池田信夫 blog

Part 2

2010年04月17日 01:26
IT

電波開放が日本経済を救う

きのうのシンポジウムでは、私の「FPUをやめてモバイルに割り当てるべきだ」という提案に、キャリアもベンダーも全員、賛成だった。総務省も「周波数委員会」では結論が出なかったので、新たにタスクフォースをつくって再検討するという。そんなわけで日本の電波を開放する機運が少し出てきたので、FCCのもっと過激な計画を紹介しておこう。

FCCは向こう10年で500MHz、5年間で300MHzを開放する計画だ。しかもその中身が具体的に決まっていて、特に周波数の削減計画が公表されているのには驚いた。中でも最大のターゲットは放送局で、120MHz減らす「命令」を来年にも出す予定だ。アメリカではテレビの90%はケーブルで見られており、使われていない中継局が多いので、それを廃止するだけで、かなりの帯域が浮く。

同様の勧告はこれまでも行なわれたが、放送局は抵抗してきた。それは日本のFPUと同じで、電波を浪費する機会費用がないからだ。しかし今度の計画でFCCは、電波利用料を創設すると同時に、余っている帯域を放送局が売却することを認めるよう求めている。これによって、電波を遊ばせておくより携帯業者に売ったほうがもうかるというインセンティブを与えようというわけだ。

実は10年前にも700MHz帯について同様の計画が立てられ、「複合オークション」なるものが設計されたことがある。当時、私はFCCでその論文を見せてもらったが、とても経済メカニズムとしては成り立たないものだった。それをオークション理論を使って整理した論文がIkeda-Yeである。これにはFCCのペッパー局長もレッシグも賛同してくれ、今回の計画にも「FCCが買い戻す」という方法が併記されている。

同じような手法は、日本でも可能だろう。地デジに確保されている帯域は240MHz=40チャンネルもあるのに、実際に使っているのは最大の首都圏でも7チャンネル=42MHzだから、中継局をSFNにして470~520MHzに集めれば、806MHzまでの280MHz以上を(ホワイトスペースではなく)完全に空けることができ、携帯の帯域は倍増する。このとき「引っ越し代」として地方民放の赤字を補填してやれば、彼らは喜んでチャンネルを動かすだろう。

映像インフラとして電波が不可欠でなくなった今日では、現在の地上波放送局は遅かれ早かれ消える産業である。総務省の仕事は地デジなどという時代錯誤の事業で彼らを延命することではなく、地方民放を「安楽死」させてモバイル産業に無線インフラを譲ることだ。その「痛み」をやわらげるために数百億円ぐらいの補償金を出しても安いものだ。それによって創造されるビジネスは数十兆円規模になり、日本経済を救うリーディング産業になる可能性もあるのだから。

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