コラム

2010年04月09日号

【ここが問題】
政治資金規正法違反で小沢氏の不起訴、月内にも結論、東京第5検察審査会の判断のポイント


●産経新聞配信記事
 産経新聞は9日、「小沢氏関与、どう判断 規正法違反で不起訴 検審、月内にも結論」という見出しで次の記事を配信した。
 民主党の小沢一郎幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる政治資金規正法違反事件で、東京地検特捜部が小沢氏を不起訴処分としたことの是非を検討している東京第5検察審査会(検審)の審査が、大詰めを迎えている。捜査を担当した検事から意見聴取を行うなど審査を本格化させており、一般国民から選ばれる審査員の約半数が4月末で入れ替わることからも、月内にも議決が出る公算大きくなっている。
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 特捜部は2月4日、陸山会が平成16年10月に東京都世田谷区の土地を購入した際、土地代金の原資4億円を収入として政治資金収支報告書に記載しなかったなどとして、衆院議員の石川知裕被告(36)ら小沢氏の現・元秘書3人を規正法違反罪で起訴。石川被告の共犯として告発されていた小沢氏については「共犯として有罪判決を得るだけの証拠はない」として嫌疑不十分で不起訴とした。

 これに対し、東京都内の市民団体が2月12日、小沢氏を起訴するよう検審に申し立てを行い、検審が不起訴の是非を審査している。

 検審は特捜部から事件の記録の提出を受け、審査を開始。記録には土地代金の原資4億円を収支報告書に記載しないことを小沢氏に相談、了承を得ていたという石川被告の供述調書や、虚偽記載への関与を否定した小沢氏自身の供述調書も含まれているとみられる。

 検察審査会法に基づき、検審は担当検事から説明を聞くことができる。関係者によると、今月6日には、特捜部検事が小沢氏を不起訴にした理由や、提出した証拠について説明したという。検察幹部は「小沢氏の関与を認めた石川被告の供述調書が一般国民である審査員にどう評価されるかがポイントになるだろう」と指摘している。

 検審の審査員の任期は6カ月で、2月、5月、8月、11月に、11人のうち約半数が入れ替わる。小沢氏の不起訴処分を検討する東京第5検審では6人の任期が4月末となっている。このため「新しいメンバーに替わると、記録を一から整理し検討し直さなければならない。通常は任期までに審査を終えるケースが多い」(検察幹部)といい、小沢氏への民意による判断は4月中にも出されるとの見方が強まっている。
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 ■過去2度の強制起訴
 政権与党では鳩山由紀夫首相側の政治資金規正法違反事件に続く、小沢一郎幹事長側の「政治とカネ」の事件。昨年5月の改正検察審査会法の施行で、起訴権の行使に民意を反映させるため、強制起訴ができるようになった検審の判断に注目が集まっている。

 検審では有権者の中からくじで選ばれた11人の審査員が不起訴の是非を検討し、「起訴相当」「不起訴不当」「不起訴相当」のいずれかの議決を出す。起訴相当は8人以上、不起訴不当と不起訴相当は過半数の議決が必要で、起訴相当か不起訴不当の議決になれば検察官が再捜査し、処分を再検討する。

 起訴相当の議決を受け、再び検察官が不起訴にしたり、3カ月以内に結論を出さなかったりした場合は検審が2度目の審査を行う。再び起訴相当の議決をした場合、法改正前は検察官がさらに不起訴にすると起訴されることはなかったが、改正後は裁判所が選ぶ「指定弁護士」が強制的に起訴することができるようになった。

 一方、1度目が不起訴不当だった場合は、検察官が処分を再検討するものの、不起訴となれば検審は再審査をすることはできない。

 また、同法35条には検審の要求があるときは検察官が必要な資料を提出し会議に出席して意見を述べることが義務づけられている。ある検察幹部は「審理の終盤で検察官の意見聴取が行われることが多い」と話しており、検察官への意見聴取が行われれば議決が近いとの見方がある。

 改正法施行後、兵庫県明石市の歩道橋事故で明石署元副署長が、同県尼崎市のJR福知山線脱線事故でJR西日本の歴代3社長が、検審の2度の起訴相当議決を経て強制起訴されることが決まっている。

●本誌編集長の捉え方
 佐久間東京地検特捜部長は小沢氏を不起訴にしたことについて「共謀には共犯者の行為を通じて自らの犯罪をする意思が必要。共犯として有罪を得るだけの証拠が足りなかった」と説明している。

 検察側は石川被告から「土地代金の原資4億円を収支報告書に記載しないことを小沢氏に相談、了承を得ていた」という供述を引き出したが、小沢氏を共犯と認定するのには「小沢氏からの積極的指示、了承した細かい場面」の供述が必要だが、とれなかった。検事の検審に対する説明もこの範囲で行われたと見る。

 しかし、考えてほしい。石川被告から「小沢氏からの積極的指示、了承した細かい場面」の供述などとれるはずはない。議員秘書の最大の任務は議員が刑事責任を問われないようにすることであるからだ。これは議員秘書の「行動原理」である。これまで国会議員が相当数起訴されたが、秘書の供述によって秘書の共犯に問われた国会議員は1人もいない。

 石川被告らに対する起訴事実は、「小沢氏の用意した土地代金の4億円の陸山会の収入を隠すため、虚偽の記入を重ねた」というものだ。

 特捜部は小沢氏を被疑者として取り調べている。

 検事は石川被疑者から、真実を引き出すのが職務、「土地代金の原資4億円を収支報告書に記載しないことを小沢氏に相談、了承を得ていた」という供述を引き出した。その際、攻める検察側が考えることは次のことだ、と私は思う。

 《石川被告と使用者である小沢氏の間には、「会計担当秘書たる者は、土地代金の4億円を受け入れるに際しては、小沢氏に指図されて動くのではなく、その気持ちを酌んで自分の器量で自分が責任をとれるやり方で会計担当の役を果たすものであるという共通の認識があった」というのが》私の常識である。

 そもそも、陸山会の会計で手数料も加えて4億近い土地を購入すること自体が、おかしいのだ。小沢氏の用意した金で小沢氏個人が土地を購入すれば何の問題もなかった。

 それを小沢氏が土地代金の4億円を用意し、その金を陸山会に貸し付け、それで土地を購入したが、「土地代金の原資4億円を収支報告書に記載しないことを小沢氏に相談、了承を得ていた」ので「小沢氏の用意した土地代金の4億円の陸山会の収入を隠すため、虚偽の記入を重ねた」。この流れに不自然、不合理さを感じない人は少数だと思う。そして、その結果、3人の秘書、元秘書が政治資金規正法違反に問われているが、使用者はお構いなし。使用者は『(検察の捜査によって)不正をしていないことが明らかになった』と説明している。3人の秘書、元秘書に不正があったから、裁判にかけられているのではないか。いくら推定無罪の原則があるといっても、度がすぎていると私は思う。最近会った大学教授は「鳩山さん、小沢さんのことを学生に何と講義して良いか、頭を痛めている」と言っていた。こういう先生は高校、中学にも多いのではないか。「小沢さんの言っているのが正しい。鳩山さんは悪くないんんだ。秘書が悪かったんだ」などと教えられる筈はないと思うからだ。

 さて、東京第5検察審査会の審査のポイントだが、ポイントは《小沢氏と石川被告の間で前述の共通認識があって、石川被告が『小沢氏の用意した土地代金の4億円の陸山会の収入を隠すため、虚偽の記入を重ねた』と評し得るか、どうか、である。ここをよくよく審査してほしい。石が浮かんで木が沈むような審査はしないでほしい。

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