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【櫻井よしこ 鳩山首相に申す】中国死刑執行に物申せ (3/3ページ)
答えは明らかだ。首相のいのちへの誓約が、政治家としていまだ一度たりとも責任を全うしたことのない病的な未熟さから生まれた情緒的言明以上のものではないからである。
首相は中国には中国の法律がある、それを尊重すべきだと語っている。たしかにひとつの理屈である。だが、法律だからといって、中国政府の定めた法律に日本国政府が無条件に従ってよいものか。
たとえば1992年2月25日に、中国が突然作った法律が「領海法」である。同法で、中国は尖閣諸島も南沙諸島も西沙諸島もすべて中国領だと宣言した。東シナ海について、領海法施行の3年前に明らかにされた「公民国防義務ハンドブック」には、「東シナ海の大陸棚は(他国と)共有するものではない。われわれの大陸棚は沖縄海溝(沖縄トラフ)の中心線まで伸びている」とも書かれている(平松茂雄『中国の海洋戦略』勁草書房)。
この法律が明らかにされたとき、マレーシア政府は直ちに領海法から南沙諸島を削除するよう要求し、「たとえ敗北しても国益を守るためには戦わなければならない」という軍参謀長談話も合わせて発表した。
中国は、しかし、マレーシアの抗議を無視して我関せずを通した。ベトナム、フィリピンの抗議も歯牙にもかけなかった。周辺諸国が領有していた島々を軍事力で奪い、辻褄(つじつま)合わせに国内法を作った。他国に所属していた島々を中国領とする根拠に、その法律を使っているのである。中国の法律におとなしく従うということは、こういうことを許し、受け入れるということだ。
法律といえばもうひとつ、2005年3月に発表された反国家分裂法を見よ。台湾独立へのいかなる動きも、国家分裂の動きとみなして、これを「絶対に許さない」「いかなる外国勢力の干渉も受けない」、必要なら「非平和的な方式」つまり、軍事的手段を「実施に移す」とする内容だった。
中国の法律だから受け入れるというのでは、中国の台湾併合も受け入れるということか。
覇権主義と独善性を絵に描いたような中国の国内法を尊重するなどという愚かなことは、日本国首相であれば口にするものではない。中国の国内法を尊重するというのであれば、すべての法の根拠となるはずの、中国の憲法は、「人権の尊重」も「言論、出版、集会、結社、行進、示威の自由」も保証している。その「立派な憲法」をこそ、守ってほしいと言うべきであろう。
罪を犯したとはいえ、十分な審理を受けたとも、十分な陳述の機会を与えられたとも思えない日本国民のために、日本国の首相として、とりわけいのち大事の首相として、中国に物を言わずにどうするのだ。