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【櫻井よしこ 鳩山首相に申す】中国死刑執行に物申せ (2/3ページ)
今回の事例を見てみる。赤野死刑囚は1審の大連市中級人民法院で死刑判決を言い渡された後、控訴した。控訴理由のひとつに、取り調べ通訳が正式な通訳資格を保有していない点が挙げられている。
中学時代の同級生らが、赤野死刑囚が公正な裁判を受けられるようカンパを募り、側面援助に動いたが、その一人が、赤野死刑囚が「取り調べや裁判で、中国人通訳が自分の意思を正確に伝えてくれていない」と話していたと語っている(『朝日新聞』4月6日夕刊)。
同級生らは、また、集めた資金で2審の弁護を中国人弁護士に依頼した。この弁護士との接見が許されたのはたった1度だったとも報じられている。
薬物犯罪が重大な犯罪であることは十分に承知しているが、そもそも、現代社会では薬物犯罪者への死刑適用の是非が問われている。人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の土井香苗代表は、中国は65種の犯罪に死刑を適用しており、汚職など、人命を奪ったわけでもない犯罪を含めて、このように多種多様の罪に死刑で対処する国は、「世界で例外的存在」だと非難する。
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中国政府が情報を開示しないために詳細の把握は困難を伴うのだが、「アムネスティ・インターナショナル」などの報告によると、中国は紛れもない死刑大国、それも超大国である。2009年の全世界の死刑は714人、内訳はイランが少なくとも388人、イラクが少なくとも120人などである一方、中国は3千人から1万人の処刑を行ったとみられる。全世界の死刑執行数の14倍規模の処刑を、一国で行っているのである。
鳩山首相は、声を嗄(か)らして「いのち」を連発した。その言葉に一片の真実が含まれているのであるならば、中国のこのすさまじい人権侵害、いのち軽視の無残さに、なぜ、真剣な抗議の言葉のひとつも口にしないのだろうか。