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転換期の安保2010:普天間移設、迷走 米軍再編、韓国が注視

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題の迷走を、海を隔てて見つめる目がある。北朝鮮と対峙(たいじ)する韓国。ひとたび「朝鮮半島有事」となれば、海兵隊など在沖縄米軍の存在意義は大きい。在韓米軍の役割変化、規模縮小の流れの中で広がる日米同盟のひずみに、自国の安全保障への影響を懸念する。【「安保」取材班】

 ◇北朝鮮と対峙「沖縄いれば心強い」

 北緯38度線に近い韓国抱川(ポチョン)にある駐韓米軍ロドリゲス射撃場。3月12日、迷彩服を着た沖縄海兵隊・第31海兵機動展開隊の隊員とともに、韓国軍海兵隊員が「市街地」を想定したブロック塀の間を駆け抜けた。

 毎年恒例の米韓合同軍事演習「キー・リゾルブ」「フォール・イーグル」の一場面だ。この演習のテーマは「敵の捜索」。米海兵隊のドラン伍長は米軍準機関紙「スターズ・アンド・ストライプス」に「韓国軍は市街戦訓練をしていない。こうした演習が必要だ」と語る。

 「沖縄の海兵隊は北朝鮮の体制崩壊時、核兵器を速やかに除去するのが最重要任務」。米太平洋海兵隊のスタルダー司令官は認める。演習のたび沖縄から派遣される海兵隊は大きな役割を演じる。

 その合同演習の規模は縮小傾向にある。冷戦の終結、さらには北朝鮮の核問題解決を目指す米朝対話が始まって以来、米韓は北朝鮮を過度に刺激しないことで一致する。

 2月、オバマ米政権が発足後、初めて出した「4年ごとの国防政策見直し」(QDR)は在韓米軍の在り方を再考する機会を韓国国民に提供した。韓国を従来の「対北最前線」の位置付けから、兵士が家族と暮らす「駐屯地」へと変えていく方針を確認したからだ。

 今回のQDRは、冷戦後の米国の基本方針だった「二正面作戦」(二つの地域戦争に同時に対処する方針)を捨てた。イラク、アフガニスタンと二つの戦争で米国は疲弊している。「地球上、どこでも起こり得る戦争」に対応するため、在韓米軍も例外ではない。他の戦地へ兵士を派遣する「プール」にする考えだ。

 北朝鮮情勢は依然、見通せない。朝鮮半島有事の際、在沖縄米軍の位置づけは高まる。韓国国防省のシンクタンク・国防研究院の宋和燮(ソンファソップ)研究委員は「米軍が普天間にこだわるのは『将来何が起きるか分からない』と考えるからだ。北朝鮮内部で混乱が起きるかもしれない。距離の近い沖縄に米海兵隊がいるのは韓国として心強い」と語る。

 「軍だけでなく国家の問題として検討している」。金泰栄(キムテヨン)国防相は4月8日、国会で有事の作戦統制権について答弁した。04年に在韓米軍削減計画が決まり、米韓は現在、米韓連合軍司令官(在韓米軍司令官が兼務)に属する作戦統制権を12年までに韓国へ完全移管することで合意している。

 だが、2年後の統制権移管は適当か、米側に維持してもらうか、政府内にもさまざまな意見がある。金国防相の慎重な表現は在韓米軍の役割の変化とともに、普天間問題の迷走が無関係ではないとの見方も強い。米軍再編の波に巻き込まれていく韓国の不安がのぞく。

 韓国・中央大の金泰〓(キムテヒョン)教授(外交政治)は懸念を示す。「日米韓3カ国は事実上の三角同盟体制。その一角の日米同盟が崩れれば、朝鮮半島の急変に対応する能力は間違いなく低下する」

 ◇「韓国民は米統治が望み」--69年、在ソウル大使館の機密公電

 韓国にとって、沖縄に駐留する米軍の重要性は朝鮮戦争(1950~53年)以降、ずっと変わらない。

 「すべての韓国国民は、沖縄が米国の統治下にあり続けることを望んでいる」。69年3月。3年後の沖縄返還に向け、韓国外交筋などの反応を報告する在ソウル米国大使館の機密公電の一部だ。当時のロジャース米国務長官あてだった。

 西南女学院大学の菅英輝教授(国際政治)が米公文書館から入手した。「沖縄返還は避けられないと見る一方で、韓国側は米軍による基地の自由な使用と核兵器貯蔵の自由だけは確保し続けなければならないと考えている」との分析もある。

 沖縄返還をめぐって、当時の佐藤栄作首相は「核抜き本土並み返還」との対米交渉方針を打ち出していた。だが、沖縄から核兵器が除去され、朝鮮半島有事の際に沖縄の基地使用が制限される事態になれば、韓国の安全保障は大きく揺らぐ。「(韓国の)識者たちは『沖縄が韓国の安全保障のカギを握っている』とみる」。公電はこう報告している。

 米国は当時、ベトナム戦争で泥沼状態にあった。同じ年の7月、ニクソン大統領が同盟国に核抑止力は提供し続けるものの、アジアでの通常戦力の削減を表明する「ニクソン・ドクトリン」を発表した。米国が関与を減らす事態は日本再軍備への不安もかきたてた。菅教授は「当時の韓国や中国の懸念は在日米軍再編が進む中、日本が独自に安全保障上の役割を追求すること。公文書を読めば、米国も軍事大国化や核武装の懸念から、日本にどこまで安全保障上の役割を担わせるか方針を決められていなかった」と分析する。

 それから約40年。韓国外交安保研究院の尹徳敏(ユンドクミン)教授は「普天間移設問題を契機に『自主防衛』や『憲法9条改定』の声が日本国内で高まれば、日本の将来の路線がどうなるか心配だ」と日本の軍事大国化を懸念する。「普天間」はじめ米軍再編問題がもたらす波紋。隣国・韓国は40年後の日米同盟の行方を不安を抱えながら見守る。

毎日新聞 2010年4月15日 東京朝刊

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