2010年4月15日0時10分
現政権が、経済活動に大きな影響を与える会社法の改定や上場会社の情報開示の強化に向かっている。
取りあえず問題なのは、上場会社の役員報酬が1億円以上の場合は、氏名と額の開示を求めた3月末の内閣府令改定である。
これが改正か改悪かは、同様の改定を行った米国の例が参考となる。米国の経営者の平均年俸は、1976年では従業員の30倍程度であったが、90年には約100倍となった。
そこで、経営者の年俸を公表すれば、抑制効果が上がるだろうと考えた米政府は、92年に詳細な開示義務を課した。その結果格差は一時的に縮小したが、その後は以前よりも更に大きく開いてしまった。つまり、この制度改革は、経営者の嫉妬(しっと)に火をつけ、強欲を解き放ち、経営者間の報酬競争をあおってしまったのである。
古今東西、美徳や悪癖も含め、人の性(サガ)に差異はない。わが国の経営者報酬が、欧米に比べ著しく低いのは、廉恥と嫉妬という正邪の天秤(てんびん)が強欲を抑えてきたという歴史的経緯があるのに過ぎないのである。
日本郵政の先祖返りや、日本航空の救済で示されたように、現政権は市場資本主義よりも官僚支配の国家社会主義に回帰するという、歴史の歯車を逆回転させる行動に出ている。役員報酬の個別開示という処置は、社会主義的発想だろうが、制度設計に失敗する例は、この国の行政では常態である。
もともと三流と言われ続けたこの国の政治だが、それに輪をかけて経済オンチの現政権が、少数与党の党首に振り回され、強欲資本主義のふたを開けるような冒険主義に走るというのは、摩訶不思議(まかふしぎ)というしかない。(匡廬)
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「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。