトさん!」
「おおっ!シンちゃん、気合入っているわねぇ!」

シンジとミサトはアスカが驚いて目を丸くしている間に研究所から飛び出して行ってしまった。

「……アタシ、置いてきぼり?」

研究所にはぼう然としてパジャマ姿で突っ立っているアスカだけが残された。



「いやー、熱い戦いだったわね」
「これでアスカに十分な栄養を補給させることができますよ」

ミサトとシンジは主婦達との戦いを終えて、それなりに戦果を上げられたことに満足していた。
シンジは新鮮な野菜、肉類、魚類を安価でそれぞれ10キロほど手に入れることができたのだ。

「ふふっ、また安売りがあったらデートしましょう」
「デートじゃ無くて買い物ですよ」
「アスカがやきもち焼いちゃう?じゃあ私は午後の説法会があるから失礼するわ」

シンジは大量の戦利品を持って研究所に帰還した。
研究所では怒った様子のアスカを困った顔でなだめているヒカリの姿があった。

「シンジ~!!ミサトと朝からデートなんて良い身分じゃない」
「デートじゃ無くて買い物だよ!ほら、肉をたくさん買ってきたから、またハンバーグを作ってあげられるよ」

シンジの言葉を聞くと、アスカは突然笑顔になって、優しい声でこう言った。

「じゃあ、許してあげる♪」
「ほーっ、良かった」

アスカの返事を耳にしたシンジはホッと胸をなでおろしたのも束の間、アスカが怒ってにらみつけている。

「なーんて、そう簡単に赦す甘いアスカ様じゃないわよ!」
「アスカさん、もうそのぐらいで……」

ヒカリがそう言うと、アスカは鼻息を荒くしながらもなんとか引き下がった。

「アスカさん、シンジさんが戻ってきたことだし、行きましょう」
「いったい何があったのよ?」
「詳しい話は後でします……」

アスカとシンジはヒカリに案内されて港の倉庫の一角にやってきた。

「あまり港の人の目につかないように、静かについて来てください……」
「なんか、怪しげな雲行きだね」
「いったい、どうしたのかしら……」

シンジとアスカは胸騒ぎを覚えながらヒカリの後をついて行く。

「実は洞木家所有の東京とオキナハの往復船が、オキナハシティへの入港の直前、変なものを引き上げたんです……海から」
「変なもの?」
「それをアスカさんに見てもらいたいんです」

アスカとシンジが案内された倉庫の中に入ると中は真っ暗だった。

「お嬢様、お待ちしておりました」

洞木商事の船員の一人が敬礼をした。

「アスカさんをお連れしました。ここに運び込んだ荷物の事……港の人に気付かれていないでしょうね?」

ヒカリはそう言って、船員を厳しくにらみつけた。
船員は少し気迫に押された表情を浮かべながら答える。

「は、はい。今のところは……」
「それは結構。では、明りを」

倉庫に明かりがともされ、倉庫の床に金属製の大きなカプセルが安置されているのがあらわになる。
カプセルの表面には『DUMMY PLUG』と書かれていた。

「これって……」
「はい、多分何かの武器のようなものだと思っています。もしかして爆弾かもしれません」

アスカの呟きにヒカリが真剣な顔で答えた。

「うーん、でもカプセルのように見えるんだけど?どれどれ……」

アスカはいきなりカプセルを叩きだしたので、ヒカリはちょっと慌てた様子になる。
シンジは冷静にカプセルの音に耳を傾けている様子だ。

「この音、中に空洞があるのかな?」
「ん……つなぎ目が見えるけど……」

シンジの呟きに応答しながらアスカがカプセルを調べて行くと、右下にスイッチがある事に気がついた。
……プシューッ。
アスカがスイッチを押すと、表面のカバーが外れ、オレンジ色の液体に満たされた水槽の中で漂っている裸体の少女の姿が明らかになる。

「なっ……!」
「こ、これって……!」

アスカは素早い動きで少女の裸体をボーっと見ていたシンジを突き飛ばした。

「アンタは見るんじゃない!」
「アスカさん、静かに!」

アスカは水槽の中で呼吸をしているように見える水色の髪の少女を見て考え込む。

「水の中にずっといて平気な様子だから……もしかして、噂に聞いたアンドロイドってやつかも……。でもここまで人型にそっくりなのはナオコママでも作れないわよね……」
「うん、僕もここまでのレベルのものは初めて見るよ……」

復活したシンジはなるべく少女の方を見ないようにして答えた。

「このままここに置いておくわけには行かないので、アスカさんの研究所に引き取ってもらえませんか?」

ヒカリがそう提案すると、アスカは露骨にいやな顔をする。

「いや、絶対いや!」
「アスカ、洞木さんも困っているだろう?助けてあげなくちゃ」
「シンジの近くに、アタシ以外の女を近づけさせてやるもんですか!」

怒っていたアスカは、ついそのようなことを口走ってしまった。

「アスカさんは、やっぱりシンジさんのことを……」

ヒカリは悲しそうにそう呟き、シンジは顔を赤くしたままうつむいている。

「アタシは、助手のシンジに悪い虫がつかないように、ご主人さまとして当然の監督責任で言っているだけよ!この女は危険だってね!」

アスカは顔を赤くしながら必死に水槽の中の少女を指差してヒカリに向かって弁明を続けた。
その様子を見たシンジは少し落ち着いた様子でクスリと笑って、アスカをなだめるように話しかける。

「多分、この子はそんなに危険な子じゃない思うよ、僕の身を心配してくれてありがとう」
「バ、バカ……勘違いしているんじゃないわよっ!」
「わかってるよ。じゃあ僕は研究所に戻って弐号機を呼んでくるから」

そう言って駆けだして立ち去って行ったシンジの後ろ姿を見てアスカは悲しそうに呟く。

「まだわかって無いんだから、アイツは……」



弐号機によってカプセルは研究所に運び込まれた。

「……さて、連れて来たのはいいけど、どうするか……。解剖すればいい研究材料になりそうね」
「アスカっ!」

シンジはアスカを思いっきりにらみつけた。

「ごめん、冗談よ……」
「冗談でも、アスカの口からそんな言葉聞きたく無かったよ……」

アスカは謝ったが、シンジはひどく落ち込んだ様子だった。

「やっぱり、起こしてあげた方が良いんじゃないかな?」

シンジがそう言うと、アスカはまた不機嫌な顔になる。

「起こす~ぅ?」
「うん、だって長い間海の底で寂しい思いをしていたんじゃないかと思ってさ」
「シンジ、アンタの優しいところにアタシは惚れたんだけどさ……」

アスカはシンジに聞こえないように小さくそう呟いて溜息をもらした。

「ま、今はオキナハシティの町興しの方が大事だし、いつかひまを見てもう一度調べましょ」

アスカはそう言ってこの話は終わり、と言った感じでカプセルのふたを閉じた。



そして数日後の夜。
アスカはパジャマに着替え、寝る前のシンジとの会話を楽しんでいる。

「ふーっ。今日も一日、よく働いたわね」
「早く寝ようよ、明日もまた頑張らないといけないんだし」
「もーっ、もうちょっとぐらいトランプに付き合ってくれてもいいじゃない」

アスカは顔をふくれさせてそう答えるとシンジは少しうんざりした感じで答える。

「二人で、『ダウト』をやっても永遠に終わらないと思うんだけど……。ちょっとトイレに行ってくる」

シンジはそう言って階段を下りて一階の研究所に向かったのだが……。

「うわああああ!」

シンジの悲鳴に欠伸を連発していたアスカも目を覚まして階段を駆け降りた!

「水槽の中に居た子が居なくなってる!」

シンジの指差す先をアスカが見ると、確かにカプセルが内側から開けられ、水槽のガラスが中から叩き割られている。
オレンジ色の液体が流れ出して血のようなにおいが辺りに充満し、床一面がびちゃびちゃに濡れていた。

「これは、マズイことになったわね……」
「うん、あの分厚いガラスを内側から叩き割ったってことは……多分戦闘型、だろうね」

と、シンジが言い終わるより早く、窓を叩き割り侵入する人影が現れた!

「きゃっ!?」
「うわあ!?」

全裸の少女は軽やかアスカとシンジの前に着地する。
少女はゆっくりと室内を見まわしながら、静かにたたずんでいる様子だった。

「……?反応が無くなったわ。確かにコアの存在を感じたのに、おかしいわ」
「アスカに手を出すな!」

そう言ってシンジはアスカを守る様に立ちはだかった。

「……何?」
「君は一体何者なんだ?僕達に危害を加えるようならただじゃおかないぞ!」

少女は震えながらそう叫ぶシンジには答えず、アスカの胸のペンダントに鋭い一瞥をくれた。

「そこにあるのね。コアが」
「……近づくな!一歩でも動けば攻撃する!」

シンジはそう叫んで身構えた。
それに対して少女は臆することなく赤い瞳をアスカの方に向ける。

「……そこの、女の子の方のあなた」
「え?」

突然少女に話しかけられたアスカは驚いた顔になる。

「あなたの首にかかっているコア、私に渡してくれないかしら。それはとっても危険なものなの。黙ってこちらに……」
「逃げろ!アスカァァァァ!」

シンジは喋っているレイに向かって思いっきり体当たりをかました。
しかし、シンジはレイの体に触れる前に、赤いフィールドに阻まれて弾き飛ばされてしまった!

「ATフィールド!?」
「……ATフィールドを知っているの?」

アスカは目の前の少女から緊張が解けて行くのを感じ取った。

「アスカ、危険だ。逃げて……」

シンジが痛む体を引きずりながら起き上ると、アスカはシンジの言葉を否定するように首を振った。

「多分、コイツは突然目覚めて、寝ぼけているだけなのよ」
「早く逃げて!」

シンジがそう叫ぶ後ろで、水色の髪の少女が呟くように話しかけてくる。

「あなたが私を回収してくれたの?」
「うん、アンタは海の底から引き上げられたのよ」
「そう……私はコアさえ渡してくれれば、何もしない」
「……どうして、このコアが欲しいの?」
「それは……」

アスカの問いかけに少女がそこまで喋った後、長い沈黙が流れた。

「……思いだせないわ」

少女の言葉にアスカとシンジは思いっきりずっこけた。
そしてそれから数分後、少女がアスカから手渡された弐号機のコアを慎重に調べている。

「分子結合皮膜で厳重にコーティングされている。これを作った人間はコアの特性をよく理解している……。これなら暴走の心配はない……。でも、暴走って何かしら?」

少女は首をかしげながら、アスカにコアの入ったペンダントを返した。

「……いいの?」
「驚かして悪かったわね」
「で、さ……」
「私は綾波レイ。確かそんな名前だったと思う」
「それも聞きたいんだけどさ……」

アスカは言いずらそうにモジモジしながらもなんとか言葉を絞り出す。

「アタシの服を貸してあげるからさ、着てくれない?」

レイはアスカに借りた服に着替えながらポツリと呟く。
ちなみにシンジはずっと後ろを向けさせられていた。

「私には大切な役目があると思ったんだけど、思いだせないの」
「どうするのよ、これから?」
「……こんなことを言うのは悪いかもしれないけど、あなたなら私のことをわかってくれる、そんな気がするの」

心細い感じで話しかけてくるレイに、アスカは笑顔を返す。

「気にしなくてもいいわ。遠慮しないで、ずっとここに居てもいいから」
「そんな!この子は戦闘用に作られた人型兵器だよ!危険すぎる!」

シンジはアスカの言葉に目を剥いて反論するが、アスカは笑顔のままレイの手を握る。

「いやよ、アタシこの子の事気に入っちゃったもん!レイだって行く場所が無いしね」
「ええ、私の正体がばれたらよくてモルモット、下手をしたら解剖されてしまうわ……」
「僕はナオコさんからアスカの安全を頼まれているのに……」

こうしてレイが、居候としてアスカの研究所の仲間に加わった!



そして次の日の朝、礼儀正しいノックの音と共にヒカリが研究所に姿を現す。

「おはようございます。アスカさんいらっしゃいますか?」
「あ……お客さんなのね」

研究所の片隅で本を読んでいたレイは顔を上げて答えた。

「あら、あなたは……海から引き揚げられたカプセルの中で寝ていた……?」
「あなたも、私のこと知っているの?」
「ああ、アスカさんが起こす方法を思いついたんですね。さすがですわ……」

ヒカリはレイから視線を反らし、うっとりとした表情で手を組んで虚空を見つめていた。
レイはそれを黙って眺めていた。

「あれ、ヒカリ?もしかして<洞木屋>の新作の依頼?」

妄想に浸っているヒカリを現実世界に呼び戻したのは、二階から降りてきたアスカの声だった。

「はい。例によって例の如く」
「……呼んだ?」

ヒカリの発言に対するレイの返事に怪訝そうな表情を浮かべるヒカリに、アスカはレイの隣に立って話しかける。

「その前に、紹介するわ。コイツは綾波レイよ」

アスカはそれからヒカリに昨晩から今までにかけての事の顛末をヒカリに話した。

「よろしく……」
「でも、こうして喋っているのをみると、本物の人間みたい。とても作りものだとは思えませんわ……」

ヒカリはレイの姿をまじまじと見ると、首をかしげながら声をかける。

「なんだか、服が少しきつそうですよ?……おへそ出ているし……。ん?もしかして、その服、アスカさんの?」
「うん、アタシの服だけど?」
「この服はアスカの匂いがする。優しい匂いね……」
「え?ちゃんと洗ったわよ?」
「私にはわかるの……」

それを聞いたヒカリは少し悔しそうな表情を浮かべる。

「……う、羨ましいわ……」
「じゃあ、私は向こうに行ってる。読みかけの小説があるから」

レイはそう言ってアスカ達の側から立ち去って行った。
アスカはしょげかえったヒカリに優しく話しかける。

「レイもね、早くアタシたち人間の世界に馴染もうって一生懸命なのよ。だから……優しくしてあげてね、お願い」
「は、はい……。アスカさんがそう仰るなら……。でも、彼女をどうするつもりなんですか?これから……」
「それは、レイが決めることだから……それよりも、依頼の話をしましょ」

ヒカリはアスカの言葉に頷いて、さっそく依頼について話し始める。

「 <洞木屋>で出す、夏のデザートメニューを作って欲しいんです」
「そういえば、そんな季節よね」

アスカは考えた末に、ポンと手を叩いて閃いた感じになる。

「そうだ、カキ氷なんかどうかな?」
「あれ、アスカはスイカバーが一番好きだったんじゃないの?」

アスカの言葉を聞いたシンジが口を挟んだ。

「バカね、和食の店にアイスは出せないじゃないの」
「あの、私はアスカさんの好きなその『すいか婆』でも構いませんよ?」

ヒカリの発音に、アスカはヒカリが別のものを想像しているとわかって溜息をつく。

「大丈夫、アタシがとびっきり美味しいカキ氷をつくるから」
「わかりました。今度私にも『すいかお婆さん』食べさせてくださいね」
「違うって……」

ヒカリは最後まで勘違いしたまま研究所を立ち去って行った。

「よーし、出来た!『食べても頭痛がしなくなるカキ氷』!」
「ええっ!?そんなことできるの?」

アスカの発明にシンジが驚いた声をあげた。

「シンジ、カキ氷を食べた後の頭痛は何で起こるか知っている?」
「確か、冷たさで血管が収縮されてその刺激を脳が勘違いして痛みと錯覚して起こるんだろう?」
「そう、だから暖かい飲み物と一緒に食べれば頭痛は起きないとも言われてるけど、それ以外にも方法があるのよ。痛みを感じるパルスを……(以下専門用語の羅列)」

アスカの超高度な専門用語のオンパレードの話を聞いていると、シンジはカキ氷を食べなくても頭が痛くなって来るのだった。

「あれ、レイはカキ氷おいしくなかった?」

スプーンで少し食べたきり、口を付けなくなったレイを見てアスカは首をかしげた。

「違う、私は人間じゃないから、味とかよく分からないの。人間と同じように食物からエネルギーを摂取するように作られては居るけど」

レイの言葉を聞くとアスカは気合を入れて拳を握りしめる。

「よしシンジ、明日からレイの食事には香辛料やニンニクを入れまくりよ!味覚が鈍いんだから鍛えないと!」
「はぁっ!?」
「アスカって、面白いわね」

アスカの努力のかいがあってか、その後レイはニンニクが大好物になったと言う。
以前アスカとマナが立寄ったラーメン屋では毎日のようにニンニクラーメンを食べに訪れ、ラーメン屋の店主は、夢に出てきた悪魔が現実に来た、と少し怯えていたそうだ。



その日の夕方。アスカが街の外れの公園で笛を吹いていると、通りかかったミサトが首をかしげながら近づいてきた。

「ねえアスカ?この公園にネコがたくさん居るのを見なかった?さっきから色々なネコの鳴き声が聞こえてくるのよ」

アスカはミサトのその言葉を聞くと突然笑い出して、ミサトに銀色の笛を見せる。

「ジャジャーン!これはリツコ姉さんが発明した『ネコ殖え笛』!どら猫から三毛猫、シャム猫、子猫から母親猫まで世界のありとあらゆるネコの鳴き声を出せるのよ!」
「……あなたのお姉さんって面白い発明をするのね」

ミサトはあきれたやら感心した様子で頷くと、何かを思いついたような笑みを浮かべる。

「そうだ!あなたの家族の自伝を書いてみない?きっと面白くて売れるわよ!」
「えっ、そうかな……」
「本の出版は私に任せて!」

研究所に戻ったアスカは大張りきりで机に向かって執筆活動を開始する。

「確かに、ナオコさんやリツコさんが特許をそのまま持っていれば、洞木さんの家なんか軽くしのぐほどの大金持ちになっているんだろうけど」
「そうよ、だから面白いんじゃない」

アシスタントとしてお茶汲みや推敲をしているシンジのぼやきに対してアスカはペンを振り回しながら自信満々に答えた。

「普通、自伝というのは自分で書くものじゃないのかな?それにリツコさんにばれたらひどい目に会うよ?」
「大丈夫、ミサトの名前で出版するから」

シンジは心の中でミサトの冥福を祈った。

「よしできた!『赤木博士発明列伝』!」
「執筆開始から脱稿まで、超スピード作業だったね……」

しかし出来上がりにアスカは不満そうだった。

「なんで当たり障りの無い普通の本になっちゃうのよ!ホントのことが書けないなんてストレスがたまるわ!」
「若い頃のリツコさんが、富士山のふもとで番長連合と1対10万人の大勝負をするエピソードとか、書けないじゃないの!」
「それを書いたら、絶対僕達がミサトさんに話したってばれちゃうよ」

その後出版された『赤木博士発明列伝』によって葛城ミサトは赤木リツコと大親友ということになってしまったが、後に二人は本当に大親友になるのである。