カウントダウンが始まった「鳩山退陣」 (1/3)
鳩山政権がどうあがいても、残り1カ月半では地元合意を得て政府案をまとめられないし、日米合意も無理だろう。米大統領・オバマに「5月末決着」を公約した首相・鳩山由紀夫は責任を問われ、退陣は避けられない。しかしその場合でも民主党幹事長・小沢一郎は平然と居座り、今夏の参院選の陣頭指揮を執ろうとするのではないか。「ポスト鳩山」を筆者は副総理兼財務相の菅直人と読む。政権の「たらい回し」がまた始まるのか、それとも・・・。(敬称略)
「鳩山首相退陣へ」――。メディア各社がいつこの見出しで勝負を懸けるか。鳩山がいつ退陣の決意を固めるか。これから長い取材合戦が始まるが、筆者は今回のコラムでそれに先んじて参院選前の「鳩山退陣」を予測することにした。
もちろん、政界の一寸先は闇であり、「絶対」はない。ひょっとしたら、鳩山が持っているという「腹案」によって普天間問題が水面下の日米交渉で一気に決着し、沖縄など地元が大喜びし、下落していた内閣支持率も反転して急上昇・・・。という鳩山にとって夢のような話もゼロではない。1%の可能性はあるかもしれない。だが、99%はあり得ない。
*** 鳩山に冷淡なオバマ、非公式会談は夕食会で10分だけ ***
2010年4月12日夜(日本時間13日午前)、ワシントンで開かれた核安全保障サミットの夕食会。鳩山はその席上、オバマと非公式に会談した。正式会談は見送られ、夕食会で隣りの席を用意したのが、オバマのせめてもの鳩山に対する配慮だった。
だが、その会談時間はわずか10分。そのうち5分間はイランの核開発疑惑に割かれたという。鳩山は「じっくりと2人だけで話ができた」と語ったが、どこが「じっくり」なのか。現段階で鳩山と公式会談するメリットは何もないと、米側が極めて冷淡な対応を示しただけではないか。
会談後、鳩山は記者団に普天間問題について「5月末までに決着する」とオバマに伝えたことを明かしたが、「具体的な地名は私から一切出していない」と述べた。
4月9日、駐日米大使・ルースは外相・岡田克也との会談で「地元の同意」がない日本政府の新たな移設案を話し合うのは時期尚早として、日米の実務者協議を延期するよう求めていた。地元の了解を得られない案を議論しても意味がないというのが、米側の判断なのだ。
つまり、「地元の同意を取り付けてから、政府案を持ってこい」と言っているのである。鳩山が「腹案」を持っていたとしても、オバマに話せるような状況ではなかったのだ。
カウントダウンが始まった「鳩山退陣」 (2/3)
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鳩山は記者団からオバマの感触を問われ、「感触も申し上げられません。えへ。言葉を全部読まれますから」と語った。笑みを浮かべ、さも余裕があるかのような表情を示してみせた。こういうのをまさに「猿芝居」と言う。結局は何もなかったのである。
一方、ホワイトハウスは鳩山とオバマの協議に関して、日米安全保障条約改定50周年に当たる今年、同盟関係強化に取り組む方針を確認したと発表しただけ。普天間問題には一切触れていない。
鳩山にとって、事態は極めて深刻である。鹿児島県徳之島に普天間ヘリ部隊の大部分を移転させ、キャンプ・シュワブ陸上部(沖縄県名護市など)にも一部移設する案は地元の理解を得られていない。これを政府案や「腹案」として口に出すことさえ、鳩山には憚られたのである。
仮にこうした具体的な地名を出していたら、「また鳩山はできもしないことを言ってきたよ」と米側に受け止められただろう。鳩山は普天間問題でオバマに「トラスト・ミー」と約束し、「クリントン国務長官には(結論先送りへの)理解をいただいた」と発言するなど、米側の反発を浴びた「前科」がある。
「嘘つき鳩山」に対するオバマ政権の不信感は膨らんでいる。「言葉の軽さ」は米側に知れ渡り、いくらオバマに協力を求めてもたった5分間では詰めた話はできまい。当然、「密約」を交わせるはずもない。
*** 稚拙な政治主導、外された外交当局に出番なし ***
今回の普天間問題の政府案取りまとめをめぐっては、官房長官・平野博文や防衛相・北沢俊美らが「政治主導」で動き回り、外交当局はほとんど関与できなかった。
普天間問題に詳しいある外務官僚はこう指摘する。「政治主導ですから、自分はこう思っても、こちらからこうすべきだ、ああすべきだと言うわけにはいかない」。そもそも、外務省の大方の意見は米政府同様、日米が合意した現行計画のキャンプ・シュワブ沿岸部(沖縄県名護市)への移設がベストというものだ。
ところが、政権交代とその後の名護市長選で移設反対派が勝利したことにより、シュワブ沿岸案は事実上、実現不可能な状況となった。
そして外務官僚は普天間移設の実質的な政府内協議から外された。外相の岡田も過去に潰れた嘉手納基地への統合案を主張したり、シュワブ沿岸案での決着も視野に入れる考えを示したりしたため、平野や北沢と対立して政府内の足並みが乱れた。
平野は米軍ホワイトビーチ(沖縄県うるま市)沖合埋め立て案に執着。北沢はキャンプ・シュワブ陸上部への移設を検討した。鳩山は沖縄県外の移設を模索し、鹿児島県徳之島への移設を軸とする案を考えているようだ。
しかし、いずれも地元から猛反発を食らった。既に平野はホワイトビーチ沖合を断念した。徳之島とシュワブ陸上の併用案もいずれ断念せざるを得ないだろう。
5月末までの決着は絶望的な状況となった。だからこそ、平野は「決着」の定義について「こういう方向で詰めていきましょう、という合意が得られるならば、一つの決着だ」(4月13日の記者会見)と言い始めた。鳩山の責任回避を図るため、姑息な言い逃れで誤魔化そうとしているのだ。
ある政府関係者がこう語る。「鳩山政権が退陣を免れるとしたら、米政権が現行計画の沿岸案を白紙に戻して、もう一度最初から協議を始めようと言ってくれる場合だ。結論は先送りだが、新たな協議がスタートするということになれば、何とか政権は持ちこたえるのではないか」
しかし、これもオバマ政権次第。今後、日米の実務者協議に米側が応じれば鳩山政権は延命を図れる可能性があるが、協議に乗ってこなければオバマに見捨てられたと判断せざるを得ないだろう。
カウントダウンが始まった「鳩山退陣」 (3/3)
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いくら鳩山が「辞めたくない」と思っていても、5月末までに普天間問題が決着しなければ、その責任は免れない。
直近の内閣支持率を見ると、日本テレビ(NNN)の世論調査が28.6%、テレビ朝日(ANN)が28.5%となり、ついに20%台の「危険水域」に突入した。「政治とカネ」もさることながら、世論は口先だけで実行力の伴わない鳩山にうんざりしているのだ。
普天間問題は平野が政府・与党の取りまとめ役。このため、「平野を辞任させ、そのついでに内閣改造と党役員人事を断行して目先を変えてはどうか」という甘い構想が民主党内にあるという。
しかしそんなことでは国民は誤魔化されない。意味のない空虚な言葉を撒き散らす鳩山が首相を続けている限り、内閣支持率が回復する可能性はない。参院選で民主党は手痛いしっぺ返しを受けるだろう。
鳩山が退陣した場合どうなるか。小沢はどう動くのか。自民党が恐れるシナリオは、鳩山と小沢の「二枚代え」だ。
小沢支配の民主党が変わったと思われない限り、民主党への支持も伸びない。「小沢がもし選挙のプロなら、自ら辞任を決意する」(自民選対関係者)との見方がある。しかしここまで来ると、幹事長として実権を握る小沢が参院選前に今のポストを手放すとは思えない。また、小沢と距離を置く岡田には政権を任せたくない。となると、「ポスト鳩山」は菅直人と思いを定めているはずだ。
*** 「ウルトラC」は衆参同日選、疑心暗鬼が渦巻く永田町 ***
永田町で「ウルトラC」として囁かれているのが衆参同日選である。それを取り上げた週刊朝日の記事の影響もあり、自民党幹事長の大島理森がその可能性に言及するなど話題になっている。
普天間問題が決着しないまま鳩山が衆院解散に打って出れば、それは民主党の「自爆」に等しい。あるとすれば、鳩山内閣総辞職後の新首相が「国民に信を問う」として解散を断行するシナリオだ。
衆院で民主党は300以上の議席を持つ巨大与党。それなのに解散? 常識的にはあり得ない。だが、決してないとは言えない。小沢ならやりかねない。こうした疑心暗鬼が永田町に渦巻き始めている。激動の政局が待っていることだけは確かである。
筆者:永田 三郎
最終更新:4月16日(金)7時00分
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