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【正論】中国のインド洋進出を警戒せよ 田久保忠衛 (1/3ページ)
詰めて言えば、恐ろしいから「見ザル、言ワザル、聞カザル」で通してきたのだろう。5年前に、当時の前原誠司民主党代表が米国での講演で、中国は経済力を背景に軍事力を増強しているので「現実的脅威」になっている、と事実を述べただけで、民主党内で袋だたきに遭った。
中国には他国を攻撃する「能力」はあっても、侵略の「意図」はないなどと独裁者の心理を読む千里眼がこの党にはたくさんいるらしく、「中国を脅威と認識するものではない」との結論を出してしまった。国内からはさしたるブーイングも起こらなかったから、お国柄と称するほかない。
国境で軍の侵犯事件多発
しかし、日本人の大方が観ている国際情勢は夢想の世界であって、大西洋の舞台はとっくの昔に太平洋へ、さらに、がらりとインド洋へと回転しつつあるのではないか。すでに舞台の主役である中国とインドの間では熾烈(しれつ)なパワーゲームが繰り広げられている。中印間の貿易はどの程度増えたとか、両国間では合同軍事演習が行われてきたとか、首脳会談が何回開かれたといった建前の分析はそれなりに大切であるが、インドには中国の脅威を肌で感じ、「見たい、言いたい、聞きたい」の危機意識が朝野に溢(あふ)れている。
インドの核戦略家で国家安全保障会議(NSC)顧問でもあったブラフマ・チェラニー氏の発言を借りれば、インド東部のアルナチャール・プラデーシュ州(中国名は蔵南地区)では毎日のように中国軍の領土侵犯事件が発生しているし、インド洋では「真珠の首飾り」と称される中国の拠点づくりが着々と進行しており、さながら中国によるインド包囲網が形成されつつある。インド、中国、それに米国が加わって、インド洋は21世紀の大国によるパワープレーの主要舞台になるとの分析は昨年3月号の「フォーリン・アフェアーズ」誌のトップ論文で米ジャーナリストのロバート・D・カプラン氏が活写したとおりだ。