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第五話 翔べ!エヴァンゲリオン
アスカとシンジはオキナハシティの一角にある森林公園で朝の散歩を楽しんでいた。

「……ここに来ると、心がいやされるね」
「オキナハシティを復興させるためにはどうしたらいいのか……」
「アスカは努力家だよね。皆は天才だって言うけど僕はアスカが頑張りすぎないか心配だよ」

それまで難しい顔をしていたアスカはシンジの言葉を聞くとパッと顔を輝かせる。

「じゃ、じゃあさ。シンジが手を繋いでくれればもっと心がいやされて……」
「あ、タンポポだ。サラダに使えるね」

シンジはタンポポを見つけ、摘みに駆けだす。その場には手を伸ばして固まったアスカだけが残された。

「シ・ン・ジ!」

戻ってきて怒ってにらむアスカにシンジは鉄拳制裁を覚悟した。
しかし、アスカは表情を和らげて、フッと微笑んだ。

「まあ、シンジも経済事情が苦しいうちの研究所のことを考えてくれてるんだもんね……」
「何でアスカは怒ってないんだろう……あ、多分最近魚を食べてカルシウムを摂る様になったからかな?」

シンジはアスカの微妙な乙女心の変化を読み取ってはいなかった。



研究所に戻ったアスカは眼鏡をかけて細かい作業に没頭している。

「……よーし、もう少しで終わるわね。シンジ……ミクロンドライバー」
「はい」
「うーん…………よし、おっけー……」

アスカは、作業台の小指の先ほどの金属片を手に取る。普段彼女の胸にかかっているペンダントの基部だった。

「コア安定装置、本日の定期点検完了……っと」

そして金属片を、半透明に輝く赤色の角柱、その両端にはめ込み、いつもと同じくヒモを通して首にかけた。

「いくらお母さんの形見だからとはいえ、人造人間エヴァンゲリオンのコアを肌身離さず持っているのは危険じゃないの?」
「だってこれをつけているとママが守ってくれている気がするんだもん」
「もし万が一暴走したら……」
「いつか、人造人間エヴァンゲリオンを自分の手で作り出すことができたら、その時、ママもパパと一緒のお墓に埋めてあげるの」
「……またその夢なんだね。人造人間エヴァンゲリオンのオリジナル製造はナオコ博士でも無理だったんでしょう?」
「でも、使徒のコピーとパパの遺伝子を使って作る事は成功したわ」
「……まあそうだけど。その結果アスカのお母さんの魂はそのコアの中に吸い込まれちゃったわけだし」
「不可能じゃないって証明されただけで充分よ。どれくらいかかるかわからないけど、いつかきっと……」
「とりあえずその夢はしまっておこう。今はオキナハシティの街興しが一番だよ」
「うん……そうね」

アスカがシンジの言葉に強く頷くと、研究所の外から元気なマナの声が聞こえて来る。

「おーい、アスカ、いるー?」
「ん?」
「あれ……」
「おーい」
「マナだ!……シンジっ!」
「了解っ」

…………ドタドタドタっ!アスカとシンジは急いで部屋の中を片付け始める。

「なんだ、あいてるじゃない。お邪魔するわよー」
「いらっしゃい、マナ」
「……それにしても、ここはいつもほこりっぽいよね。でも前に来た時みたいに物騒な薬品は置いてないのね」
「ふふ、前みたいな目に遭わないよーに実験器具は急いで片づけたのよ」
「む、……ムカつくわね……」
「で、何の用?」
「またトーキョーから、あんた宛てにドでかい荷物が届いているのよ」
「アタシに?」
「前にあんた宛ての荷物が爆発した一件。あれのせいで港のポーターがビクついちゃってね。誰も近づこうとしないのよ」
「アハハ……」
「そういうわけで自分に取りに来てちょうだい、港の隅っこにおいてあるからさ」
「うん、わかったよ。……トーキョーのママ、研究道具のスペアでも送ってくれたのかなぁ……?シンジ、どう思う?」
「僕に聞かれてもなあ」
「あ、あともうひとつ」
「何よ?マナ」
「もち、仕事よ。荷物のことを報せるためだけにわざわざ来るはずないでしょ」
「どんな仕事?」
「サメ退治。ちょっとした船ぐらいはあるサメなんだけど、これが近ごろ、オキナハシティの港ちかくに居ついちゃって」

シンジはその話を聞いて体を震わせる。

「……まだ被害らしい被害はでていないんだけどね。漁師の話じゃ、もンのすごい獰猛な種類の人食いザメらしいのよ」
「なるほど……それは放ってはおけないわね」
「で、これの退治を頼みたいわけ。あんた、オキナハシティの街興しで来ているんでしょう?この事態をなんとかしてよ」
「そんなにお願いされちゃあ、仕方無いわね。ほかならぬ親友の頼みだし」
「ま、親友ってところがひっかかかるけど……サメよ、サメ?しかも人食い。怖くないの?」 

天真爛漫に話すアスカとは対照的にシンジはガタガタ震えている。

「まあ、人並みにはね。でも、サメってカマボコの材料だよね?えへへ、はんぺんにしてもらうのもいいな。シンジは何を作ってくれるの?」
「危ないよ」
「でも……アスカは乗り気みたいだから……任せた!」

マナは少しの間だけシンジの心配をしたみたいだが、アスカに向かって笑顔で手を振って去って行った。

「さて、どうしようか」
「僕は泳げもしないから海のことはよくわからないよ」
「サメだって魚には変わらないんだし、サメ用の釣り道具でも作ってみますか!」
「港に届いている荷物はどうするの?」
「どうせ、サメ退治で港に行くんだから、その時でいいわよ」

その後アスカとシンジは鍛冶屋で材料を購入し、無事にサメ用の釣りザオを完成させた。

「よしっ、サメ釣りセット一式、これで完成ね♪」
「さっそく港に急ごう」



「マナ、来たよー」

アスカは元気いっぱいで港に駆けつけ、シンジは重い荷物を背負って青い顔をして現れた。

「これはまた重装備ねぇ……」
「スーパーバンブー製のロッドと、モーター内蔵のパワーリール。体長5メートル以上の獲物を自動追尾するルアー」
「釣り糸は技術を駆使した特殊なものでクジラだってぶらさがれます」
「うわーっ、本格的ね……なんていうか、あきれるほどに……」
「船は用意してくれているよね?」

そう言われたマナは少し気まずそうだ。

「あの……いまさら、こんな事言うのもなんだけど……止めてもいいのよ?」
「へ?」
「ほ、ほら、あそこ!前に言ったあんた宛ての荷物。でっかいコンテナよね!何が入っているか見てみたくない?」
「別に……サメ退治が終わってからゆっくり見れば」
「今すぐあんたの家に運んで、一緒に中身を見てみない?ねえ?あたし見たいなあー」
「どうしたの?マナ」
「ぐ……もう、あんたの凄さはわかったから……悪いこといわない、ヤバイ、ヤバイって」
「そう?」
「実はね、後浜さんっていうサメ狩りの達人に、もう今回の始末を頼んじゃっているの」

マナは誤魔化し笑いを浮かべている。

「え~?そうなの?」
「まさか、あんたが本当にやるとは思わなくって。だからわざわざ危ないことをやる必要はないの。……ね?」
「そのサメ狩りの達人っていつ来るの?」
「え?……一週間後くらいかな」
「ふっ、その達人さんには悪いけど、出る幕はないわね。任せて、アタシがなんとかするから。……シンジっ!」
「わ、分かったよ……」

アスカとシンジは駆けって一緒に船に乗り込んだ。

「あっ、アスカ!」
「船長さん、よろしく!」

話しかけられたロン毛の船長、青葉シゲルは髪を潮風にたなびかせながら答える。

「ふっ、任せてくれたまえ。それにしてもお嬢ちゃんたち、スゴイ装備だね」
「じゃあ船と船長さん借りるねっ」
「やめろーっ!もどってこーい!アースーカーッ!!!」
「いってきまーす!」

アスカは叫ぶマナに笑顔で手を振って出航して行った。

「うっ、うわあ……いっちゃった……ど、どうしよう……」

マナはそう言ってうなだれてへたり込んでしまった。



オキナハシティ港沖合い……。

「さて、始めようか!……シンジ、ポイントは?」
「うん……魚群探知機は3時の方向、体長6から8メートルクラスの反応を感知しているよ……距離は約120メートル。多分、コイツだね」
「ホーミングルアー、パワー・オン!……行くわよっ!必殺のフルターン・キャスティング!……せぇぇの!はぁぁぁぁっ!!!!」

体重を乗せた鋭いキャスティング……釣り糸がモノすごいスピードでリールから繰り出されてゆく……!!

「よしっ、うまいっ!」
「うん、ポイントどんぴしゃだね♪」

サメは激しくアスカのさおを引っ張る。

「うわっ、来た!シンジ、あたりが来たよっ!」
「で、でかい!ありゃあ、この船ぐらいあるぞ!」

船長のシゲルが驚きの声を上げる。

「リーリングはできる?」
「う、うわ、うわわわわわーっ!」
「お嬢ちゃん、無茶だ!釣りザオを離せ!」
「そ、それが糸が服に絡まってっ……!」
「いけない!」

サメはさらに激しく暴れる!

「きゃあああああ!」

どっぼぉぉぉぉーーーーん!!!アスカは海中に引きずり込まれてしまった!

「アスカーっ!」
「うわっ、海に落ちた!いわんこっちゃない!まだ船の準備できないのっ!?」

港のマナからもアスカが海に落ちる姿は見え、港に居た船員にどなり立てた。

「そ、それが、サメを警戒して、ほとんどの船を陸にあげてしまったもんで……すぐには」
「もうっ、どいつもこいつもっ!アスカがサメに食べられちゃうじゃない!」
「お嬢、たいへんだっ!」
「今度は何よっ!」
「あ、あれを見てくだせえ!野ざらしになっているあのコンテナ……!」
「え?……あれはアスカ宛ての……う、動いてるっ?」

船員が指差すコンテナを見たマナは驚きの声を上げる。

「…………ウ」
「な、なに……コンテナが浮かび上がり出し……」
「ウォォォォォン!ウォォォォォォォォー!!!!」

閃光と共にコンテナが爆発する!

「……くっ?な、なんなのよ。また爆発物っ?」
「お嬢、あ、あれっ!」

もうもうと舞い上がる粉塵。その中で赤い巨人のロボットがそびえ立ってうなり声をあげる!

「ウォォォォン」
「な、なに…………ロボット?」

そのころ海に引きずり込まれたアスカは必死に水面から顔を出していた。

「……た……たすけて……」
「ウォォォォォン」

アスカのピンチに反応したロボットは羽を伸ばし天空に舞いあがっていった……!

「くそ……アスカを助けるなら火の中水の中って誓ったんだけど……僕は泳げない……でも、このままじゃ……!」
「うわ、なんだ?港の方から、なんか飛んでくるぞ!」
「……あ?……あれは?」

シゲルの声にシンジが港の方を見ると、見覚えのある赤いロボットのような物体……エヴァンゲリオン弐号機が空を飛んで来る。

「弐号機!?」
「……はっはっ……がぼがぼ……もう…………ダメ……」
「ウォォォォン!!!!」
「……あ……?」

弐号機のATフィールドをまとった巨体がサメの体にぶち当たる。……瞬間、サメの体はくるくると木の葉のように宙を舞い、激しく海面に叩きつけられた。

「……ウォォォォォン!!!」

弐号機とサメの死闘は数分続き……。オキナハシティの港を荒らした人食いザメはついに昇天。……腹を上に向け、プッカリと海面に浮いたのだった……。

「…………ウォン」
「はー、でかい……」

港に戻ったアスカたち。マナは初めて見るエヴァに感心した様子だった。

「……に、弐号機?どうしてここに……トーキョーのママの研究所に居たんじゃなかったの?」
「……ウォン」
「どうやら、アスカのお母さんの指示みたいだね。アスカの手伝いをするって」
「そうなの?」
「……ウォン」
「ありがと、オキナハシティの街興し、一緒に頑張ろう」
「……ウォン」

エヴァンゲリオン弐号機が、アスカのお付きとして仲間に加わったのだった。