第六話 リツコ姉とクスリとシーサーにゃん
夜遅く、アスカの研究所のドアをノックする音が響いた。
「ん……?だれだろ……こんな遅くに?」
アスカはそう呟いてからハッと気が付いたように震えながらシンジの側に近寄る。
「も、もしかしてお化けじゃないでしょうね……シンジが出てよ」
小さい子供のように怯えるアスカをシンジはため息をつきながら見つめ、ドアの方へと向かう。
「……はーい」
シンジがドアを開けると年齢は30歳、金髪で目つきの鋭い眼鏡を掛けた女性がヌっと入って来た。
「…………ふふふ…………いい研究施設じゃない」
女性は、研究所の中とアスカの顔を交互に見てニヤリとわらう。
「あーーーっ!」
「こんばんは、アスカ」
「リ、リツコ姉!?」
アスカの新しい母親、ナオコの連れ子であるリツコ博士女史だった。
「お姉ちゃんっ、どうしてここに?」
「母さんに頼まれてね。あなたの様子を見てくるように」
「えっ、ママが?」
「ちゃんと屋根のあるところで暮らしているか、ご飯は食べているか、年頃の娘らしい恥じらいは捨ててないか、シンジ君はアスカに悪い虫が付かないように頑張ってくれているか」
「はぁ……それでわざわざリツコ姉が?」
「……ちょっとオキナハシティで材料の仕入れがあってね」
「……うーん、この前はトーキョーから弐号機が来るし……アタシって信用されてないのかな」
「じゃ、私はもういくわ……」
「え?もう行っちゃうの?」
「ええ、なんとか生計を立てているようだし。……それにシンジ君が付いているんだから自堕落な生活はできないでしょうしね」
「ちゃんとあがっていってよ。今、お茶入れるからさ」
「ありがたいけど、これから仕事なの」
「えっ、こんな遅くに?」
「荷物の受け渡しを港でするの。昼間は港の検査官がうるさいし」
リツコの言葉にアスカは考え込む。
「家の研究所がらみの品は欲しがる人の数と同じぐらい、規制のデパートだしね」
「……あっ……もしかして、また非合法の材料とか使ってるのね」
「科学技術の発展には不可欠だから、仕方が無いわ……」
「……はは」
アスカとシンジはリツコの冷たい眼差しに乾いた笑いで応えるしかなかった。
「じゃ、これから、ちょくちょくオキナハシティに寄らせてもらうから、私が居る時に何か困ったことがあったら相談にのるわよ」
「うん、ママによろしくね」
「ええ、元気でやってるみたいだって伝えておくわ……あと、コレ」
「え?」
「ちょっと遅くなったけど、開業祝い。とっておいて」
リツコはアスカに金属の塊などの研究材料を引き渡した。
「わあ、ありがとうリツコ姉!」
「じゃあ、上手くやりなさい……寂れかけた田舎都市の復興なんて骨の折れる仕事だろうけど」
「オキナハシティはきっとアタシが元気にさせるわよ」
「ええ……きっとあなたなら母さんと違う別の伝説を作れるわ……アスカ」
「うん、リツコ姉も実験頑張ってね。……死なない程度に」
「ふふ……またね」
そう言って美人科学者(自称)リツコは去って行った……。
数日後の朝。アスカが港を散歩しているとマナの姿が見えた。
「ん?……あ、マナだ。だれかと話してるわね……」
「本日はありがとうございました。では融資の件、よろしくおねがいします」
マナが笑顔を浮かべて頭を下げると、話相手である男性も感心したように頷いた。
「ミス・霧島。あなたのお父上は大変立派な方でした。その後継ぎであるあなたの手によってオキナハシティの隆盛が甦ることを陰ながら祈っておりますよ」
「貴方やなき両親の期待に添えるように全力を尽くします」
「うむ……では私はこれでおいとまする。別の用件が入っていてね。……頑張ってくれたまえ」
「はい」
男性が立ち去るとマナは作っていた笑顔を崩す。
「ふう……肩がこった」
「……マナ」
「んぁ?ああ、マッド発明家のアスカ」
「何よ!天才発明家よ!」
「ごめんごめん、アスカの怒った顔もかわいいからさ。で、港に何か用?」
「うん、なんとなくぶらっとね。……今の人、だれ?」
「オキナハシティ港のスポンサーよ。港湾設備やなんやらの維持費を援助してくれる人のひとり」
「ふーん、それにしてもアンタも会長だなんてやるじゃない」
「11年前の使徒襲来で、お父さんとお母さんが生死不明になっていなければ、こんな面倒なことなんて絶対やってないって」
「…………」
アスカはマナの言葉を聞いて笑顔から一転沈み込んでしまう。
「会長業なんて気苦労ばっかりだし……ん?どうしたの?」
「…………ごめん」
「なに謝ってんの……それよか、ちょうどよかった。あんたに頼みたいことがあるの」
「仕事の依頼?」
「うん。実はね、今度港のマスコット・キャラを作る事になって」
「マスコット・キャラ?」
「港の宣伝を兼ねてね」
「それってデザインの仕事よね?アタシにできるかな……」
「研究所の看板のデザイン、あんたでしょ?なら大丈夫。やれるって!」
「まぁ……港の宣伝がうまくいけば、人もいっぱい来て、オキナハシティの街興しにもなるだろうし……うん、やってみるわ!」
「よし、頼んだわよっ。あ、もう題材は決まってるからね。オキナハシティの神の使いであるシーサーをモチーフにしたキャラでお願い」
「シーサーってところどころに飾ってある動物の石像よね」
「可愛くて、万人受けするぐらい親しみやすい感じで、ナイスにデフォルメしてね」
「可愛く、万人受け……ねえ」
「じゃ、頼んだわよ」
マナは笑顔でそう言って立ち去って行った。
「さて、シーサーをモチーフにしたマスコットキャラのデザインか……デザインを考える前に、まずは現物を見てデッサンしないとね……たしかシーサー像がある場所って……」
アスカはそう呟いて考え込むと、噴水のある市庁舎前の中央広場に向かった。
「うん……あの噴水の像がオキナハシティの守護神シーサーね」
アスカはシーサー像を見詰め、スケッチを始めた。
「……うん、一応は描けたけど、どうしたらいいのかな……あんまりマニアックだとせまい範囲の人間しか喜ばないだろうし……デザインより、親しみのこもったネーミング、かな?」
アスカは、その場でマスコットの愛称を考え始めた……。
「シーサーさん……シシシのシーサー……シーサーくん……おっす!オラ、シーサー!……シーサーたん、はちょっと古いか……」
その時、噴水のそばを通りかかったコギャルの二人づれの会話がアスカに天啓をもたらした!
「ヒコにゃん、マジにヤバくね?」
「ん…………??」
「にゃんマゲもウケるっしょ」
「ヒコにゃん、にゃんマゲ?」
アスカは二人の言葉を聞いてそう呟いて考え込む。
「……そうか、ゆるキャラね……!」
アスカは笑顔になると、研究所に戻りシンジと共に石材を買いに行き製作を開始した。
「よしっ、できた!さっそくマナの所に持って行こう!」
港についたアスカは大きな声でマナを呼ぶ。
「マーナー!頼まれた港のマスコットキャラのデザイン、できたよー!」
「お、どれどれ。……うん、可愛い可愛い、いい感じじゃない」
「名前は”シーサーにゃん”」
「ネコ?これってネコなの?」
「うん、どこから見てもネコじゃない」
「どっちかというとイヌにみえるんだけど」
押し問答の末、キレそうになったアスカだが、結局シンジがデザインし直すと言う事で決着が付いた。
「そういえば、話は変わるけど、今度、トーキョーに本店がある有名な日本料理屋がオキナハシティに出店するんだってさ」
「ふーん、トーキョーから?」
「なんでも日本で五本の指に入るセレブ御用達超高級日本料理店の支店らしいわ」
「なんて日本料理屋なの?」
「えーと……なんていったっけ……んー、忘れちゃった。なにせ普段、縁が無い世界だから。あ、聞けば思い出すと思うから、トーキョーの名店をあげてみてよ」
「アタシだって、日本料理店は詳しくないよ」
「ほんとに?」
「……高級料理店を有難がるなんて田舎の庶民だけよ」
あっけらかんと笑顔で言うアスカに対し、マナは怒りの表情で拳を握りしめる。
「そうねっ……ってあんたってつくづく嫌味ね!」
「ま、それはともかく楽しみは後でとっておきましょ♪」
「あんた……もしかして、オキナハのことバカにしてない?」
「そんなことないわよ、ちっとも。スポーツが盛んだしみんな体力はありそうだしさ。マナだってその胸ならアタシより泳ぎやすそうじゃない」
「まな板言うなーーーー!!!!」
「どんな店が出店してくるか、少し楽しみね」
「あんたもオキナハシティの街興しのために来てるんだからもうちょっと気合入れなさいよ!!!」
完全に頭に血が上ったマナをアスカは尻目にして、研究所に戻った。
数日後の朝。アスカとシンジが研究所で発明品の『100年は使えるかもしれないナベ』を作っていると、郵便配達の人間がドアを叩いているのに気が付いた。
「……すいません」
「ん?あ、はーい、どうぞ開いてますよ!」
「えーと、赤木アスカさんのお宅はこちらで?」
「はい、そうです」
「速達です……ハンコをお願いします」
「あ、はい……これでいいですか?」
「はい、確かに……では」
「ご苦労さまー」
シンジは配達員を見送ると、アスカに受け取った手紙を渡す。
「消印は……トーキョーからだね」
「シンジ、勝手に手紙を見ないでよ!」
「封筒の宛先だけは勝手に見えちゃったんだよ」
「こんな女の子らしい可愛い封筒……ママだって使わないし、誰だろう?」
アスカは首をかしげながら差出人の名前をあらためる。
「あ!……ヒカリからだ」
「洞木さん?トーキョーの学校でアスカと一緒によく居た、洞木ヒカリさん?」
「うん。……どれどれ……………うーん」
「…………なんてかいてあるの?」
「シンジ!覗いちゃダメよ!女の子のヒミツなんだから」
「アスカは僕宛ての手紙を全部見ちゃうくせに」
「もう……げ……これは……アタシに逢いたいって……寂しい……悲しい……狂おしい……なんかネガティブな単語が多いわね」
「まるで恋人宛ての手紙みたいだね」
そう言ってシンジは苦笑する。
「どうしたのかしら、ヒカリ」
「洞木さんはトーキョーの学校で同じクラスに居たアスカにベッタリだったからね……」
「そういえば、こっちに着いたらヒカリに手紙を出すって約束してたのに、すっかり忘れてたわ」
「それはマズイよ。小さいころからの友達は大切にしないと」
「到着してこのかたバタバタしていたからね」
「洞木さんの家は有名なお金持だったよね。学校を辞めてトーキョーに戻ったのかな」
「今度寝る前にでも手紙を書くわ。……ヒカリ、元気にしてるといいな」
次の日の昼。アスカはシンジと手分けして新作のナベのパテントを売り込んでいるうちに、海岸通りへとさしかかった。
「…………ぅぅ、徹夜続きの瞳孔に、海からの照り返しはきっついわね……。今日は早めに寝よっかな」
……と、その時。…………ガラガラガラ。
「そこの嬢ちゃん、危ないで!」
…………材木を積んだ荷車がアスカに襲いかかってきたっ!!!
「へっ?」
「……もう止められへんで!」
「うぎゃ!いったーい!」
「うわあっ!やってもうた!おかん、ワイは人を殺しちまったで~!」
「……し、死んでないわよぉぉぉぉぅぅぅ……」
アスカは頭を押さえながらうめく。
「おおっ、無事やったか?よ、よかったでぇ……」
「どうしたのよ、そんなに急いで?」
アスカは荷台を押してきた日焼けした少年……トウジをにらみつける。
「いや……すまへんな。実は海岸通りに、今度えろうでっかい日本料理屋が出来る事になったんや」
「日本料理屋?」
「なんでも、トーキョーモンの店らしいわ」
「トーキョーから……日本料理屋ね……」
「その建築に使う資材を運ばされてたんや。なんや、来月までに完成させろっちゅう、無茶な仕事や」
「そっか、だから木材を」
「おとんは景気のいい仕事が入ったって喜んでるけどな」
「これからは気をつけてよねっ!」
アスカはトウジを怒ってにらみつける。
「そ、そないな怖い顔せんといてや。あ、すまへん、コレで勘弁してくれや」
「へ?」
トウジはアスカに木材を投げつけて慌てて立ち去った。
「……材料がもらえてよかったけど、いったいこんな重いのどうやって運ぶのよ!」
アスカがぼう然としているとシンジがやって来た。アスカがことの顛末を話すとシンジはため息を漏らす。
「……で、脅して慰謝料代わりに木材をふんだくったわけだね」
「違うもん!アタシ、そんな強盗みたいなことしないもん!」
アスカが目に涙を浮かべて否定すると、シンジはまたあきれ顔になった。
「まあ……いいよ。この量だと担いで運ぶしかないね。アスカも手伝ってよ」
「あ、さっき衝突した時の頭の傷が痛みだした……」
「アスカ!わがままいわないでよ」
「シンジが頭を撫でて、痛いの痛いのトンデケ!ってやってくれれば痛くなくなるかも」
結局シンジはアスカのおねだりには勝てず、アスカと二人で木材をかついで研究所に戻った。
研究所の床に横になっていたシンジはゆっくりと目を覚ます。
「ふあああ、朝か……」
ガンガンガン!!
「うわ、朝っぱらから何?」
ドカーン! ガラガラガラガラガラッ!
「また、アスカの仕業か……!ナオコさんだったら、三日ぐらいは痺れがとれない薬とか飲ませるんだけど……僕は……アスカに甘いな」
「えいやあ!えいやあ!」
「アスカ、砲撃部隊に負けないぐらいの轟音だね」
「あ、シンジ、おはよ☆」
笑顔であいさつをするアスカにシンジはさらに皮肉を言う。
「アスカが居れば毎日が花火大会だね……いくらこのあたりが工業用地だからって朝からなんて音を出すんだろう」
「まぁまぁ……うん、作業完了。そんなことよりみてよ、ホラ!」
「何?」
「スライドレール付きのクレーンをね、天井に据え付けたのよ。これで重いモノも、どんどん動かせるようになるわ♪」
「こんなもの作らなくても、弐号機が居るじゃないか……」
「うん、我ながら機能的な配置だわ♪」
「聞いていないよ……」
シンジは笑顔のアスカに冷汗をかく。
「ねえ、シンジはどう思う?この配置」
「え?……とってもいいと思うよ」
シンジは嫌な予感がしたが、アスカを怒らせたり泣かせたりする方がもっと嫌だった。
「この研究所もだいぶ設備が充実してきたわね……いい感じ、いい感じ♪」
「やっほー……お邪魔しまぁす」
「あ、ミサト」
「おはよ、アスカ。今日もバリバリやってるわね」
「うん、ほら見てよ」
アスカは、先ほど天井の梁に据え付けた大型クレーンを自慢げに指差した。
「来る度に、この研究所の設備もパワーアップしていくみたいね……でも、大丈夫なの?」
「え?なにが」
「この建物、結構古いし、見た目ほど頑丈じゃないと思うけど。あんまり重い設備を入れ過ぎると、ある日突然ボロっといくかも……」
「そこらへんに抜かりはないわよ。建物の耐久度はちゃんと計算に入れているから」
「ならいいんだけどね」
「ほら、ぜんぜん」
……がんがんっ!!アスカはおもいっきり壁を叩いた。すると……天井のクレーンを固定していたナットがポロリと落ちた。
「ん?」
ひゅぅぅぅぅぅーーーー!!!!
スライドレールごと脱落したクレーンがアスカの頭上に襲いかかる!
「アスカっ!」
部屋の隅で整理をしていたシンジは叫び声をあげてアスカに飛びついた。
「うわあああ!」
「シ、シンジ君!?」
「……痛てててて……」
「……だ、大丈夫?ど、どれ……みせなさい……」
「…………痛てっ!」
「うわ……これ、コブになるわよ。急いで冷やさなきゃ……!」
シンジはミサトの手当てを受けたが、まだ痛そうにしている。
「うぅ~一瞬頭がへこんだかと思った……痛てっ!」
「ほんと、災難ね……うわっ」
「シンジ……ごめんね……」
ミサトはアスカを見て驚いた。目や鼻から盛大に液体が垂れ流れている。
「アタシの構造強度の読みが甘かったのかな……」
シンジにハンカチで鼻水を拭いてもらってすっかり落ち着いたアスカは考え込んでいた。
「やっぱり基本的にボロな建物なんだから、あんまり無茶な改造をしちゃだめよ……道具は壊れても直しがきくけど、シンジ君の命は……ねえ」
「うん……ごめんねシンジ……アタシの代わりにコブ作っちゃって」
「そんな謝らなくてもいいよ。失敗は成功の元だろう?」
落ち込むアスカにシンジが優しく微笑みかけるとアスカはやっといつもの元気を完全に取り戻したように見える。
「まあまあ、骨折ったって傷が残ってたって、生きてさえいれば、いつか笑い話にもなるでしょ」
「そうだよ……ッテテ……」
「ま、失敗は被害さえなければ、基本的にタダだしね……さて。なんだかお邪魔そうそうバタバタしちゃったけど、今日はアスカに仕事を頼みに来たの」
「仕事?何?」
「アスカ、薬って作れる?」
「クスリ?……まさか……それで市長をアンサツ!?」
「違うわよ!神社で売り出しているクスリ、これの新商品を開発してもらいたいの」
「なるほど……宗教とクスリは切っても切れないものだって昔からいうもんね……」
「……やっぱり、あたしのこと勘違いしてるでしょ」
「……で、どんなのをつくればいいの?」
「ずばり塗り薬……軟膏ね。できれば、傷、ヤケド、肌荒れ、ニキビ、筋肉痛、歯痛……思いつく限りなんにでも効くようなオールマイティなのがいいわ」
「まあ、やってみるわ」
「じゃあお願いね」
ミサトはそう言って手を振って研究所を出ていく。
「……さてと、なんにでも効く軟膏か……よしっ、どんな雑菌や病原菌の侵入を阻む、AT軟膏!!ってのはどう?」
「アスカ、ATが何の略か一般の人にはわからないよ」
「じゃあ、シンジはどんなのがいいのよ」
「どんな怪我にも病気にも安心、オロオロナイン!!って言うのはどうかな」
「プッ、シンジはいつもオロオロしてるもんね……」
「僕がオロオロするのはアスカのせいじゃないか!無茶な実験をしたり、危ない薬品を使ったり、下着でウロウロするし……」
「ごめんシンジ、アタシのせいで……ん?最後のは何?」
とりあえず、シンジの意見が通り、商品名はオロオロナインとなった。
「よしっ、完成!さっそくミサトのところに届けに行ってくるっ!」
製品を完成させたアスカは葛城神社へと向かった。
「……へえ、オロオロナイン?」
「アロエベースの安全な万能軟膏よ」
「頼んでから、さすがに無理な注文かと思ったけど、さすがはアスカ!……どうもありがと」
「おや、アスカさん」
その時神社に姿を現したのは市長の側近、加持リョウジだった。
「あ、加持さん?」
「どうも、よう葛城」
「こんな時間に神頼みにでも来たの?」
「今日は仕事が早く片付いてね。オキナハシティの陰の実力者と親睦を深めにきたんだよ。……しかし、お取り込み中かい?」
「いえ、アタシの用はもうすみましたから。じゃあ、アタシ、仕事があるんで、これで失礼します」
「アスカ、また何かあったらおねがいね」
「うん、それじゃあ……また」
アスカはそう言って神社を出て行った……が、入口で足を止めて考え込んだ。
「……んー。二人で何の話だろう?やっぱり、こっそり盗み聞きだね☆……これも街興しのため……」
アスカはそう言うと神社の中を覗き込んだ。
「ほら葛城、土産だ」
「わぉ……わが命の水」
「市長の執務室から失敬してきた。ちょっといい酒だぜ、これは」
「いっけないんだ……バレないの?」
「閣下は、こいつを一切受け付けない体質だってことは称賛に値するよ」
「じゃ飲みましょう♪グラスとつまみを用意するわ」
「この一ヵ月、赤木アスカの行動を子細に眺めてきたが……どうやら、君の見込み通り、あの子は本物かもしれないな」
「ははー、あたしが見込んだ子だもん」
「ささやかながらも、この一月、彼女がオキナハシティで示してみせた成果……彼女の血筋のなせる技なのか」
「ふんふん……(ゴクゴク)」
ミサトはリョウジの話を聞いているのか、酒を飲みまくっている。
「有名だった赤木博士は彼女の母親だったんじゃないかな。彼女は隠しているけど」
「ふんふん……(ゴクゴク)」
「おや、まるで驚いてないね」
「あの子の才能の程は、言われるまれもなくもう認識済みなのよん……ひっく」
「ふぅん。でも市長や街の連中と違って、あの子を世話したキミは、見る目があるよ。さすがだな、見なおしたよ」
「…………街の復興なんて言う大事業はね、しょせん……凡人の出る幕じゃないの……」
「おいおい……飲みすぎだぞ……もう酔ったのか?……随分弱くなったな……?気楽な顔して……やっぱり苦労が多いのか」
「あたしは、賭けます……賭けるのよ……。彼女はあたしの……オキナハシティの最後の希望なのよ……」
「……希望、か」
アスカは神妙な顔でその様子を眺めていた。
「………………なんだか……プレッシャー感じるわね……聞かなきゃよかった……」
アスカは隙を見計らって神社の外に出たのだった……。