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<7>ひとりぼっちと思わないで

「命守る」支援者も連携

(上)被害者の相談に乗るヴィスコの森さん(下)SACHICO設立に尽力する加藤さん

 岡山市の犯罪被害者支援団体「VSCO(ヴィスコ)」専務理事の森陽子さん(60)には、忘れられない少女がいる。

 自宅で同級生から強姦(ごうかん)の被害に遭った中学1年生。2006年秋、母親からの依頼で初めて対面した。カウンセラー歴を積んできたが、「最近の子はこんな感じなのかな」と戸惑った。取り乱す様子もなく、淡々として見えたからだ。

 しかし、少女は家出や自傷行為のリストカットを繰り返すようになった。連絡を取り続け、やんわりと精神科の受診を勧めてもみたが、「私は弱くない」と嫌がった。

 2年後、家出先で睡眠薬を飲み、亡くなった。死因はショック死。15歳だった。

 苦しみの深さに気づけていたら――。以来、「見えない奥底の傷もくみ取れるようになりたい」と願い続けてきた。

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 犯罪被害者保護法成立から10年。性犯罪では、告訴期限(6か月)の撤廃、集団強姦罪の新設、事件直後の感染症検査や避妊措置の公費負担などが進められてきた。

 しかし、お茶の水女子大の戎能(かいのう)民江副学長(法女性学)は指摘する。「性暴力で仕事や安心できる家を失った人への公的支援は、なきに等しい。医療・精神面をケアする専門的な受け皿も足りない。社会が議論を避けてきたからだ」

 そんな「壁」に立ち向かい、森さんら25人のスタッフは日々、奔走している。

 自宅で襲われた女性が公営住宅に転居できるよう、自治体にかけあう。通院や、事情聴取の行き帰りに付き添う。商店街で募金活動をし、精神科の受診費用などを支給する独自の基金も設けた。

 「大切な命をもう失いたくない」と森さん。「DV(家庭内暴力)もセクハラも、見向きもされない時代があった。実情を訴え続ければ、社会はいつか受け止めてくれる」

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 医療関係者も動き始めた。4月、阪南中央病院(大阪府松原市)内に、全国初の総合支援窓口「性暴力救援センター・大阪(SACHICO)」が誕生する。

 女性支援員が24時間、SOSの電話を受け、寄り添う。外来とは別に、専門の待合室や診察・面談室を設け、精神科医や弁護士にもつなぐ。必要なサポートを一か所の窓口で提供する仕組みだ。

 「女性の一生を診る医師として、性暴力の問題は避けて通れない」。センター準備室長の加藤治子さん(60)は、同病院の産婦人科医として長年、勤務する中で、そう思い続けてきた。心身の早い回復には初期対応が重要だが、一人で悩んだ末、心の傷が深くなってから来院する人も少なくない。専門家が連携し、「被害者のための場所」をつくろう、と呼びかけた。

 「置き去りにされてきた被害者のために、まず旗を立てたい。そして『ひとりぼっちと思わないで』と伝えたい」

 旗の下には今、支援員希望者36人が集う。

2010年2月19日  読売新聞)
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