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【正論】異質中国との歴史研究のリスク 井上寿一 (1/3ページ)
2005年の近隣諸国の反日デモをピークとして、外交・政治・社会問題としての歴史教科書問題は、今では表面上ではあれ、沈静化している。このような状況のなかでこそ、本格的な議論を始めるべきではないか。以下では外務省のウェブサイトが公開している日中歴史共同研究の報告書を手がかりに考えてみたい。
多国間の国際関係の中で
すでにいくつかの新聞が報じているように、この報告書は、中国側の事情による戦後史部分の非公開、討議要旨の削除など、問題が多い。だからといって、放っておくわけにはいかない。専門家による今後の研究の進展に期待する、といった傍観者的な態度も無責任だ。事は私たちの歴史認識にかかわっているからである。
報告書の近現代史の部分は2部構成になっている。第1部は1920年代までの時期を扱う。注目すべきは次のような認識である。「この時期にはまだ多くの政策の可能性や選択肢が残されており、友好から敵対への転換点とすることは適当ではない」。この観点を生かすとすれば、今後は、たとえば日清戦争回避の可能性、あるいは第一次世界大戦後の日中協調関係の条件などを解明すべきだ。
その際に重要なのは、日中関係の歴史的な展開を2国間レベルに止めることなく、侵略−被侵略(加害−被害)の二項対立図式を超えて、多国間の国際関係のなかで分析することである。この時期の日中関係の「可能性や選択肢」が具体的に明らかになれば、それはこれからの日中関係に大きな示唆を与えるにちがいない。
検証の科学的方法の重要性
第2部は満州事変から太平洋戦争までの「戦争の時代」である。この部分に関しては、2点、言及したい。一つはいわゆる南京事件のことである。もう一つは戦争の社会変革作用についてである。
第1の南京事件はどのように記述しても、中国側からであれ、日本国内からであれ、何らかの批判は避けがたい、政治的な争点になりやすいテーマである。社会的な関心も高い。