長引く不況の中、安価で料理のボリュームが増すモヤシが全国的に売れ行きを伸ばしている。相馬市にある国内最大手の生産業者は毎年、前年比で2割増の生産が続く。炒めてよし、煮てよし、さっと湯がいてサラダにしてよし。使い勝手がよく、値段は200グラムで20円を切る商品もある。従来から欠かせない食材だが、最近ますます存在感を増している。【神保圭作】
ヨークベニマル(本社・郡山市)では09年度の販売実数が05年度比で8割増、売上高は3割増と好調だ。
ある平日の午後4時半。南相馬市原町区の「ヨークベニマル原町西店」の生鮮食品コーナーでモヤシが山積みされていた。「1パック(250グラム)28円」とチラシが張られ、安売りをアピール。近くに「もやし炒め」「醤油(しょうゆ)炒め」「麻婆(マーボー)もやし」など、モヤシを加えるだけで気軽に作れる料理のもとも置かれている。主婦らしい女性が次々とカゴに入れていた。
同店の高橋寿光青果マネジャー(29)は「主婦だけでなく、独身者や単身赴任者もよく買うようになった。手軽に調理できるのが人気の理由ではないか。料理の脇役から主役になりつつある」と話す。同社青果部バイヤー、国分和彦さん(45)も「この数年で、モヤシほど販売数が伸びた食材はない。消費者は生活防衛意識を高め、少しでも安い食材を求めているのではないか」と話した。
生産業者最大手が、「成田もやし」で知られる相馬市の「成田食品」。1952年に創業し、相馬市の本社工場のほか、栃木県真岡市と岐阜県大垣市に工場を持ち、1日約300トンを生産。全国の2割のシェアを誇る。佐藤信一郎専務(35)は「安いほど売れるため、不況の時こそ力を発揮する野菜だ。価格競争が激しい地域では一層安くなっている」と話す。
簡単でおいしい料理方法を佐藤ヨシエ副社長(59)に伝授してもらった。まずはてんぷら。水分が多いため不向きと思われるが、コウナゴや春菊とかき揚げにすると合うという。キュウリやカブと一晩塩に漬けると、一味違った漬物になる。1分程度ボイルしてゴマドレッシングで味付けすればサラダとしておいしい。佐藤副社長は「子供でも簡単に調理できる。いろいろ挑戦してください」と話した。
売れ行きは全国でも好調だ。大手スーパー「ダイエー」(東京都江東区)の09年の売上高は05年の2倍。特に原油高による生鮮食品の価格高騰やリーマン・ショックによる金融危機があった08年比では1・5倍。各店舗で売り場を広げ、品数を増やした。同社広報部は「天候や社会情勢に左右されず安定的に供給されるのが強み」と話す。
1日約100トンを生産する「サラダコスモ」(岐阜県中津川市)も毎年、前年比で2割増の生産が続く。総合企画室の宮地隆彰さん(42)は「量が膨らんで満足感が出るため喜ばれる」と話した。
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■ことば
総務省の家計調査によると、2人以上の世帯の年間消費量は05年の5510グラムから09年には6748グラムと1・2倍になった。全国消費者団体連絡会(東京都千代田区)の阿南久(ひさ)事務局長(60)は「不況を背景に、全国的によく売れている。安くて栄養があり、調理方法が多彩なところに消費者が魅力を感じている」と話す。
毎日新聞 2010年4月16日 地方版