きょうのコラム「時鐘」 2010年4月17日

 本州最後の1羽がいた能登の空にトキが姿を見せたのは、うれしい出来事である。が、恋の相手を求めてさまよっているのだとしたら、気の毒な気もする

トキ、トキと大騒ぎしなさんな、という声が時折、耳に届く。人間サマの方がもっと大事だろうが、とおっしゃる。ごもっともである。トキの繁殖以上に、この社会の少子化対策の方がはるかに重要で、大問題である

いしかわ動物園で待望の繁殖が始まり、雌雄が交互に卵を抱いているという。近ごろは、父親も人前で赤ん坊を抱くし、おむつも換える。トキだけが、けなげに子育てに励んでいるわけではない。それに、あれはけなげさ以前の本能である

そうではあるが、連日のように幼児の虐待事件が起き、心が沈む折である。逮捕直後の高ぶりの中での供述であろうが、子の懸命な訴えを無残に踏みにじる振る舞いが次々と報じられる。ひょっとして子育ての本能まで、薄れてしまったのだろうか

いまさらトキに教わらなくても、生きることの大切さはわきまえている。数羽の鳥に、大騒ぎしなさんな。胸を張ってそう言えたならと、切実に思う。