第十話 セーラー服と狙撃銃とニンニクラーメン・チャーシュー抜き
朝早くからアスカの研究所にけたたましいノックの音が響き渡る。
「赤木アスカさん!赤木アスカさんはご在宅ですかーっ!?」
「んにゃ?ほーい」
「アスカ、そんな寝ぼけ顔で出たらダメだよ」
半分寝たままで出ようとしたアスカをシンジが引き止めた。
「碇ゲンドウ氏からの伝言です。ゲンドウ氏の邸宅に直ちにお出向き頂きたいとのこと。……お仕事の依頼があるそうです」
「こんな、急にですか」
「確かに伝えましたよ」
シンジが鋭い目つきで問い詰めようとすると、警官は風のように素早く立ち去ってしまった。
「どうしたの、シンジ?」
「うん……ほら、昨日の」
「ああ、あのおじさんか」
「あの人に近づくのは止めた方がいいよ」
「人のことを悪く言うなんて、シンジらしくないじゃない。相手はヒカリんちに匹敵するほどの大富豪よ。どんな仕事か知らないけど、せいぜいふっかけるわよ」
「アスカの仕事はオキナハシティの街興しだろう?行っちゃダメだ行っちゃダメだ行っちゃダメだ!」
シンジがアスカをひき止めるため強く抱きしめること1時間。
しかし、シンジの苦しい台所事情を知っているアスカは生活費を稼ぐためにも引き受けることにした。
「へぇー大きい家ね。オキナハシティにこんな大きな家があるなんて、知らなかったわ」
碇ゲンドウが逗留している邸宅を見たアスカは感嘆の声をあげた。
「ごめんくださーいっ!」
アスカは呼び鈴を鳴らし、迎えに出た執事に招ぜられて邸内に入った。
「よく来てくれた。……赤木アスカ君」
デスクに座って手を組んだまま話すゲンドウには一種の迫力を感じる。
「……な、何のご用でしょう」
「実は君にあるものの修繕を頼みたい。……これだ」
ゲンドウが命じると、執事は小さな箱のようなものを怪訝な表情のアスカに手渡した。
「……オルゴール?」
「これは、私の想い出深い品だ」
「素晴らしい細工ですね……」
「わかるかね」
「鍵盤もギミックも詳細まで凝ってますね……でも……これは修繕というレベルじゃ……」
「そうだ。見ての通り、中枢部分がまるまる壊れてしまっているからな。……直せるのか、この場で?」
「この場でですか?……無理です、専用の工具が無いと……ウン?これって手動式じゃあ?」
「そうだ。中央部分の宝石に光が当たると動き出す仕組みになっている。……いわゆる失われし技術で作られた逸品だ。これを君に修理してもらいたい」
アスカは事の重大さに額に汗を浮かべる。
「……このタイプは凄いデリケートです。修理に失敗したら二度と動かなくなりますよ。もしこのオルゴールが大切なものなら、トーキョーに郵送してママに修理してもらった方がいいと思いますけど……」
「フッ……私は君に直して欲しいのだよ……アスカ君」
「……でも」
「それとも、君は母親の威を借りるキツネなのかな?」
「ム……」
アスカは蒼い目でゲンドウを思いっきりにらみつけた。
「やってくれるな」
「……わかりました。期限はいつまでですか?」
「……明日」
「……明日っ!?それはいくらなんでも……」
「やれやれ、泣き言を言うとはまだまだ子供だな」
「ぐっ……わかりました、明日ですね」
「…………フッ」
「では、修理が終わり次第、すぐに届けにあがりますから……」
アスカは怒った様子でゲンドウ邸を後にした。
研究所に怒った様子で帰ってきて、すぐに作業に取り掛かったアスカを見てシンジは驚いた。
怒ったままシンジの呼びかけにもろくに答えずに作業に没頭している。
シンジはアスカの持っていたオルゴールを見て驚いた。
「これは……小さい頃僕が壊した母さんのオルゴールに似ている……」
シンジはそう呟くと、アスカの額の汗を拭うなど、作業のサポートを始めた。
「よしっ……出来た」
「腕を上げたね、アスカ」
「ママの名誉が掛かっていることだからね。……じゃ、ちょっと知事さんのところに行ってくるわ」
シンジはオルゴールをもう少し見ていたかったのだが、アスカは飛び出して行ってしまった。
「こんな事で罪滅ぼしをしているつもりなのかよっ!……父さん」
シンジはアスカがいなくなった研究所でそう一人ごちた……。
「期限に間に合いましたよ」
ゲンドウは、差し出されたオルゴールをさっそく専用の台座にセットした。
オルゴールは手を触れることなく、旋律を奏で出す。
「見事だ……これこそ妻との想い出の曲……」
アスカには少しだけゲンドウの表情が柔らかく、悲しげなものに変わった気がした。
「アスカ君……1億円の指先だな」
「はぁ……どうも」
「完璧な仕事だ。さすがだな」
「じゃ、確かにお渡ししました。アタシはこれで……」
立ち去ろうとしたアスカを、ゲンドウが呼び止める。
「待ちたまえ、アスカ君。君はテストに合格したのだよ」
「テスト?」
「率直に言おう。私は、君の才能を買いたいのだ」
「へ?」
「まあ、最初から結果はわかっていたがな。きみには充分、私の望む知力と体力があると言う事を。きみは一日平均何時間ぐらい眠るかね」
「えーと、3時間ぐらい?」
「驚異的な体力だ」
「ママゆずりで宵っ張りなだけです」
「私はアカデミーにおけるきみの成績チャートも知っている。当然、きみの行動反応も知性も計算に入れていた。アスカ君、きみの知能指数は近来まれにみる天才なのだよ」
「何を言いたいのかわからないんですが……」
「なにも知らない小娘の振りをするのはやめたまえ。きみの持つ稀有の頭脳は四次方程式も暗算で解くことができる。違うか?」
「ママだってそれぐらいできますよ」
「普通の人間には無理だ。コンピュータを使わないとな」
短い間――そして心底から愉快そうな笑い声が響く。
「さて、いいかね?きみはオキナハシティの再建請負人として市から雇われている、そうだな?」
「はい」
「そして、この私は、街の利益になるものを見出すために招へいされた。私は君のご尊母もよく知っている」
「ママをですか?」
「あの女が人生というものの現実を説明することもなく、娘であるきみをこの地に送り込んだとは到底考えられん。つまりだね、才能のある人間にとって、この街には限りないチャンスがある――ということだ。目と耳をしっかり開けておきさえすればな」
「はぁ……」
「汚職ではないぞ」
アスカはゲンドウに心の内を見透かされたのかと思ったのか額から冷汗を流す。
「われわれ政治の世界では合法的な権力の行使という機会がついて回るのが普通だ」
「……あの、アタシ」
「今は返事をしなくていい。だが君が、いつか私の政権に手を貸してくれることを願っているよ」
アスカは何か釈然としないもやもやを心に抱え、ゲンドウの邸宅を後にした。
研究所では心配な様子のシンジがアスカを出迎える。
「アスカ!あの男に何かされなかった!?」
「大丈夫よ。でもあの人……」
ゲンドウの見せた優しさと冷酷さの矛盾する表情に、困惑するアスカだった。
一週間後の朝。赤木アスカの振るうスマッシュ・ホークの鎚音が研究所に響き渡る。
それを見守るシンジと弐号機。
「ア・タ・シは美少女~は・つ・め・い・か~シンジと弐号機引き連れて~科学の未来を切り開く~、ドワワワー♪
「なに、その歌?」
「アタシが作詞したマイ労働歌。原子の力で起こせ爆発、だ~けどマズイね~チェルノブイリ~♪」
「……平成生まれの子はチェルノブイリは知らないと思うよ」
……と、その時ノックの音か研究所に響く。
「あ、お客さんかな?……はーい」
仮面を被ったセーラー服姿の女性が中に入ってきた。
「へ、変質者?」
「ち、違うわ……私は美少女戦士セーラームーン!あなたの評判をミス葛城に聞いて来たのよ」
「ああ、あの行き後れに」
「ぐっ……後で覚えておきなさい……ここが赤木博士の研究所ね?」
「そうだけど?」
「……さっそくだけど用件を伝えるわ。……ロング・ドグラノフを一丁、製作してもらいたいの」
「えっ、ドグラノフ?あの伝説の狙撃手、ゴルゴ・ジュウ・サンが愛用しているって噂の?」
「……そうよ……有効距離10000Mクラス……超長射程ドグラノフが欲しいの」
「ア、アンタそんな卑怯な武器、恥ずかしいと思わないの?」
「…………」
立派な成人したと思われるセーラー服コスプレの女性は、自分のおだんご頭をいじっている。
「あなたならできるはずよ、赤木アスカ。それを知っているからこそ私は……ここに来たのよ」
「だからさぁ……」
「四の五の言わずにさっさと造れ!」
胸倉をつかまれたアスカのピンチに反応したシンジが二人に近づく!
「警察に連絡しますよ!怪しいおばさんがかわいい女の子を脅して銃を造らそうとしてるって!」
「ちょ、ちょっち待ってよ!……これを見て」
拳を握りしめるシンジの様子に女は慌てて……一片の封書を取り出した。
「アカギ・リツコからの紹介状よ」
「ええっ!?ちょ、ちょっと見せて!」
女から封書を受取ったアスカは、じっくりとその内容を確かめる。
「…………確かに、リツコ姉の筆跡」
「なんて書いてあるの」
「この人に最大限の便宜を図れって」
「引き受けてくれるわよね?」
「で、でもやっぱりこんな武器作っちゃいけない気がするし……」
「設計図はこちらで提供するわ。これよ」
「アタシの話を聞いてない!?」
「要求スペックは、書いてある通り。10,000M先の目標に対し……弾丸誤差±10ミリの精度で組んでもらいたいの……報酬は私のサインで」
「ふざけないでよっ!?そんな紙きれで!」
「あら、私の存在は全国ネットで知れ渡っているのよ。充分価値があると思うんだけど」
「リツコさんの知り合いの頼みを断ったら後が怖いよ。引き受けた方が」
黙って見守っていたシンジが口を挟んだ。
「気が進まないけど……サインは速攻売るからね!」
「真のプロは報酬では動かないものよ、赤木アスカさん」
アスカは無言でセーラームーンを名乗る女をにらみつける。
「期限は今日より1週間。報酬は現物と引き換えね」
「えっと、アンタの歳は?」
「それは……禁則事項だから言えないわ」
……謎の女性は去って行った。
「リツコ姉……なんであんな変態と知り合いなの」
「ドグラノフ銃……警察に知られたら捕まっちゃうね」
「怖いこと言わないでよ~」
「しっかりして。僕だって気が進まないけどリツコさんに逆らう方がもっと深刻だよ」
「アタシは卑怯なことは嫌いなの~」
「それよりも、注文通りの物を造れるの?」
「はぁ……設計図はあるから、後は材料を集めるだけなんだけどね……でも」
「要求精度のこと?」
「うん。頭がくらくらするわ」
「いったん請け負った仕事はできないって断ることはできないよ。頑張らないと」
「うーん……」
シンジにそう言われたアスカは必死になって考え込む。
「…………ん、そうだ!」
「早いね」
「ほら、この前潜った洞窟があったじゃない」
「うん」
「あそこ、古代の機械の残骸が山ほどあったわよね?探せばきっと、ロング・ドグラノフのバレルに使える材料、あるかも!」
アスカはとびっきりの笑顔になった。
「なるほど。悪いアイディアじゃないね」
「遺跡から発見されるものって、今の技術じゃどう頑張っても真似できないぐらい凄い工作技術が使われているしね☆」
「行ってみようか」
「うん、さっそく探しに行ってみよっ!」
アスカとシンジは以前見つけた洞窟までたどり着いた。
「……よし、では探しますか!」
「うんっ」
「パイプ状の部品だよ。アタシの親指が、ギリギリ通るぐらいの穴が開いているやつ」
「了解っ」
アスカとシンジは二手に分かれて広い洞窟の中を探し始めた。
「……うーん、これも……あれもだめ……」
「アスカ、これはどう?」
「これは微妙に歪んでいるわ」
「作ったことは無くても、ドグラノフ射撃はアスカの得意芸の一つだから、そのせいで余計なこだわりを持っているのかな?」
「まぁね。それはあるかも……」
「アスカは肩の力を抜くことも覚えた方がいいと思うけど……じゃあ今度はこっちの方で探してみようかな」
アスカはシンジが持ってきたパイプの山を見ても納得しなかった。
「はあはあ……これで千本目だよ、アスカ。僕にはどれもまっすぐに見える」
「しっかりしてよ、シンジ。これくらいの精度ならアタシでも作れるわよ」
「はいはい、そうですか」
「……うーん……」
アスカは腕組みをして考え込む。
「いいアイディアだと思ったんだけどな」
「ほら、これがこの辺りにあった最後のやつだよ」
「……あれ?色が違わない?黒いし……」
「一番奥の床に突き刺さってた。これでダメなら別の手を考えないとね」
アスカはシンジに差し出されたパイプをじっくりと見つめる。
「シンジっ!やった!これよ、バッチリストレート!」
アスカはシンジを強引に抱き寄せてほおずり。
しかし、砂だらけで汚れていたので、その感触はジャリジャリしたものだった。
「き、気を緩めないで、これからが本番なんだから」
「わかってるわかってる……」
その後研究所に戻ったアスカたちはロング・ドグラノフを完成させたが、受け渡しの約束の日付は1週間後であった。
次の日の朝。アスカは珍しくベッドの中で眠りこけていた。
「おーいアスカ……朝だよっ」
「……ウウゥゥ、ダメ……今日は学校休む」
「アスカ、寝ぼけているね」
「何だか今までの疲労がドッと来たみたい……今日ばかりは、とても起きられそうにありません……ウゥ~」
「大丈夫?」
「……例えて言うなら……拷問された次の日みたいな感じ……ウェェ」
「……それはかわいそうだね。アスカ、ずっと頑張っていたんだから、今日は一日寝ているといいよ」
シンジは弱々しく伸ばされたアスカの手を優しく握る。
「ありがと……いい夢が見れそう……ムニャムニャ」
その時、研究所のドアを元気良くノックする音と声が聞こえた。
「うおーいっ!アースーカー!」
「むにゃ?あの声は……」
「入るわよっ」
階段を上がってきたマナはベッドで寝ているアスカをみてあきれた表情を浮かべる。
「あっ、あんたまだ寝ているの?もうとっくに日は昇っているわよ」
「なんだか、最近の疲れが出てね……今日は休養日にしようと思って……」
「家族サービスに疲れた中年オヤジじゃあるまいし、何言ってんの?ほら、スタンダップ!!起きた起きた!」
シンジとのしあわせお昼寝作戦を阻止されたアスカは少し顔をしかめた。
「今日はあんたに付き合ってもらいたいところがあるのよ。さっさと着替えて!」
「…………え~?」
「さっ、まずは脱ぐっ!」
「……あっ、ちょ、ちょっと……!?」
「うわーーーー!?」
シンジが悲鳴を上げて部屋を出ていった。
アスカは別にみられても平気なのだが、少し残念な気持ちになった。
「んあーっ……品物いっぱいの市場を歩くのは、いつだって気持ちいいわね♪」
「もう、マナったら強引なんだから……」
マナをふくれてにらみつけるアスカ。
二人は最近アスカの活躍もあり活気が満ちて来た市場の中を歩いている。
「ま、怒らない怒らない☆。今日はアスカを、このあいだオープンしたばかりのラーメン屋に連れてってあげるからさ」
「らぁめん屋?」
「霧島商会が援助してできたお店なんだけどね。なんて言うかオープンしたばかりなんだけど、いまいち客入りが悪いの。そこで、アスカにお店の改装を頼みたいと思ってさ」
「開店したばかりで改装?」
「処置は早い方がいいから……とにかく、そのお店を見てもらわないと」
「ふうん、ラーメンね。……お客さんはなんて言ってるの?」
「さぁ……何しろオープンしてからまだ日が浅いし。そこらへんの調査も含めて、総合的な改装プランを立ててもらいたいわけ」
「うーん、いまいちピンとこないわね」
アスカはそう言ってあごに手を当てて考え込む。
「あ、この店よ」
アスカは、マナに連れられて、先日、オキナハシティにできたばかりのラーメン屋に入った……。
「庶民のお店って感じねー。ラーメン屋って、みんなこんな感じなのかな?」
「うん、まあ、そうね……」
「やっぱりなんだかんだ勿体付けてもジャンクフードなわけだし……」
「アスカ、もしかしてラーメンをバカにしていない?」
マナがそう言って冷汗を垂らしていると、店主の男がやってくる。
「あ、これは霧島商会の会長……」
「ちょっと食べに来たわよ」
「こ、これはどうも……わざわざ恐縮ッス」
「……営業中のお店に来るのは初めてだけど、本当にお客、いないわね……」
「はぁ……」
店主とマナはガランした店内を見てため息。
「ま、とにかく店のラーメンを頂きましょ。あんたが一番だと思うラーメン、二つお願い」
「へいっ、わかりました!」
店主はそう言って奥に引っ込んでいった。
「実は、アタシってラーメン食べたこと無いんだよね。……スープ・スパゲッティみたいな感じ?」
「むっ、むかつく……アスカ、完っペキにラーメンをなめているわね……」
「そんなことないよ。実はこのお店についてみんながどう思っているか……シンジがマーケティング・リサーチをしてくれたみたいなの。はい、これがそのメモ」
「ちょっと?いつの間に調査してたの?」
「シンジってば、鈍感なくせに気がきくのよね」
「へえ、手堅い仕事に向いているのね、彼」
「で、ざっと100人ばかりから回答をもらったわ」
店主がラーメンを持ってアスカたちの座っているカウンター席にラーメンを置く。
「どうも世話を掛けて申し訳ないッス。うちのラーメンを食べながらどうぞ」
「――わお!この脂ギトギトの黄金色のスープ……うーん、たまらないわー♪」
「では、最初はズバリ、”ラーメンの味”について」
「うん」
「味は自身あるッス!この店には採算度外視で仕入れている特製タレを使ってますから」
「まずはスープね」
「スープはラーメンの命だもんね」
「『マヨネーズの味が濃すぎる』……29人」
「やっぱ、そうか」
「えー!?マヨネーズ!?」
マナは慌ててラーメンをすすった……。
「するする!マヨネーズの味が……」
「おれ、好きだから。ごはんにもマヨネーズっすから」
「トンコツかと思ってた……」
「ちょっと量を減らせばいいのよ。これを直せばお客さん、ドンドン入ってくるかも」
「そうするっす。このリサーチは役に立つなぁ」
「次は、”メン”」
「これは大丈夫ッス。手打ち麺だし、ゆで加減もばっちりだし」
「そうね……麺は悪くないわ」
「……で、他にどんな意見があるっすか?」
「えっと……『たまにはチャーシューを入れて欲しい』……50人」
「えっ!?どういうことよ!」
「言われて、今気づいたことだけど、オレ……ドンブリにチャーシューを入れるの忘れてたかも……」
「ちょいまち!どういうことよ!」
「チャーシュー麺を頼まれた時も入れ忘れたりしてしまって……すいませんッス」
「じゃあ、チャーシューラーメン・チャーシュー抜きを出してたの!?」
マナの怒りは頂点に達しているようだ。
「どうりでいつもチャーシューが余ると思った」
「うぬぬうううう……」
「今後気をつけまっす。いやー、気がついてよかった。この調査、やってもらってよかったなあ」
「じゃあこれからチャーシューを入れれば解決ね☆」
「そうっすね。ありがとうございました」
「こ、こいつ……っ!」
その後マナたちはラーメン屋を後にしたが……お腹がふくれて上機嫌のアスカに対して、マナは終始、肩をぶるぶる震わせていた……。
「よかったわね、マナ♪」
「よくなーい!何か間違ってる……根本的に!あんなのに店を任せたのが甘かったわ……」
「でも腕には問題ないんじゃない?」
「腕以前の問題!このままじゃ座して死を待つのみ!」
「へ?」
「アスカ、こうなったらあんただけが頼りよ!あのラーメン屋の新メニューを作りなさい!」
「ええっ!?アタシは料理はあんまり得意じゃ……」
「為せば成る!」
研究所に帰ったアスカはさっそくシンジと一緒にお昼寝を楽しむ事にした。
「ほら、シンジもアタシと一緒のベッドで寝る!」
「アスカ、霧島さんに頼まれた仕事は?」
「寝ながら考えるわ。人間、寝ている間に情報を整理するって言うしね」
アスカはシンジと一緒に寝ることに成功した……しかし、幸せな時間は長く続かなかった。
隣で寝ていたシンジがうなされ出したのだ。
「うーん、うーん、ニンニクラーメンチャーシュー抜き……」
そう言ってうなされ続けるシンジにアスカは慌てていた。
「シンジぃ……一体どうしちゃったのよ!?」
アスカに揺さぶられてやっと目を覚ましたシンジは体を震わせながらみた夢の内容を話す。
「泳いでいると海の底から低い女性の声が聞こえてきて……ずっと『ニンニクラーメン・チャーシュー抜き』って言い続けるんだ。そして手が伸びてきて僕は海の底に引きずり込まれて……」
「まさか、怨霊!?シンジ、そのラーメンを作って早くその呪いを解きましょう!」
アスカとシンジは急いでニンニクラーメンを作りはじめた。
「よしっ……ニンニクラーメンっ、完成っ!」
「……なんか体が軽くなってきて、気分が良くなってきたよ」
「シンジが呪い殺されたらどうしようかと思ったわよ」
アスカはシンジの姿を見て、ほっとした笑みを浮かべた。
「じゃあこれをラーメン屋にもって行ってみるわね!」
アスカはシンジに見送られてラーメン屋へと向かった。
「なるほど……これがニンニクラーメンっすか……」
「……らしいわよ♪」
ラーメン屋の店主は麺をすすってしきりに感心している。
そんな店主をマナはあきれて眺めている。
「あんた、本当にラーメン屋の主人なの?」
「この味いただきっす!ありがとうございました!」
ラーメン屋はアスカの働きによって客足を取り戻した……がシンジとアスカは絶対にニンニクラーメンを注文しなかった。
その日の朝は、研究所に緊迫した空気が張り詰めていた。
「……さて、今日は例のコスプレ女がドグラノフを受け取りに来る日ね……」
アスカはそう言って拳を握りしめ、ファイティング・ポーズで気合を入れる。
そして落ち着いたノックの音。
「…………来た!」
「…………約束の物を受け取りにきたわ」
「はい……これね」
「これは……見事な仕事ね」
セーラー服を着た女性はしげしげとアスカから受け取った銃を見つめる。
「しつこいようだけど、そのドグラノフは日本国内どころか銃社会のアメリカでも規制がされるようなシロモノよ。何に使うつもりなの?」
「それを聞いてどうするの?」
「……弐号機!」
「ウォォン」
「……何のつもり?」
「もし、人を傷つけるようなことに使うんならそれは渡せないわ!」
「さすが、ナオコ・赤木の娘ね。一筋縄ではいかないか……」
「何に使うつもりなの?」
「これを何に使うのかは……正義のためとしか言えないわね」
「……むう」
「秘密を守る事も、正義の戦士の仕事なのよ。だけど安心して。今回、これを使っての仕事は人間を傷つけるものじゃないから」
「本当に……?言葉のトリックは無しよ……」
「私は正義の戦士よ。汚い嘘はつかないわ」
「………………むぅぅぅぅ」
アスカはあごに手を当てて激しく考え込んだ。
「………………………………………………仕方無いわね」
アスカはホッと小さくため息をつく。
「……わかったわ。リツコ姉の紹介状を信用する」
「約束の報酬よ」
「……うん、確かに」
「あと、一つだけ言っておくわ」
「何よ?」
「このオキナハシティは見えざる危機にさらされている」
「危機?」
「あなたの仕事が順調に推移すれば、必ずその危機と相対することになる……」
「それってどういう……?」
「それを教えるのは私の仕事ではないの。……それじゃ」
謎の女セーラームーンは去って行った……。
「んー……なんだったんだろう?」
手渡されたサイン色紙にはセーラームーンと書かれていたが、シンジにはミサトの字と似ている感じがした。
しかし、彼はその事実を信じたくはなかったので、気付かない振りをすることにした。