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第十一話 ウルトラオキナハマン誕生!
アスカはすっかり暗くなった商店街を研究所に向かって歩いている。

「……なんだか遅くなっちゃったな。人通りも少なくなっちゃったし……。あんまり遅くなると、シンジが保護者気取りでうるさいし、早く帰ろうっと」

と、その時……。

「ひっ、ひぃぃぃぃ!」
「えっ!?」

突然、店の一角から男性の悲鳴が上がったことにアスカは驚いて駆けつけた。

「声を出すんじゃねえよっ、ボケがっ!!」
「ひっ、い、命ばかりは……」
「たんまり稼いでるんだろっ!!大人しく全部出しやがれっ、このブタっ!!」

悪人面の男が、店の主人に短剣を押し付けている……!

「ご、強盗……!?」
「さぁ、用意はできたかっ!?このノロマ野郎っ!!もたもたしてっと、ただじゃおかねえぞっ!!」
「は、はぃぃ……」
「……ムッ、そんなマネはさせないわっ!」

アスカがスマッシュ・ホークを握りしめ、その場に躍り出ようとした時……。

「ま、ま、まてっ……!そ、そ、そんなことは許さないぞ。は、は、恥ずかしくないのか、人として!」

物陰から眼鏡をかけた青年、日向マコトが飛び出してきた!

「くっ、てめえっ……!!」

逆上した強盗がマコトに襲いかかる!!

「うっ、うわぁ~っ!!」
「強盗よっ!強盗よーーーーっ!!」

アスカが、大声をあげて周囲に助けを求めた……。

「なにっ、どこだ?」
「強盗だとっ!」
「ちっ……くそっ!!」

商店街の人間が、集まって来たのを見て、強盗は逃げて行った……。

「おにいさん、大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう……」

駆けつけたアスカにマコトは礼を言った。

「あんたのおかげで店から何も取られずにすんだよ」

強盗に襲われていた店主もマコトにお礼を言う。

「い、いや……弱いくせにあんな真似をして、我ながらみっともない……」
「ううん、お兄さん、すごい勇気よ☆」
「いや、君が人を呼んでくれなきゃ、どうなっていたか……はぁ」

アスカに褒められてもマコトはため息をついた。

「それにしても、最近、治安が悪くなったねえ……」
「そうだな……」
「え、そうなの?」
「この通りだけでも今月に入って6件目だよ。……いや、今ので7件目だ」
「……そんなに……」
「人が増えて、街の景気が良くなってきたのは嬉しいんだけどな……」
「代わりに、ああいう不届き者も、外からたくさん入って来る……」
「それは……気がつかなかったわ……」

アスカはあごに手を当てて考え込んだ。

「まだたいしたことは無いが、この先、オキナハシティが発展してゆけば、必ず問題になってくるだろうね……困ったもんだ」
「ああ……俺がもうちょっと強ければなぁ」

そういって立ち上がったマコトの手元からどさっと一冊の本が落ちた……。

「あれ?」

アスカがそれを拾い上げた。

「……『大ウルトラマン図鑑』?」
「あっ……」

マコトの顔が赤くなった。

「……ウルトラマン……ですか?」
「……う、うん。使徒と戦うスーパーヒーローを目撃してから、大人になってもずっと憧れていてね……ハハ」
「……へぇー」

アスカはページをめくってひとしきり感心している。

「いやぁ、恥ずかしいな」
「……そうだっ!」
「ど、どうしたんだい、キミっ?
「オキナハシティの治安が悪くなる……だったらオキナハシティに、街の平和と、市民の安全を守るスーパーヒーローを造ればいいのよ!」
「……は、はぁ?」

笑顔で盛り上がるアスカに、マコトは唖然とした。

「よしっ……この手で行くわよっ!」

アスカはさらにテンションを上げ、拳を天高くつきあげた!

「お兄さんっ、この本、しばらく貸してくれないっ?」
「あ、ああ……別に構わないけど」
「ありがと♪」

マコトの返事にアスカは笑顔で本を抱きかかえた。

「よーしっ、研究所に戻ってこの本を研究よっ!」

研究所に戻ったアスカは目を少年のように輝かせながら徹夜で本を読みふけった。
シンジはアスカの体調を気にして寝かそうとしたが、夢中になったアスカはテコでも動かない。
仕方が無いので、シンジはアスカの気が済むようにさせてあげた。というかぶっちゃけサジを投げた。

「……完成っ!都市防衛用強化全身タイツっ!<ウルトラもじもじ君スーツ>よっ!」
「アスカ……相変わらずワンダーなネーミングだね」
「だって……見た目がそうじゃない。シンジはどんな名前がいいのよ」
「普通に<スーパーヒーロースーツ>でいいんじゃないのかな?」
「……わかったわよ、そう呼べばいいんでしょうっ!」

アスカは恥ずかしいデザインのスーツをシンジに掲げる。

「スーツ着用者のパワーは、通常時の6600倍っ!!」
「え、ええっ?それは凄すぎない?」
「……じゃ強すぎるから、1.6倍」

アスカの言葉にシンジがカクっと崩れ落ちる。

「武器を持った成年男子3人に一斉に襲いかかられても、なんとか撃退できるかもしれない攻撃力!」
「微妙な戦闘力だね……ヒーローを名乗るにしては……」
「別に殺し合いをするわけじゃないからね。その代わり防御性能は凄いわ!なんと!微弱ながらATフィールドを張れるのよ!厚さ1ミクロンの!」
「……その程度の性能があれば、強盗相手には充分かな」
「人間の反応速度で対応できる程度に、スピードも増幅されるし」
「うん、最初はどうなるかと思ったけど、手堅い設計だね……」
「えへへ……ありがと、シンジ」
「で、あとはこれを誰に着せるかだけど……」
「うん、それについては、もう決めてあるのよ」
「まさか、僕じゃないよね?」
「もしかして……着たいの?」

シンジは恥ずかしいデザインのスーツに目をやって慌てて首を振る。

「じゃあ、スーツを渡しに行ってくるねー」

そう言って商店街に向かったアスカの後ろ姿を、シンジはほんの少しだけ残念に思って見送った。

「ぼ、僕がっ?オキナハシティを守るヒーローにっ!?」

商店街の自分の店で仕事をしていたマコトは、突然のアスカの提案に驚いた。

「ハイ☆」
「し、しかし……僕もやっと結婚したばかりだし、20代後半で転職というのも……」
「まあ、ヒーローってのは基本的にボランティアですからね……」
「せっかくだけど……」
「そこらへんは適当にやってくれればいいわ。気がついたときや、気の向いたときだけで」
「そ、そうかい?」
「街にスーパーヒーローが居るってだけで、悪い人たちには無言のプレッシャーになると思うし、むしろ狙いはそこだから……」
「な、なるほど……で、でも、なんで僕を……」
「もちろん、お兄さんが、この間の強盗相手に見せた勇気ですよ。あと、常識家で控えめな所とか。あんまり調子のいい人にはこんな仕事頼めないし」
「……そっか」
「さ、着てみてください♪」

スーツを見たマコトは顔をしかめたが、期待に目を輝かせて見つめるアスカの姿を見ると断ることはできなかった。

「ど、どうかな……」
「かっこいいですよ。……はい鏡」
「そ、そうかな……夜店で売っているウ○トラマンのお面みたいな顔だ……でもなんか別人に生まれ変わった気がしてきたぞ!」
「街の平和を守ってね。本業に負担にならない程度に♪」
「……わ、わかったよ。どこまでやれるかわからないけど、せっかく憧れのヒーローになれたんだ!頑張ってみるよ!」

スーツを着たマコトはファイティングポーズを構える。

「今日から僕は……ハッツっ!…………ウルトラオキナハマンだっ!!!!」

……その後、美少女戦士セーラームーンに続いて、ウルトラオキナハマンが誕生したオキナハシティの治安は、ほどほどに回復した……。

「そういえば、ミサトさんは忙しいからなかなか変身して街の治安を守る暇がなかったのかな……」

一人だけ美少女戦士セーラームーンの正体に感づいていたシンジはアスカの話を聞いてそう呟いた。



次の日の朝。中央市街地を訪れたアスカの目に、葛城神社からわらわらと出て来る市民たちの姿が目に入った。

「いやぁ、葛城さんの説法はいつ聞いても面白い……」
「ほんと、わかりやすくてねぇ。ヘンに気取ったところが無いのがいいわ」
「あの若さで相当な学だね。とても29には見えない」
「へへ、おまけに美人だし……」
「あれで、時々出て来るオヤジギャクが無くなれば完っ璧なんだがなぁ」
「だれかれはばかることなく、ガバガバ酒も呑むしのー。珠にきずとはこの事だ」
「ま、あれが神主さまの味ってもんさ。おれはすきだねー」

市民たちはそれぞれミサトに関する思いを話しあっている。

「ふぅん……ミサトも街のみんなに慕われているのか……」
「おーい、アスカっ!」
「あ、マナ?」
「あんたも神主さまの説法会、聞きに来たの?……もう終わっちゃったけど」
「ううん、偶然通りかかっただけ。……すごい大盛況ね」

笑顔であっけらかんというアスカに対してマナはため息をつく。

「ヒマ人が多いから、この街は」
「それだけじゃこんなに集まらないと思うわ。ミサトの人柄か、やっぱ」
「……私は単に、港に出入りしている業者との顔つなぎが目当てなんだけどね。あ、でも今日は少し変わった面子が居たっけ」
「え、だれ?」
「ほら、あのトーキョーから来たっていう知事。碇ゲンドウとかいう人も今日の説法会にきてたわよ」
「へぇ……知事さんがね」
「なんだか神主さまに話があるみたいだったけどね。まだ出てこない所を見ると、奥で何か話しあっているのかな」
「何の話か気になるわね」

アスカはそう言ってあごに手を当てて考え込んだ。

「さぁ……じゃ、私は用があるから行くわ」
「うん、またね」

アスカはマナを見送ったあとゆっくりと神社に向かって歩いて行く。

「オキナハシティのことをよく知るためには街の人間関係にも精通しておかないとね……あ、いた」

神社の奥では、ミサトとゲンドウが差し向かいで会話をかわしている。

「……すばらしい御説法だ。霞が関でも、あなたほど、弁の立つ人間はまれであろうな、葛城君」
「それはどうも……天下のトーキョー知事にそういってもらえるのはまんざらでもありませんね」
「…………」

その会話の一歩外で、ゲンドウの付き添いか、市長側近の加持リョウジが従者のように無言で控えていた。

「でもわたくしの説法は先人の借り物の言葉ですから、聞く人が聞けばすぐに馬脚を現しましょう」
「……いや、それも逆にあなたの教養の深さの程がしのばれますよ」

ゲンドウは眼鏡をいじる。

「……今日、こうして当神社までまかりこしたのは他でもない。もちろん……美しくて聡明なあなたにはわかっておられるようだが」
「お世辞までお上手ですね、ミスタ・碇」
「市長と、ここにいる加持リョウジ君からきいた。オキナハシティにおける赤木アスカの管理はすべてあなたが権利を持っていると」
「……権利?」
「単刀直入に言おう。その権利を、私に譲って欲しい」
「どうしてあの子に白羽の矢を立てたか、お聞きしたいところですわね」
「この街の復興には都の公的資金の投入……それに一個の天才の力が必要だ」
「それについては全くの同感ですが、彼女はまだ天才といっても子供ですよ」
「オキナハシティの街は、私が訪れる前に報告を受けていた内容よりも、はるかに状態がいい。長き暗いトンネル……使徒襲来の災禍から抜けだし、着実に復興への道を歩み出しているようだ。市長は認めていないが、これは赤木アスカの働きによるものだと私は評価しているのだよ」
「で、彼女の能力を買いたいと?……一体、なんの魂胆です?」
「魂胆、とは?」
「ただのまぐれかもしれない、今までの結果……何の魂胆も無くてまだ14才の女の子を持ちあげようなんて誰が考えますか?」
「フフ……その言葉はそのままあなたにそっくりお返しすることにしよう、葛城君」
「……え?」
「あなたは、オキナハシティ行政府に見捨てられた赤木アスカを、だれに言われるまでもなく拾い上げたと聞く。まったく……たいした眼力だ。あなたは彼女の才能をだれよりも理解している」

その言葉を聞いたミサトの目つきが一段と厳しくなる。

「…………私は、彼女の才能を自分の物なんかにしようとだなんて思ってません」
「ハハハ、それはどうかな。あなたも、私と同じたぐいの人種であることは確かだ」
「ご冗談を。貧乏神主を捕まえて、何を言われます」
「オキナハシティの復興があなたの心に描いてるプラン通りだといいものだがね、葛城君」

ゲンドウは立ち上がった。

「彼女……アスカに変なちょっかいを出すのは許しませんよ」
「まあしばらくは黙って見物するつもりだ。安心したまえ……」
「…………むぅぅぅ」

ミサトは立ち去っていくゲンドウの後ろ姿をうなりながら見送った。

「……葛城」
「……トーキョーから有力者を呼んで、何とかしてもらおう……これがあなたのオキナハシティ復興プラン?」

声をかけて来たリョウジをミサトは厳しい目でにらみつけた。

「現状で打てる最善の手だと思うぞ」
「あなたたちが、そこまでバカタレだとは思ってもみなかった。知事に色目を使う暇があったら、どうしてアスカにもっと援助をしてあげないの?」
「……彼女には、最大限の便宜を図っているつもりだよ」
「最大限ですって?……あの子、ビックリするぐらい安い値段で、新商品のパテントをオキナハシティ中の商店に売り渡して……そのくせ、法外な開発費は全部自腹!……そのせいでアスカとシンジくんは食べて行くのがやっとなのよ!?」
「君がマネージャーになって、彼女の発明を管理すればいいじゃないか。絶対確実な投資。そうすりゃ、きみは大金持ちだ」
「ケツの穴に手つっこんで奥歯をガタガタ言わせてやろうかしら。彼女のピュアな情熱に泥を塗るような、そんな汚いマネはしないわよ……」
「君のセリフとは思えないな……」
「……私はただ、彼女が食料品を気兼ねなく買えて、そうしたければ毎日着たきりすずめのような格好をしなくて済むようにしてあげたいの。あの子たちひどい時にはタンポポをサラダにしたり、ミミズを掘り起こしてハンバーグにして家計をやりくりしようとしてるんですもの……」

ミサトの言葉にリョウジも冷汗を垂らす。

「え?……そんなにか?」
「使徒襲来の食糧難の時、私も父とやったことあるけど、愉快なことじゃないわ……」
「わかった……その件については考えてみるよ」

その後、リョウジも神社を後にし、どっと疲れた表情のミサトだけが一人残された……。

「よくわからないけど、いろいろ複雑な事情があるみたいね……」

自分の周囲で巻き起こりつつある事態に首をひねりつつ、アスカは隙を見計らって神社の外に出た……。