「高速道路の新たな上限料金を発表させていただきました」。9日の記者会見翌日の土曜日、馬淵澄夫副国土交通相は地元・奈良市内で街頭演説していた。耳を傾ける人は15人ほど。「なめんじゃないよ!」とのやじまで飛んだ。
「実質値上げ」と伝える新聞、テレビにどう反論するか。奈良に向かう新幹線の車中、「アパートの大家さん(道路会社)が、住人(ドライバー)に、さまざまな条件で割り引いた家賃(通行料金)を見直す代わりに、住民から要望された階段(東京外環自動車道)を取り付ける(建設する)」というたとえ話を考えた。それでも、中型トラックを近くに止めて聞いていた酒屋の男性(41)は「話が難しすぎる」と腕組みしたままだった。
「工学部卒業後、ゼネコンでサラリーマンを経験。道路の細かなデータ、資料を分析できる」(国交省幹部)馬淵氏。関係者によると当初、時間帯や地域によって料金設定を変えて交通量を制御し、渋滞減らしにつなげることを目指していた。だが、民主党は12月、全国一律の料金体系や、割引縮小でできた財源を高速道路建設に回すよう求める「重点要望」を政府に提出。参院選勝利を最優先に据える小沢一郎幹事長が「この政権は高速道路を造らないのではと、地方に誤解されるのを恐れた」(政府関係者)ためだ。
新料金体系は、馬淵氏の意向で、ETC(自動料金収受システム)無しでも割引対象とすることやエコカーへの優遇を盛り込んだ。同時に党要望を反映し、割引は縮小された。
発表後の9日から12日にかけ、馬淵氏はテレビ局をはしごして「公平で納得できる料金」と熱弁をふるった。しかし評論家らの値上げ批判を前に防戦一方の場面も。「国民に理解いただくまで、サンドバッグになりますよ」と言い残し、スタジオを後にした。【寺田剛】
毎日新聞 2010年4月14日 東京朝刊